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#30 魔女グッズ専門店

あれから2週間経った。


フレッドのやつ、あのあとアンリエットさんとメールで連絡を取り合う仲になっているらしい。


そういえば、アンリエットさんってスマホ持ってたっけ?と思ったのだが、なんとフレッド中尉が買ってあげたらしい。


おかげで、宇宙港女子会や、マデリーンさんが作った魔女の会とも連絡を取りあえるようになった。


なお、コルネリオ家では電化が進んでおり、すでに自動調理機、掃除機、洗濯機などは揃っているらしい。おかげで、スマホの充電でも困ることはないようだ。


ただし、アンリエットさんが男爵の留守中に宇宙港の街に出かけていることがばれたそうで、こっぴどく怒られたらしい。ただし、怒られた理由が、街に行ったことではなく、黙って出かけたことだったようだ。街に出かけることには、別に反対ではないとのこと。


このため、週に一度お出かけの許可を得て来るようになった。意外にあの男爵、進んだ感性をお持ちの方のようだ。


ということで、毎週日曜日にフレッド中尉と会う約束をしているらしい。先週もゲームコーナーに行って盛り上がってたようだ。


ところで、アンリエットさんが魔女であることを、フレッド中尉はどう思ってるのか?


「ああ、面白いよ、彼女の魔法。ものが浮かせられるなんて、空を飛ぶよりも新鮮で面白いと思うよ、俺は。」


実際、アンリエットさんにもそう言ったらしい。正直なのは結構だが、すごいとか信じられないくらいの言葉をかけてあげられないものか?


ちなみに、マデリーンさんのような一等魔女でも、二等魔女と同様に手に触れたものを浮かすことはできる。実際、ゴミの日のゴミ出しをする時に、マデリーンさんはゴミ袋を浮かせて運んでいる。


さて、今週もまた休日がやってきた。だが、今週はいつもの週末とは違う。


閉塞感のある我々夫婦の巡回コースを変えるかもしれない、新たな店がショッピングモール内に開店するのだ。


それは「魔女グッズ専門店」だ。


チラシアプリで見つけた時は、思わず二度見した。いったい、何が売ってるんだろうか?気になる。


本日開店のこのお店、私とマデリーンさんは、早速行ってみることにした。


そのお店はこのショッピングモールの3階の、フードコートの裏のあまり人気のない通路沿いにある。


そのお店に行くと、真っ黒な看板が掲げられていて、おどろおどろしい雰囲気の店構えだった。なんだこれ?確かに魔女らしいお店だが、ここに住む魔女よりは我々が従来抱いていた魔女のイメージのお店だ。


