表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/151

#28 強盗と凄腕王国騎士と元女海賊

「金目のものと、女を置いていけ!そうすれば、命だけは助けてやる!」


頭領らしき男が叫ぶ。私はスマホの緊急通報を起動して警察を呼んだあと、拳銃を取り出す。


「男爵様、ここで拳銃はちょっと過剰防衛です。護衛である私に、おまかせください。」


ヴァリアーノさんが、車から出ていく。手には剣ではなく、木刀を握っている。


「お…おい!いいのか!?1人で!相手は6人だぞ!?」

「大丈夫ですよ。素人6人くらい、これで相手してやります。」


ヴァリアーノさんは凄腕らしい。が、6人相手ではいくらなんでもちょっと危なくないか?私は拳銃を構える。


「なんだぁ!?おめえ1人で歯向かってくるきか!?おもしれえ、やっちまえ!」


安っぽいセリフの後に、3人同時にかかってきた。相手は短剣持ちが2人、普通の剣が1人。


だがヴァリアーノさん、木刀でなんとこの3人を一気に叩きのめす。


目に見えない早さだ。3人とも武器を持った腕を叩かれて、武器を落として怯んだところを後頭部から木刀で殴られたようだ。


これを一瞬でやってのけたヴァリアーノさん。さすがは、王国の御前試合で準優勝だっただけのことはある。


3人は気を失って倒れる。残るは3人。


「歯ごたえがなさすぎだな。次は誰がやられたいか?」

「く、くそ!おい!この男を一気に叩きのめすぞ!」


頭領直々のお出ましだ。また3人同時にかかってくる。2人は倒れたが、頭領は剣で頭をかばったようだ。


再び対峙するヴァリアーノさんと強盗団の頭領。


頭領の方が先に動いた。だが、それを待っていたヴァリアーノさん、一気に腕と頭と胴体を叩く。


その場に倒れる頭領。これで全員が完全に沈黙した。


私は外に出て、彼らの武器を拳銃で一つ一つ撃った。通報したから、すぐに警察が駆けつけるとは思うが、もし目が覚めても抵抗できないよう、武器を破壊しておいた方がいい。


それから3分ほどして、警察が駆けつけてきた。


「何かあったのですか!?」


そう尋ねる警察官に、私とヴァリアーノさんは路上に倒れる強盗団を指差す。


車に取り付けられた360度のドライブレコーダーの映像を確認してもらう。車を囲んで我々を脅し、その後ヴァリアーノさんが木刀1つで立ち向かった映像を見せる。


この映像データと6人の身柄、そして念のため破壊した武器の残骸を押収した。


「いやあ…強盗に囲まれた時は怖かったぞ!なんて連中だと思ったが、騎士殿のおかげで助かった!」


警察に状況を話すカトリーヌさん。それにしても元女海賊を恐れさせるとは、たいした強盗団だ。


そこでしばらく警察と話をして、やっと帰路についた。ただでさえ社交界に参加してあの小言男爵の相手をしていたというのに、ますます疲れてしまった。


「いやあ、さすがは騎士殿、なかなかの腕前だった!感動したぞ!」

「そんな、褒められる程のものじゃあないですよ。素人の強盗相手ならこんなものですよ。」

「いやあ、それでもあれだけの人数を相手にできるとは…」


カトリーヌさん、すっかりヴァリアーノさんがお気に入りのようだ。


「そういえばカトリーヌさんは航海士なんですよね。そちらの方がすごいじゃないですか。」

「いやあ…私は一度道を外れてクビになった身だ。あまりほめられたものじゃない。」

「でも、海賊とはいっても、潔く他の船員をかばって出てきたわけじゃないですか。それに今はちゃんと航海士としての仕事をこなされてるんですし、後ろめたいことなどありませんよ。」

「あ…な、なんで私が海賊だったことを…」

「いえ、あのとき私、訓練生としてあの船に乗ってたんですよ。」


ああ、そうだった。カトリーヌさんが捕まったときに、ヴァリアーノさんも乗っていたんだ。あの時のことを知っているのは当然だ。


「…いや、本当に恥ずかしい話だ。私は今日の強盗団のことを、とやかく言える立場ではない。」

「いえ、私は強盗団は嫌いですが、あなたのような海賊なら大好きですよ。」

「えっ!?本当か?」

「ええ。だって、人のために戦い、負けたら逃げることなく、潔く堂々と自らをささげる。騎士道に通ずるものがありますよ。」

「そ…そうかな…」


海賊が好き、パイロット候補生としてこれはあまりよい発言ではないなぁ…聞かなかったことにしておこう。


ヴァリアーノさんの寮の近くについた。ヴァリアーノさんが降りると、カトリーヌさんも一緒に降りると言ってそのまま降りて行った。


再び、2人きりになった私とマデリーンさん。


「ああ、今日はいろいろあったわねぇ。貴族の魔女に会ったり、強盗に出会ったり。」


強盗はいらなかったなぁ…ヴァリアーノさんのおかげで、助かったが。


ところで、こんなところでも強盗が出るということは、少し治安が悪化しているのではないか?大丈夫だろうか。アイリスさんとアランさんは、遅くまで会社にいることが多いようだし…


