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THE LIBERO CODE  作者: libero protocol


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FILE_09: 熱の対称性

「……やはり、あの女性が違法プログラムを使っている。絶対に突き止めますよ」


誰もいない雨のような並木道で、蓮の瞳に宿る冷たい光は、揺るぎない確信へと変わっていた。


その頃、夜の自宅リビング。

一華は、まだ乾ききっていない髪にタオルを当てたまま、ソファでぽつんと自分のホログラムディスプレイ端末を見つめていた。画面には、あの窮地から自分を完璧に導き出した、鮮やかな光の矢印の残像がまだ浮かんでいる。


(誰なの……? どうして、私の欲しいものが、いつもあのタイミングで……)


そのとき、玄関のドアが開き、軽い足取りで創太が帰宅した。制服のブレザーを肩に引っ掛け、鼻歌混じりでリビングに入ってくるその姿には、かつて部屋に引きこもっていた頃の卑屈な影は微塵もない。


「おかえり、創太。遅かったね」


一華が声をかけると、創太は視線だけを姉に向け、楽しそうにふっと微笑んだ。


「ちょっとね。あ、お姉ちゃん、スプリンクラーの誤作動で濡れちゃったんだ? 大変だったね」


「え……?」


一華の手が止まる。なぜ、自分が大学の並木道でスプリンクラーに降られたことを、創太が知っているのか。


創太は何も持っていない両手をポケットに深く突っ込んだまま、キッチンへ歩き、冷蔵庫から炭酸水のボトルを取り出した。


その背中を見つめながら、一華の脳裏には創太の幼い頃の記憶が蘇えっていた。


──まだ、お母さんが生きていた頃。 一華が小学生で、創太がまだ幼かったあの日、近くの公園で二人でバドミントンをして遊んだ。背の低い創太は、一華が軽く打ち返すシャトルを一生懸命に追いかけて、何度も空振りしては「お姉ちゃん、もう一回!」と顔を真っ赤にして笑っていた。転んで膝をすりむいても、一華が「痛いの痛いの飛んでけ」と手をかざすと、すぐに涙を拭いて、はにかんだ可愛い笑顔でまたラケットを握り直した。


あの頃の創太は、ただ純粋で、一華の後を一生懸命に追いかけてくる、本当に可愛い弟だった。一華にとっても、その可愛い笑顔を守ることだけが世界のすべてだった。


だが、目の前で炭酸水を喉に流し込んでいる創太の纏う空気は、あまりにも異質だった。


創太はふはっと小さく息を吐くと、ソファの一華をゆっくりと見下ろした。その耳の奥で、リベロが彼の全能感を肯定するように、静かに明滅している。


「どうもしないよ。たださ、気づいちゃったんだよね。お姉ちゃんが必死に寝る間も惜しんで勉強してることって、僕にとっては、一瞬で理解できる程度の簡単なことだったんだって」


「創太……?」


「お姉ちゃんはさ、いつも完璧で、僕に『教えてあげる』って上から目線で言ってたよね。


でも、もうそれいらないから。これからは僕がお姉ちゃんを助けてあげる。今日みたいにね」


創太は、自慢の玩具を見せる子供のように、純粋で無邪気な笑みを浮かべた。


一華は、目の前にいる弟が、自分の知っている可愛い弟とは別の何かに変貌してしまったような、強烈な恐怖を覚えた。


シャトルを追いかけて無邪気に笑っていた、あの可愛い弟の面影を残したまま、その瞳の奥だけが、見たこともない圧倒的な知性の熱に支配されている。


二人の温かかった過去の記憶が、今、静かに塗り替えられようとしていた。

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