「な…なんだかちょっと怖そうなお店ね…」


王国最速の本物の魔女を怖がらせるとは、たいしたお店だ。


せっかく来たので、中を覗いてみることにした。


まず目に飛び込んで来たのは、ハーブやお香の類。これを炊く香炉が並ぶ。


その横には石がある。パワーストーンの類だ。恋愛、呪い、事業成功祈願などの石がある。


あれ?これって、魔女関係なくない?まるで占いグッズや、アロマテラピーのお店のようだ。


などと考えていたその時、店員が現れた。


「いらっしゃいませ!どのようなグッズをお探しですか!?」


妙に暗い雰囲気のお店に、変に明るい店員の登場だ。


黒服にとんがり帽子、先端に星がついたスティックを片手に持つ、少々痛い格好の女性店員。


「本日開店の魔女グッズ専門店!男性の方も大歓迎ですよ!1週間限定で、上司の呪いグッズが半額…あれ!?ま、マデリーン様!?」

「へ?私?」


店員が突然、うちの魔女の名を呼んだ。


すでに有名人だし、ここは魔女グッズ専門店、知らぬはずがないだろう。この王国最速の魔女、マデリーンさんを。


「あ、あの!私!マデリーン様に是非お会いしたくて、この星にやって来たんです!まさか開店初日に会えるなんて…夢みたいです…」


感激のあまり、泣き出してしまった店員さん。なるほど魔女好きだということは、よく伝わってくる。だが、マデリーンさんを見て泣きだすとは…


「ええと、店員さん?魔女グッズ専門店だというから、マデリーンさん共々来ちゃったんだけど、何かお勧めのもの、あります?」

「は、はい!ありますよ!宇宙一の魔女、マデリーン様にふさわしいグッズも取り揃えております!まずはこちら!」


なにやら大きな釜を持ってきた。


「魔女の祭壇に欠かせない鉄の釜です!鋳鉄製で、どんな植物、動物でも煮ることができます!ご家庭の料理にもお使いいただけますし、インテリアにも使えます!あとこの剣や香炉といった、魔女の七つ道具と組み合わせれば…」

「うえっ…私、そんな儀式やらない…」

「ええっ!?魔女って儀式しないんですか!?」


私も似たようなことをマデリーンさんに尋ねたことがあるが、ここにいる本物の魔女はそういうことをやらない。


「で…では、こんなのはいかがでしょう?このブレスレットなんですけど…」


ピンクや白、緑、黒の石がついたブレスレットだった。


「わあ、きれい!」

「でしょう?精霊を呼び寄せる魔法の石で、仕事や恋愛で活躍してくれるブレスレットですよ。この白いのは天使を、この黒いのは悪魔を呼び出してですね…」

「ええっ!?悪魔を呼んじゃうの!?要らないわ、そんなの。」


悪魔はまずいだろう。魔女って、やっぱりそういうイメージなんだろうか?


「あ、あとですね、この魔女用衣装なんかも豊富でして…」

「…帰ろうか。」


マデリーンさんが呆れて私に言う。魔女がドン引きするグッズばかりでは、さすがのマデリーンさんでも見限るだろう。


「あわわ、分かりました!とっときのやつ、持ってきます!ちょっとだけお待ちください!」


そう言って店員さんは店の奥に何かを取りに行った。


どうせたいしたものは出てこないだろう。でもまあ、ちょっとだけどんなものか、見ていこうかな。


店員さんが戻ってきた。持ってきたのは、棒のようなものだった。


これを見た私とマデリーンさんに、緊張が走る。


これは、地球(アース)401の重力子研究施設で、一等魔女の力を最大限に引き出すために最適化された形状の魔女用スティック。マデリーンさんがビルの上にいるアイリスさんを助けた時に乗っていたスティック、あれと同じものだ。


軍事機密の類ではないが、あの場にいた数人しかその存在を知らない魔女用スティック。それがなぜ、この店にあるのか!?


「…重力子研究の第一人者である地球(アース)001の研究員が編み出した、一等魔女最強のグッズ、魔女に最適化された飛行用スティック。この宇宙でたった2人しか所有していないはずのこのスティック、マデリーン様なら、ご存知でしょう?」