やっと家に着いた。だが、もう翌日になろうという時間だった。いくらなんでも、強盗は余計だった。


おかげで、翌日の土曜日は遅いスタートとなる。また冷めた朝食を温める朝を迎えてしまう。


起き出した私の横では、マデリーンさんはまだ寝ている。そういえばマデリーンさんは最近、魔王のぬいぐるみを抱き枕にして寝ている。いくら可愛らしい顔をしていても、やつは魔王だ。夢に出てこないのだろうか。


レンジで温めた朝食を取り出す頃に、ようやく起き出すマデリーンさん。魔王のぬいぐるみも一緒だ。マデリーンさん、朝食を食べる時くらい、ぬいぐるみは置いときましょう。


今日はダミア村へ視察に行くことにしている。飼料用の大麦が収穫されている頃だ。どうなっているのか、気になる。


車でダミア村に向かう。村に着くと、ちょうど大麦の収穫を終えて、それを馬車に積み込んでいるところのようだった。


「よいしょ!」


馬車への積み込みは、ペネローザさんのお仕事。たくさんの大麦の詰まった袋を、馬車に載せていた。


それにしても、土曜日までお仕事とは、ペネローザさんも大変だ。年に1回働けばよかったいままでの生活が、急に休みの日の方が少ない生活になってしまった。


だが、ペネローザさんは特になんともないようだ。元々、丈夫なのだろう。大麦を積んだ馬車を見送ると、レーガンさんと一緒に村の中を歩いていった。


そういえば、彼女はここの領民だった。今じゃすっかり宇宙港横の街に馴染んでいるが、アイリスさんが連れていく前は、ここが彼女の住処だったんだ。


ところでふと思ったのだが、、彼女の両親はどこにいるのだろうか?私が会った時はペネローザさんは独り身。親が私の領民かどうかもわからない。


そういえば、ロサさんに、姉妹のアリアンナさんやサリアンナさんの両親の話も聞かない。マデリーンさんは家を飛び出したといってた。魔女って、どうしてこうも独り身の人が多いのか?


触れてはいけない話題なのだろうかと思って、あまり魔女達の親のことを聞くことはない。でも、ちょっと気にはなるなあ。


魔女でありながら、親と一緒に暮らしているのは、唯一あのコルネリオ男爵の娘のアンリエットさんだけだ。でも彼女の場合、魔女であることを隠しているので、表向きは普通の人だ。


二等魔女の話をあまり聞かないのは、アンリエットさんのようにひっそりと暮らしている人が多いのだろう。これが一等魔女だとどうしても魔力が目立つから、隠し通すことができないのかもしれない。


私はまだまだ魔女のことを何も知らない。魔女と一緒に暮らしているけど、魔女がこれまでどういう目にあってきたのか、知らずに暮らしている。考えてもみれば、魔女への世間の風当たりが強いからこそ、親と離れ離れの魔女がいたり、草ばっかり食べてひっそりと暮らす習慣が生まれたり、魔女であることをひた隠しにしようとしているのだろう。


そう思うと、我々の出現はこの魔女社会では大きな出来事だ。我々の出現以降、魔女でも普通に結婚できて、仕事があって、人前で堂々と振る舞えるようになった。


そんなことを考えながら、街に戻る。


遅い昼食は、いつものショッピングモールのハンバーグ専門店。ここの店員にすっかり顔を覚えられている。ちなみに、ここの店員さんはあのロージニアのビル事件のことを知っていて、マデリーンさんの大ファンらしい。


おかげで、私も他のお店の食べ物というわけにはいかず、結局マデリーンさんと一緒にこのハンバーグ専門店のハンバーグを頼む。今日頼んだのは、カレーハンバーグ。だんだんと普通の味に飽きてきたので、いろいろな種類を開拓中だ。なお、マデリーンさんはロヌギ草ハンバーグなるものを食べている。最近多いなあ、ロヌギ草を使った商品。


食事を済ませて、店内をふらっとしていると、意外な組み合わせの2人が歩いているところを見かける。


カトリーヌさんと、その隣は…ヴァリアーノさん!?


