第8話 huit
「パァン!!」
突然店内で大きな音が鳴り響いた。
店内には自分達以外に男女のカップルが向こうの隅に座っていた。男は30代のサラリーマン風、女は20代のOLという感じだろうか。
男の方がもんどり打って椅子ごと後ろに倒れた。
「ガターン!」
「あ……あが……ギ……ギャーァーツツ!!」
男の向かいに座っているOLが店内中に響き渡る声で叫んだ。
喫茶店の厨房の方から先ほど注文を取ってたウェイトレスが出てきた。
彼女は拳銃を手にしていた。そしてそれをOLの方に向けていた…。
「フ……フフフッ……フフフフフッ……」
ウェイトレスは笑みを浮かべていた。そして引き金を引いた。OLは後頭部を撃ち抜かれ声を上げる間もなくその場に倒れた。
「か……快感……」
ウェイトレスの制服はどす黒い血に塗れていた。
そして彼女は銃口を僕達の方へ向けそして言った。
「死ね」
「ドガーン!!」
店内中に再び轟音が鳴り響いた。
ウェイトレスの腹部が血の色に染まった。
そしてもう一回大きな音……。
ウェイトレスは眉間あたりから大量の血を吹き出した。そしてフラフラと2、3歩あるくとドスンと床に倒れた。
僕はおそるおそる轟音がしたリアの方を見た。耳がツーンといってる。
リアは拳銃を握っていた。目は倒れたウェイトレスの方、そして店内を鋭く見渡していた。
「リ……リア……?」
「混沌の神達の呪いが発動してきたようじゃな……。拳銃を用意しておってよかった」
リアは言った。
◇ ◇ ◇
「ドガーン!!」
窓の外で銃声が響いた。僕は外を見た。
見ると警察官らしき人物が拳銃を手にしていた。そして彼の10mほど先に主婦らしき女性が倒れていた。その側にいた子供は恐怖と驚きのあまり身動きひとつできずにいた。
「ギャーァッッ!!」
あたりにいた通行人達は叫びその場所から我先にと逃げ出そうとした。
警察官は拳銃の引き金を引き更に数発撃った。
4、5人の人々が血を吹き出しながらもんどり打って地面に倒れた。
「ドガーン!! ドガーン!!」
リアは構えた拳銃の引き金を引いた。
警察官は胸から血を吹き出しながらその場に倒れた。
その戦慄とした光景を見ていた僕はただガタガタと震えていた。
そして遠くの方からドーン!!! という何かが爆発するような轟音が聞こえた。
「リア……!」
リアは店内で倒れているカップルだったもの、そしてウェイトレスの体を調べてそして厨房の奥へと入っていった。
僕は彼女の後ろを恐る恐る着いていった。店内には血の匂いが漂いそこかしこに血が飛び散っている。
厨房の中では店長らしき男が背中から銃で撃たれて倒れていた。リアは彼に近づきそして首を振った。
「もう全員絶命しておる……」
外ではサイレンの音がけたたましく鳴り響いていた。
◇ ◇ ◇
僕とリアは慎重に喫茶店の外に出た。街路には10人ほどの人影が血を流しながら転がっていた。市民たちはそれを遠くで震えながら見ていた。
100mほど先にある5階建てのビル……家電店だろうかから炎と煙が出ていた。
「みなさん! こちらへ退避してください!!」
見ると機動隊らしき人達がマイクを手に叫んでいた。
あたりにはパトカー10台くらいとまってた。消防車や救急車も来ている。
機動隊はライフルらしきものを手に持っていた。
その時、キーン!!! という耳をつんざくような音が周囲に鳴り響いた。
そしてバァーン!!! バァーン!!! バァーン!!!……と何発もの銃声が鳴り響いた。
◇ ◇ ◇
目の前に何か煙のようなものが浮かんでいた。それは赤い色をしていた。
そしてドガーン! という爆発音が辺りに響いた。
「リア……」
少しすると霧が晴れた。そして見回すとたくさんの人が地面に転がっていた。3、40人くらいはいるだろうか。それらは警察官や市民だった。そしてパトカーは爆発して炎上していた。辺りは血だらけだった。
パーン!! パーン!! と銃声が響いた。
警察官同士が拳銃で撃ち合いをしている。
僕とリアは建物の陰からその光景を見ていた。
「ここから離れるぞ……智樹。彼らはウラノスに精神を支配されておる。先ほどキーンと大きな音が聞こえただろう。それによって」
「でも……」
「妾はこちらの世界ではほとんど人間と変わらない。殺されれば命を失いこの世界に戻ってくることはできない。ウラノスを倒せば彼らを救える。行こう」
リアは僕の方を向いて真剣な眼差しで促した。
僕達はその場所から離れた。
段々と日が暮れて夜になった。大阪の街はさながら戦場のようになっていた。自衛隊などの装甲車や戦車や軍事ヘリコプターなどまで出てきていた。
それらの幾つかの乗組員も精神を支配されたらしく同士討ちをしたり街を破壊したりしていた。
僕達はその中を走り回り何とか逃げ回っていた。僕の手には拳銃があった。先ほどリアから手渡されていた。彼女はどこかでそれを入手していたらしい。
拳銃など使ったことはないが……。リアは僕にその使い方を手短に教えた。
「危ないと思ったらそれを使うのじゃ。両手で握って引き金を引くのじゃ」
そう言われても……。
ゴロゴロゴロ……。大きな音がした。
僕達の方に黒い大きな影が近づいてきた。
「あれは戦車じゃ……。こちらへ!!」
リアは僕の腕を引っ張りビルの後ろへ連れていった。
ドガーン!! 轟音がした。
戦車から放たれた砲弾はビルに命中した。大きなコンクリートの破片やガラスが飛んできた。
「うわっ!!」
僕は叫んだ。しかしそれらは僕達の目の前ではじき返された。
「うっ……!」
リアは左腕を押さえた。防ぎきれなかったガラスが彼女の腕を切りつけていた。
彼女は白い細い腕から赤い血を流していた。
「だ……大丈夫……?!」
「無事じゃ……それより早くここを離れよう……」
リアは言いそして僕達は駆け出した。