急にこの店員が怖くなってきた。何者だ!?この店員。


「な…なんであんたがそれを持ってるの!?」

「ふっふっふっ…極秘事項ですので、ちょっと言えませんねぇ…」


店の雰囲気にマッチした態度を取り始める魔女専門店店員。本物の魔女を震え上がらせるとは、驚きだ。


「というわけで、この宇宙中の伝説の魔女の道具から、最先端の魔女のグッズまで、なんでも取り揃えておりまぁーす!是非ご覧下さい!」


これでこの店員の評価が一変したのか、マデリーンさん、いろいろなグッズに興味津々だ。


「これは地球(アース)032で取れた、伝説の黒曜石ですよ!なんでも、魔王に仕えた魔女が侵入者を闇の世界に送り込む時に使われたという伝説があるんですよ!」

「へえ、魔王が!ちょっと買ってみようかな…」

「今ならオープンセール中で、お値段15ドルとなってますよ!?」


いいように口車に乗せられてるマデリーンさん。いくつかのグッズを買ってしまう。


その店員さんと少し話す。彼女の名はシャロン、地球(アース)401出身の、魔女オタクな人だ。


「実はこのお店、ロージニアにあるお店の支店なんですよ。」

「ええっ!?あっちにもこんなお店、あったの!?」

「はい、というか、私が作ったお店なんですけどね。」

「じゃあ、本店はどうしたの!?」

「他の人に任せて、ここに来ちゃいました。結構繁盛したので、その売り上げでこっちに支店を作ろうって、そう思ったんですよ。」

「変な人ね。そんなに繁盛してるのなら、そっちのお店をやってればよかったのに。」

「いえいえ、お店を繁盛させるのが私の目的じゃないんです。それに、ここに支店を出せるくらい繁盛したのは、マデリーン様のおかげなんですよ。」

「ええ!?私?」

「あのロージニアのビルでの説得、あの事件のおかげで魔女の関心が高くなってですね。急に売り上げが伸びたんですよ。」


そんなところにまで影響を及ぼしていたのか。マデリーンさんとは随分と違う雰囲気だけど、あっちは本物の魔女を知らないからなぁ。魔女の専門店というだけで人が集まったらしい。


「それで私、こうなったら本物の魔女のいる星に行こうと、ここにお店を出すことにしたんです。」

「そうなの。でも、魔女と言っても、ここにいるのは空飛ぶかものを持ち上げるくらいの魔女しかいないわよ?」

「それでもいいんです。普通の人にない力、そういうものに憧れてたんです。だから、魔女になるための方法を探して、いろんな星に行って、結局魔女になれなかったからお店作って…そしたら、私のいるすぐ近くのビルに、本物が現れたんですよ!人を1人救って、颯爽と立ち去る魔女マデリーン!その時決めたんです!私、絶対にこの星に行こうって!」


あの事件で、何人かの人生を変えてしまったようだ。アイリスさんにシャロンさん、他にもまだたくさんいるのかもしれない。


「こうしてお会いできたなんて、夢のようです!他にもたくさんいるんですか?魔女様!あえるだけ会いたいですし、このお店でサポート出来ることは、なんでもしていきたいです!」

「いいわ!じゃあ、王都魔女会のみんなに連絡してみるわ。」

「お、お願いします!うわあ、さすがは宇宙一の魔女!マデリーン様!頼りになります!」


王都魔女会、いつのまにそんな名前が付いていたんだ?会員は7人しかいないけど、名前だけは立派だ。


だが、そんな連絡もなく、早速やってきた魔女がいる。


「あ、お客様だ。すいません、ちょっと外します。いらっしゃいませ!」

「ええと、魔女のお店だって聞いたので、その…何かいいもの、ありますか?」


あのもじもじした喋り方。もしや…


「あれ!?ロサじゃないの。どうしたの?こんなところで…」

「あれ!?マデリーン?そういうあなたも、何してんのよ!?」

「ええ!この方、ロサ様だったんですか!?」


3人がそれぞれ驚いている。ややこしいことだ。


「チラシアプリ見てたら、魔女のお店って書いてあったから、気になってきちゃったの。どうせこの後ショーがあるし、ちょっと覗いていこうかなって。」

「ああ、そうなんだ。私もチラシ見てきたんだよ。すごいものがあってさ。」

「えっ?すごいものって、なに?」


で、例の最適化スティックの話をロサさんにしていた。


「ええ!こんなものまで売ってるの!?」

「でしょ!?私もびっくりでさ。」

「そりゃあもう、宇宙のあらゆる魔女グッズを取り揃えてるのが、当店のウリですから。」


3人で盛り上がってる。宇宙の常識的にはあまり魔女らしくない魔女と、宇宙の常識を極めすぎて本物の魔女とは違うものを追い求めてしまった魔女オタク。話が噛み合わないのが普通だろうが、不思議と意気投合している。