別に2人に挨拶をしても問題はないのだが、思わずマデリーンさん共々、そばにあった柱の陰に隠れてしまった。


男勝りな感じのカトリーヌさんが、あの騎士殿と腕を組んで一緒に歩いている。


そういえば、昨日の帰りに同じ場所で降りていったよな、カトリーヌさん。あのあと、多分2人は一緒に行動していたんじゃないか。だいたい、昨日の夜に見知ったばかりのこの2人。強盗のあの事件があったにせよ、あの車の中にいた短い時間で、急にここまで仲良くなれるとは思えない。だから、我々と別れた後に合流していると考えるのが自然だ。


嬉しそうに歩くカトリーヌさんとヴァリアーノさん。見た目はごく普通のカップルだが、つい一昨日まで喋ったことのない2人。あまりの溺愛ぶりに、夫婦揃って驚いていた。


「いやあ、不思議ですよね、あの2人。いきなり今日になってあんな姿で歩いてるんですよ?びっくりしました。」


突然、横から声がした。出たな、恋愛のスパースレーダー、モイラ少尉。


「…なぜ、こんなところにいる?モイラ少尉。」

「やだなあ、男爵様。ヴァリアーノさんとはあの戦闘時に同じ機体で任務についた戦友ですよ?その戦友の恋愛事情をキャッチできなくて、恋愛の達人を名乗れましょうか!?」

「も、モイラ、もうやめておこうよ、恥ずかしいって。あ、大尉殿、申し訳ありません。」


夫のワーナー少尉だ。こんな奥さんを持って、本当に大変だ。


「ところで男爵様。あの2人について、何かご存知じゃないんですか?」

「なんで、そう思う?」

「昨日の社交界に、男爵様がヴァリアーノさんを護衛役で連れていったこと、知ってるんですよ、私は。」

「ああ、あの社交界のあとに、駐車場の近くでバスを待っているカトリーヌさんを見かけたんだ。で、一緒に乗っていかないかと誘い、そのまま4人で王都の外に出て…」

「うんうん!」

「強盗に遭った。」

「えっ!?強盗!?」


意外な展開だったようで、モイラ少尉は少し驚いたようだった。


「強盗って…結局どうなったんですか?」

「ああ、6人組の強盗団を、ヴァリアーノさんがたった1人で倒してしまったんだ。」

「えっ!?でも訓練生では、バリアと拳銃の所持は認められていないんじゃ…」

「木刀一本だよ。使ったのは。あっという間だった。凄腕とは聞いていたけど、まさかあそこまで強いとは…」

「ふうん…つまり、カトリーヌさんはその姿を見て、惚れてしまったというわけですよね?」

「そうなんだろうねぇ…その後、寮の前でヴァリアーノさんをおろしたら、カトリーヌさんも降りるといって出ていってしまったからなあ…その後どうなったのかはわからないけど、多分、合流してるんじゃないかなあ…」

「なるほど、分かりました。寮の前ねぇ、よりによって私の縄張りで…」


体を小刻みに震わせて笑うモイラ少尉。まるで獲物を見つけたような喜びようだ。


「では、男爵様!ワーナー、モイラ両名は、カトリーヌ、ヴァリアーノ両名の足取り調査のため、出撃致します!では!」


敬礼して、ワーナー少尉をともなって去っていった。おそらく、訓練生の寮のある場所に行ったのだろう。そういえば、モイラ少尉もあのすぐ近くにある女子寮に住んでいたことがあった。縄張りとは、そういうことか。


何があったのかは気になるが、個人のことを詮索しても仕方がない。幸せにやってるなら、それでいいだろう。


と思っていたのだが、その日の夜に、モイラ少尉から、あの2人の私と別れた後の足取りに関するレポートがメールで届いた時は、思わず目を通してしまった。


さすがは情報集めの専門家だ、よくこれだけの情報を集めたものだ。


まず男子寮の前で、2人が話しているところを目撃されていた。私と別れた直後のことだろう。


その後、近くのコンビニに立ち寄っている。電子マネーの追跡で確認したらしい。いや、そういうのはちょっと不味いんじゃないか?


その後、カトリーヌさんのアパートに2人で入っていくところを、ペネローザさんが目撃しているそうだ。


…まあ、わざわざ集めなくても、今日の2人を見れば想像がつく行動パターンだ。それにしてもカトリーヌさん、積極的だなあ。たった一晩で凄腕騎士をゲットするとは、


海賊事件をきっかけに私と関わることになり、強盗事件をきっかけに急展開を迎えたカトリーヌさん。波乱に富んだ人生だが、この先は少し落ち着いた生活を歩んで欲しい。


それにしてもマデリーンさん、私の横でまた魔王のぬいぐるみを抱えて寝てる。こっちも幸せそうな顔をしてるけど、ちょっとぬいぐるみが邪魔だなあ…マデリーンさんに抱きつきたい気分だというのに。私は魔王のぬいぐるみ相手に嫉妬していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