私の進むべき道を見つけたよっ!
「これほどの武器を作ったんだ。ギルド追放の悪評なんて、あっという間に消えちまうはずさ」
カレルは完成したロッドをポンポンっと叩きながら、「自信を持っていいと思うぞ」と私に言った。
「さっそく攻略グループに、レンカのエレメンタルウェポンを自慢しちゃうよ! 明日には『炎の工房』のギルマスたち、真っ青になってるんじゃないかな」
ユリナもクスクスっと笑っている。
「あはは、だといいけれど。これで少しは、ぎゃふんと言わせられるかな」
こっちの弁明をまったく聞かずに、一方的に追放したんだ。もしもカレルとユリナに出会えていなかったら、私はきっと、そのまま『精霊たちの憂鬱』を引退していたと思う。
だからこそ、彼ら『炎の工房』の上層部には、それなりの報いは受けてもらわないと私の気が納まらない。
ここから、私の逆襲が始まるんだから!
☆ ★ ☆ ★ ☆
翌日――。
私は工房の机に突っ伏しながら、お客さんが来るのを待っていた。
さすがに昨日の今日じゃ、まだ私の精霊武器の話は広まっていないよね。残念だけど、悪評が消えない限りは、お客さんはまず来ないだろう。
というわけで、今、工房は閑古鳥が鳴いている。別に、悲しくなんかないんだからねっ。
と、そこにどたどたと派手な足音が響きわたり、バンっと工房入り口のドアが勢いよく開かれた。
「おい、レンカ! お前、すごい武器を作ったんだって? 攻略組の間で評判になっているぞ」
おやおや、噂をすれば何とやら、『炎の工房』のギルドマスター様がわざわざいらっしゃいましたよ。
まったく、いい性格をしている。いったいどの面下げてやってきたんだか。あんた、私にどんな態度を取ったのか、まさか忘れたってわけじゃないよね。
「あら、上位生産者ギルド『炎の工房』のギルドマスター様ではありませんか。こんな失格鍛冶屋の工房へ、何か御用でしょうか?」
私は精いっぱいの嫌味を込めて、ギルドマスターをにらみつけた。
「い、いや……、なあに、先日の追放処分、あれは手違いだったんだ。処分の取り消しが決まったから、レンカに戻ってもらおうと思ってね」
ギルドマスターは一瞬たじろいだものの、すぐに白々しい言い訳を始めた。
すぐにわかる嘘をつくのは、はたから見ていてすごく間抜けだからやめたほうがいいと思うよ。まぁ、そんな助言をしてやる義理もないけどね。
ギルドマスターが手元でシステムコンソールパネルを操作し始めた。すると、私の目の前に、ギルド加入申請ウィンドウがパッと開く。
ていうか、ほんと、バカにしないでよね。そんな態度をとられて、今更戻ろうだなんて思うわけないじゃん。カレルたちのおかげで私の評判も広まるだろうし、もうソロでもやっていける。それに、カレルたちが専属で使ってくれるって話もあるんだ。
「あら、ごめんなさい。私、どのギルドにも入るつもりはないの」
あんたたちなんか、こっちからお断りなんだから。ふざけなさんなって。
私は申請ウィンドウに表示された拒否ボタンを、ためらうことなく押した。
「おいおい、何を拗ねているんだよ。あんなの、ちょっとした行き違いじゃないか」
拗ねているって……、なんて上から目線なんだろう。あー、むかつくむかつく。こいつって、こんなに腹の立つ奴だったっけ。これでよくギルドマスターなんてやっていられる。
「行き違い? 私にとっては、このゲームを続けようかやめようかと悩む程度には、大きな問題だったんだけど。小娘だからって、あんまりバカにしないでほしいな」
ギルドマスターはおそらく二十代半ばくらい。十五歳の私なんか、ただの子供にしか思えないんだろうな。それでこの上から目線だよ。まったく、空気読みなよって感じ。
「そういうなよ。レンカだってギルドに入っていないと、いろいろと不都合があるだろ?」
ニタニタと笑いながら、「素材の値引きなしでやっていけるのか?」なんて口にしている。
「おあいにく様、私はこれから、カレルのパーティーの専属になるつもり。併せて、私もギルドを立ち上げるから」
素材はカレルたちから割のいい値段で卸してもらえる話がついている。いまさら『炎の工房』に頼らなくても、どうとでもなりそうなんだよね。