一般のお客さんも入り始めた。ここに来るお客は当然、魔女好きだ。ほぼ地球(アース)401の人たちばかりで、大抵はマデリーンさんの事件の動画を見たという人が多い。だから、本人がいると聞いて、お客さんも巻き込んで大騒ぎになった。


写真は撮られるわ、握手されるわ、話しかけられるわで、すっかり有名人だ。


マデリーンさんはいい。


問題は、私の方だ。


「マデリーンさんの旦那さんですよね?パイロットをされてるっていう。」

「マデリーンさんのこと、すごく大事にされてるって言ってましたけど、普段どんなふうに接してるんですか?」


私まで質問攻めだ。別にたいした話ではないと思うのだが、ビル上事件でセンセーショナルに暴露されたものだから、興味をそそるらしい。


まさかハンバーグとスマホを与えておけば満足する魔女だなどと言えず、あることないこと答えておいた。しかし、私はそもそも軍人だ。ビーム砲の攻撃には対処できるよう訓練されているが、質問攻めには耐性がない。


そんな混乱状態のお店に、さらなる混乱要素が現れた。


ミリアさんだ。もちろん、エイブラムも一緒だ。


「あれ!?マデリーン!?」

「あ、ミリアじゃないの。」


本日3人目の魔女登場。


「おう!ダニエル!」

「なんだ?エイブラム。何しにきた?」

「いや、面白そうなお店ができたと聞いたから、来てみたんだ。お前もすっかり有名人だな。」

「…まあ、いろいろあってね。で?今度はどんなこと考えてるんだ?」

「別に。アイデアを探しているところだ。それにしても、ほんとここはいろんなものがあるな。」


店内を物色しだすエイブラム。


「あれ?こちらの方は…」


シャロンさんが尋ねてきた。


「ああ、こちらは商社マンのエイブラムってやつで、こちらは奥さんのミリアさん。ミリアさんはマデリーンさん同様、一等魔女なんですよ。」

「なんと!3人目の魔女様とは!すごい!まさか初日からこんなにいらっしゃるとは…」


魔女オタクというだけあって、本物が次々に来てくれるのは嬉しいようだ。


早速、ミリアさんにもグッズを売り込んでた。


「ミリア様いかがですか?こういうのは?」

「あの、私、速く飛びたいんです!そういうグッズありますか!?」

「ありますよ!ちょっと待ってくださいね!」


と言って、あのスティックを持ってきた。


「これが最先端の技術で作られた、今より速く飛べる魔法のスティックですよ!」

「えっ!?そんなものまで売ってるの!?」

「そうよ、これ使うと、本当に速いんだから。」


マデリーンさんまで売り込んでる。いいのか?敵に塩を送ることになるぞ?


「じゃあ、私これ買うわ。」

「お!ミリアが積極的に欲しがるなんて、珍しいな。なんだそれは?」

「速く飛べるスティックなんだって。」

「へえ、それほんと?」

「本当だよ。地球(アース)401の重力子研究施設で作られた、正真正銘の先端技術の産物だ。」

「なんでそんなこと、お前が知ってるんだ?」

「そりゃお前、そこにいたからだよ。」


私は、以前地球(アース)401に行って、マデリーンさんとロサさんが重力子研究機関の調査を受けた話をした。


「そんなことがあったのか。でも、そうなるとますます強くなるぞ、地球(アース)001は。」

「今でも十分強いぞ、あの星。さすがは技術発祥の星だ。あの星雲会戦で思い知ったよ。」

「喜んでばかりもいられないぞ。もしまたあの星が以前のように武力による圧力で、我々を再び支配しようとしないとも限らない。ほどほどの力関係でいてくれるのが、一番いいんだよ。」

