表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
好感度マイナスの恋巫女候補に転移しましたが、領地だけは建て直します  作者: 御堂あゆこ
第2章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/14

07. 神頼み、好感度が足りない

 万象盤を握ったまま、私は領主館の代わりの古い建物に入った。

 ボロボロの椅子に腰かけて室内を見回す。

 今日からここが私の住居兼仕事場となる。


「澄音、万象盤見てみて。今、点滅してる」


 しらたまが私の手元を覗き込んだ。


「見えていますわ」


 表示を確かめる。


【隠しイベント:謎の病の流行(予兆)】

【発生条件:霊気停滞/治安低下/資源不足】

【期限:2日13時間】


 ――コイテンにこんなイベントはなかった。

 でも、放置するとろくなことにならないのは想像がついた。


 点滅する表示を睨んでいると、追い打ちのように選択肢が浮かんだ。


△▼△▼△▼△▼△


 ▷照国に助けを求める(成功率1%)

 ▷津々巳に助けを求める(成功率5%)

 ▷伊主那に助けを求める(成功率3%)


△▼△▼△▼△▼△


「……低っ! ……ごほん、低すぎません?」


 お嬢様言葉自動変換を突き破りかけて、かろうじて踏みとどまる。

 私はとりあえず、一番マシそうな津々巳を選んだ。


 ――ピロン。


【実行のための好感度が足りません。好感度を確認しますか?】


▶「はい」


【好感度】

 照国:-20

 津々巳:-10

 伊主那:-10


「……マイナス」


 思わず声が漏れた。

 コイテンでは、好感度にマイナスの概念はなかったはずだ。


「……私が知っているゲームでは、好感度はゼロから始まりましたわ。用意された選択肢で正解を選べば上がって、外せば下がる。でもマイナスにはなりませんでしたわ」


 しらたまが、ふむ、と小さく唸る。


「ゲームが何かはわかんないけど、ここは違うよ。相手とのやり取り全部が影響するんだ。好意だけじゃなくて、警戒とか反発とか、敬意とか。そういうのが全部混ざったのが好感度」


 ――つまり、選択肢だけじゃない。

 私の言葉も態度も、全部そのまま返ってくるということか。


 さらに表示が下へスクロールする。


【参照:南領地/桃園彩葉】

 照国:15 津々巳:8 伊主那:5


 ……あちらはずいぶん順調らしい。

 同じ恋巫女候補なのに、開幕からこの差はなかなか胃に悪い。


「助けを求めるのにも、好感度が必要なんですのね……」


「そりゃそうだよ。神様だって感情はあるんだ。もちろん好き嫌いもね。澄音だって嫌いな相手よりは好きな相手を助けたいでしょ?」


「それは……そうですわね。では、このまま好感度が下がり続けると、ゲームオーバーになったりはしませんの?」


「ゲームオーバー? よくわかんないけど、好感度がマイナス50になったら加護が完全停止するよ」


「加護が停止するとどうなりますの?」


「ぼくもわかんないよ。今までそんなこと起きたことないからね! だから、あんまり神様を怒らせないほうがいいよ」


 神殿でのやり取りが全部反映されているのだとしたら、状況は思っていた以上に深刻だ。

 この好感度では、神様に助けを求めることすらできない。


 ……もしかして、詰んでる?


 しらたまは、私の手の中の万象盤を見上げたまま、小さく首を傾げた。


「うーん。神様に頼るのは難しいかもね」


「難しいどころか、門前払いですわ」


「でも、それで終わりじゃないでしょ?」


「……どういう意味ですの?」


 しらたまが、私の膝にぴょんと飛び乗る。


「澄音、神殿でも決められた通りには動かなかったじゃない。用意された答えじゃなくて、自分で選んだでしょ? あれ、分岐逸脱(ぶんきいつだつ)っていう特殊スキルだよ」


「……分岐逸脱」


 転移前のやり取りで、その名前だけは聞いた覚えがある。けれど、詳しい説明まではなかった。


「しらたま、分岐逸脱って何ですの?」


「誰かに用意された道じゃなくて、自分で道をつくる力だよ」


 その瞬間、神殿での光景が脳裏によみがえった。


 恋愛か退場か、どちらも選びたくなくて、そのとき現れた「それ以外」の文字を、私は迷わず選んだ。


 ――あれが、分岐逸脱だったのか。


「澄音って、もともと決められた道を素直に歩くタイプじゃないでしょ」


「それ、褒めていますの?」


 しらたまは、私の膝の上でくるりと向きを変えると、ふわふわの額を私の腹にこつんと押しつけた。


「もちろん褒めてるんだよ!」


 しらたまの額のぬくもりが、お腹越しにじんわりと伝わってくる。

 その言葉とぬくもりに背中を押されて、胸の奥が少しだけ軽くなった。


 私はもう一度、万象盤へ視線を落とした。


【発生条件:霊気停滞/治安低下/資源不足】


 治安低下と資源不足は、まだわかる。

 北領地は加護が薄く、土地は痩せ、交易だって不安定だ。人の気持ちが荒めば治安も悪くなる。


 でも――霊気停滞ってどういう状況?


 ゲームでは霊気の数値が表示されていて、一定以上を保てばよかった。

 下がったら「お祈り」して、上がったら一安心。それだけだ。


「……で、結局、何から手をつければいいんですの」


 そのとき、しらたまが耳をぴくりと動かした。


「また食糧が減ってるだろ!」


「俺じゃない! 俺は鍵を預かってるだけだ!」


「鍵を持ってるやつが一番怪しいんだよ!」


 建物の外から怒鳴り声が響いた。

 揉めている。しかも、かなりわかりやすく。


「……治安低下と資源不足は、向こうで元気に実演中のようですわね」


「たぶん、村の中心の倉庫だね」


「わかりやすすぎて、逆に不安ですわ」


 建物を出ると、冷たい空気が頬を打った。

 声のする方へ急ぐ。


 村の中央にある倉庫の前では、男たちが何人も集まり、互いに詰め寄っていた。


「昨日まで確かにあったんだ!」


「だから知らないって言ってるだろ!」


 万象盤の表示が、ちら、と点滅する。


【治安:低下傾向】

【資源:不足傾向】


 うん、そこは見ればわかる。

 だが、問題はもうひとつだ。


 霊気停滞。


 私は倉庫の前で足を止め、意識を集中させた。

 見えないなら、まずは見ようとするしかない。


 その瞬間、視界の端に何かがちらついた。


「……っ」


 線。

 円。

 点の群れ。


 半透明の図形めいたものが、視界の上に浮かんだ。

 けれど、全体に砂嵐みたいなノイズが走っていた。


 形はあるのに意味を結ばない。

 データが欠損したダッシュボードを無理やり覗き込んでいるみたいで、ものすごく気持ちが悪い。


「……う、わ……」


 こめかみの奥がずきりと痛んだ。

 胃の底がひっくり返りそうになる。


 見える。

 でも、読めない。


 男たちの怒鳴り声に混ざって、変なざらつきが耳の奥にまとわりつく。

 そのざらつきの中心が、倉庫の奥でじっと息を潜めている気がした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