それに、私と同じように、直近で急に精練成功率が下がり、ギルドを追放されていた生産職が複数いることを知り、声をかけてみた。状況を考えると、たぶん、私と同様に特殊な霊素を持つがゆえに、成功率が下がっていたんじゃないかなって思う。
彼らに精霊武器の作成について説明し、一緒にギルドを作って精霊武器専門の鍛冶師にならないかと誘ったら、みな二つ返事で同意した。
そこで、私がギルドマスターになって、カレルたちのパーティーの専属生産ギルドという形で、新規結成しようって話になったわけなんだ。
「ちょ、何だよそれ。バカな真似はよせ。こっちに戻って来いよ。生産ギルド同士、争っても利はないぞ」
さすがに予想外の展開だったのか、ギルドマスターは焦り始めた。
「別に、あなたたちと張り合うつもりはないよ。こっちはこっちで勝手にやらせてもらう。私たちは精霊武器を専門にするつもりだから、きっと需要がバッティングすることもないだろうしね」
『炎の工房』の一般ギルド員には、別にこれといって悪感情があるわけじゃない。ギルド自体を潰してしまえだなんて、さすがに考えてはいないよ。
「ただし、あなたたち『炎の工房』の幹部クラス連中とは、今後一切、話し合う気はないからね」
でも、幹部連中だけは別だ。あいつらが私にしでかした仕打ちの落とし前は、きっちりつけてもらうんだから。
「はいはい、お帰りはこちらだよー。冷やかしのお客様は、さよーならー」
私はギルドマスターの背を無理やり押した。
「お、おい。まだ話は終わって――」
「ざんねーん、あんたはこの工房出禁ね。バイバーイ」
ギルドマスターの言葉を途中で遮って、私は無理やり彼を工房の外へと追い出した。
まだブツブツ文句を言っているギルドマスターの背に向かって、私は盛大に塩を撒く。
お清めお清め。二度と来るな、バーカ。
私は手をパンパンっと払い、付いた塩を落とした。
「ふぅ……。あー、すっきりした」
「レンカ、なかなかやるじゃない」
私は突然声をかけられて驚き、びくっと体をこわばらせた。ゆっくりと声のした方へ顔を向けると、ユリナがにやにやと笑いながら立っている。
「げげっ、ユリナ。もしかして見てた?」
ユリナは笑顔でうなずいた。
うそー、マジですかー。恥ずかしすぎる。
「でも、それでこそレンカって感じがするぞ」
ユリナの後ろから、今度はカレルが姿を現す。
あちゃー、カレルにまで見られていたよ。
……でも、まぁいいかな。これが私らしいって言ってくれているし。人間、自然体が一番だよね。
「おかげさまで、ここ数日の嫌な気分もすっかり払しょくできたよ。これで気分一新、鍛冶に取り組めるかな」
まさに、憑き物が落ちたって表現がぴったりくる。新生レンカ、今ここに現れりってね。
「カレルの仲間の精霊武器制作も、近々やるんだっけ? もう、どんどん持ってこーいって感じだよ。よーし、腕が鳴るぞー」
私は腕をまくり、「お任せあれっ」と言い放った。
「じゃあ、後日、ゲイルとミリアを連れてまた寄らせてもらうよ」
私のしぐさにカレルは微笑を浮かべながら、隣に立つユリナに目配せをする。
ユリナはうなずいて、「じゃあ、レンカ。またね」と別れのあいさつを口にし、カレルと連れ立って工房を後にした。
「はーい、お待ちしていまーす」
私は勢いよくブンブンと手を振って、カレルとユリナを送り出した。
そのまま、ユリナと並んで歩くカレルの後姿を、人ごみに紛れて見失うまで、私はじいっと見つめ続けた。
――ありがとう、そしてさようなら、私の初恋。
これでレンカの物語は、一応の完結です(もしかしたら、本編最終盤で出すかもしれませんが)。
本編とは異なり不慣れな一人称で書いてみたのですが、はたしてこんな感じでよいのか手探り状態です。
その点も含め、今後のためにもぜひ評価・感想・ご意見をお待ちしております。
いろいろ改善できるところは、改善していきたいです。
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
引き続き、本編もよろしくお願いいたします。