「そうだけどさ、でもすでに770近い星がいるんだぞ?それ全部相手にできるほど、地球(アース)001だって強くはないさ。大丈夫だろう。」


まあ、そう言っている私も、あの星に疑念がないわけでもない。


確かに地球(アース)001の艦隊は強い。強すぎる。もし連合が連盟側に勝利し、宇宙が統一されてしまったら、再び過去の支配の時代に逆戻りするのではないか?いや、多分そうなるだろう。


するとまたどこかで大量虐殺が起こり、宇宙は再び2分され…歴史は繰り返されることになるかもしれない。


であれば、今のままが一番いいのだろうか?だが、先の戦闘で敵は150万人以上、勝利した味方でさえ8万人もの人命が失われた。この状態が好ましいとは、実際に戦闘に参加したものとしては、到底思えない。


何かいい政治形態というものはないのだろうか?宇宙が一つになっても、戦争などする必要のない世界。そんなものが生まれる時代は、来るのだろうか?


そんなことを考えていると、また魔女のお客がやってきた。


アンリエットさんだ。フレッド中尉も一緒にいる。


「あれ!?男爵様じゃねえか。やっぱりこの店にきてたのか。」

「来てちゃ悪いのか?魔女グッズのお店だし、何か面白いものでもないかと思って…ていう中尉も、そういう目的で来たんじゃないのか?」

「おうよ!アンリエットさんが、このショッピングモールにいる全てのものをひれ伏させるほどの闇の力を得られる、そんな都合のいいグッズでもないかと思ってさ。」


あるわけないだろ。バカ。


「そんなにすごいのじゃなくてもいいんですよ。でも、このままつまんない魔女っていうのもなんだから、いいものないかなあって…」


すっかり根に持ってるようだ。フレッドのやつ、未来永劫、言われそうだ。


「いらっしゃいませ!いいグッズ揃えてますよ!どのようなものがご所望ですか?」

「ええとですね…魔力を高めてくれるような、そんなものがあればいいなあって思ってるんですが。」

「そうですね、一般的には大釜に薬草と生贄となる動物を入れて、儀式を行うのがいいんですが…」


いやいや、それはあかんやつや。男爵のご令嬢が怪しい儀式を始めたとあっては、大変なことになる。


「手っ取り早く力をつけたいのなら、このブレスレットがお勧めですよ!」


悪魔の力を借りるやつか?いや、さっきのとはちょっと違う。


白一色の石で作られたブレスレットだ。さっきの説明では、白の石は天使を呼び出すって言ってたよな。


「この白い石は、空中のエーテルを集めてくれるんですよ。それで魔力が上がるんです!どうですか?」


あれ?さっきと説明が違うぞ。大丈夫なのか?このお店は。


「ほ、ほんと!?だったら一つ、買ってみようかな…」


すっかり信じてしまったアンリエットさん。そのブレスレットを買ってしまった。


「じゃあ、ちょっと試してみようかしら?」


うきうきしているけれど、いいのか?そんなイカサマグッズ。効果なかったら、どうするんだろう?


アンリエットさん、店のすぐそばにある自販機に触れた。まさか、それを持ち上げようというのか?無理でしょう。


「さ、さすがにこれは、無理よねぇ…」


そう、アンリエットさんが言ったその時だ。


バキバキと音を立てて、自販機が宙に浮かんだ。


防犯装置が働き、警報が鳴り出す。アンリエットさんは驚いて、自販機を置く。


警備員が走ってきた。自販機の様子を確認すると、床と自販機をつないでいたブロックが割れていた。


このブロックと自販機はボルトで固定されていたのだが、持ち上がった時にそのボルトを中心に割れてしまったようだ。


警備員は不思議がる。まさか目の前のご令嬢が持ち上げたとは思っておらず、ともかく警報を切って自販機の固定部分に応急措置をしたのち、そのまま引き返していった。


まさか、私も本当に持ち上がるとは思わなかった。だが、コンクリート製のブロックをへし割った上に自販機まで持ち上げた。ペネローザさん並みとは言わないが、結構な力だ。


まさか本当にあのブレスレットの効果なのか?とても効果があるものとは思えないのだが、目の前で起こった事実から導き出される結論はたった一つ。理由はわからないが、少なくとも、効果があった。


お客さんもシャロンさんも、いやマデリーンさんもびっくりした様子だ。


「あ、あの、いかがでしたか?ブレスレット。」

「あ、はい、確かに魔力が上がってます。すごいですよ、これ。ええと、同じものをもう一個、頂けます?」


そう言ってアンリエットさんは、白のブレスレットをもう一つ買った。


せいぜいテーブルを浮かせるのが精一杯というアンリエットさんが、突然怪力の持ち主になってしまった。本当に空中のエーテルなんてものを取り込んだのだろうか?


そんなことをしていたら、もう1人の怪力魔女、ペネローザさんが来た。


ロサさんも一緒だ。そういえば、午前中にショーをやるとかいってたっけ。ショーは終わったようだ。


「あのー、魔女のグッズがあるって聞いたんですけど…」


果たして、ペネローザさんにこれ以上の何かがいるのか?今でも十分すぎるほどの魔力があるだろうと言いたい。


「えっ!?魔女様ですか?もう5人目とは…さすがは、魔女の本場!ええと、どのようなものがよろしいですか?」

「ええと、そ、そうですね…なんだろう?私、何か欲しいものあったかなぁ…」


普通に考えて、ペネローザさんはこれ以上いらないだろう。空は飛べないけど、これ以上のものを望むというのもどうだろうか。


「あの、私、なんていうか、友達が欲しいんです。」

「と…友達ですか!?ええと、じゃあ、こういうのはいかがですか?」


意外なことを言い出した。ペネローザさん、なんと友人が欲しいと言う。


で、シャロンさんから勧められたのは、眷属を引き寄せるネックレス。赤い石がついてて、この石が似た者同士を引き寄せるんだと言う。


本来は恋愛用グッズらしい。相性のいい、長く付き合える恋人と出会うためのネックレスらしい。


「私達がいるじゃないの!なんで友達が欲しいなんて言うのよ!?」

「あ、いや、皆さんのことはもちろんいい友達だと思ってます。でも、二等魔女の友人がいないんですよ…皆さんは一等魔女ばかりで、ちょっと寂しいなあって思っただけなんです。」

「なんだ、いるよ、ここに。二等魔女が。」

「へ!?」

「えっ!?」


ペネローザさんと、急に指をさされたアンリエットさんが、マデリーンさんの言葉に驚く。


「この人は…」

「前に送ったじゃない。アンリエットよ。」

「アンリエットさん、あ、いや、アンリエット様って男爵のご令嬢ではないですか!このお方、私と同じ二等魔女だったんですね…知らなかった…やっぱりこのネックレス、すごい効果ですね。こんなに早く効き目が出るなんて…」


いや、ネックレス買う前にマデリーンさんに一言聞いてくれてれば、それで願いは叶えられていたはずだ。残念ながら、そのネックレスはまだ効果を発揮していない。


「あの、私、ペネローザと言います。空飛べない二等魔女をやってます。」

「私はアンリエットです。私もテーブルしか持ち上げられない二等魔女。だったんですが…さっきあの自販機というやつを…」


彼女が指し示す方向に、土台のあたりが壊された自販機があった。


「あれを持ち上げちゃったんですか!?すごいですよ!テーブルどころじゃないですよ!」

「ああ、でも、ここで買ったブレスレットを使ったら、急にあんなことをできるようになってしまったの。」

「そんなすごいブレスレットがあるんですか?私も欲しいです!」


すでに10トン以上を持ち上げられるペネローザさん。これ以上の力を手に入れて、何をなさりたいのか?


気がついたら、魔女が7人中5人も来てしまった。この調子では、全員きてしまうんじゃないのか?


そんな心配をしていたのだが、なんとそこに、私にとって8人目となる魔女が現れた。

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