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妖精の森、時は巡りて  作者: たろんぱす


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番外 春と夏の間に3



「戻りました」


 子供達やお手伝いの奥さん達とキッチンでランチをしていたら、ハミルが帰ってきた。


「ご苦労様、おかえりなさい」


 ハミルは礼を取り、自室へと向かう。そしてすぐに「うわっ!?」と大きな声が響いた。


「どうしたのかしら?」


 席を立ち廊下から伺い見ると、ハミルが自室の扉を開けたまま固まっていた。


「ハミル? どうかした?」

「どうかした、ではありません! 見てください」


 声をかけるとハミルは目を吊り上げて部屋を差し示した。近寄り中を見れば、ハミルの部屋はひっくり返したかのような惨状だった。ベッドのシーツは床に落ち、書棚は開いて本がこぼれ落ちている。机のインク壺は倒れて、引き出しは全部開いて、中身も散乱。テーブルと椅子は倒れている。


「一体何があったの!?」

「子供達に決まってます! 私が不在だからとふざけて!」


 騒ぎを聞きつけた奥さんや子供達も廊下へ出てきた。小さい子はびっくりしてぎゅっと抱きしめ合っている。


「子供達は私と一緒にいたわ」

「全員ずっとですか? 一人で歩くことが一度もありませんでしたか?」

「それは……!」


 お手洗いにいったり、かくれんぼもしたので、言葉に詰まると、ハミルはテスへ鋭く指を突きつけた。


「一番大きいあいつが怪しい!」


 テスはびくりと体を震わせて固まった。

 小さい子達のリーダーとして、みんなを楽しませていた活発な表情が消えて青ざめる。


「テスはそんな子じゃないわ」

「証拠はあるんですか? やっていないという証拠は」

「書棚は一番上まで手を入れられているけれど、テスには届かないわ。テーブルだって倒すには力がいるし、大きな音だってしなかったわ」

「椅子を使えばいい。テーブルぐらい子供の力でも倒せます。音は気が付かなかっただけでしょう」


 頭に血の昇って全然聞いてくれなさそう。ハミルは今までの鬱憤もあってか鬼の様な剣幕で、小さいセスを責め立てている。

 ハミルの視界からセスを遮ろうと体をずらすと、見えないとばかりに肩を押された。


「奥様は執事の私よりも、こんな子供の言うことばかり信じると言うのですか。信じられない侮辱です!」

「きゃ……」

「おい、誰に触れている」


 ふらつき壁にぶつかりそうになる前に、私の体は抱き寄せられて、温かな胸に収まった。


「フィン!」

「エラ、大丈夫か? 痛めたところはないか?」

「大丈夫よ、大袈裟ね」

「大袈裟なものか」


 フィンは私の肩を抱き込み、ハミルを睨む。女性と子供しかいないから強気な態度だったのか、ハミルは目に見えて狼狽えた。

 奥さん達からホッとした息が漏れる。かくいう私も、安堵に溜めた息を吐き出した。


「だ、旦那様、違うのです。誤解があります。先に私の部屋に侵入し荒らしたのはあの子供なのです! 奥様は庇いますが、旦那様は信じて下さいますよね?」


 フィンは私を奥さん達に預け、ハミルの部屋を見回し、眉間に皺を寄せた。


「馬鹿を言うな。ベッドが動いているじゃないか。子供には無理だ」

「そんな」


 検分の為に部屋へ入り、ベッドの下を覗き込んだフィンは「ん?」と言って手を伸ばす。


「なんだ、これは」

「あっ、そ、それはっ……」


 それは緑色のビスケットの欠片だった。一口分に割った小さなビスケットがその手に三つも乗っている。


「……ハミル、食べてなかったの? 命令だって言ったわよね?」

「っ、馬鹿馬鹿しいんですよ! 妖精? は、いるわけがない。この村の連中は頭がおかしいんですよ。長く勤め、前領主様の補佐だってずっとしてきた私より優遇するなど間違っている」


 フィンは腰に手を当てて長いため息をついた。その鋭い目を睥睨させて、静かにハミルへ告げる。


「夫人命令に逆らった上、村の悪口。お前はこの村と合わないようだな。長い間ご苦労だった。お前の雇い主でもある伯爵家へ帰ってくれ」

「なっ……、く、こちらだって平民の領主などお断りだ!」


 ハミルは顔を真っ赤にして周囲を睨みつけて、自室へ入り勢いよく扉を閉めたのだった。


 


 その日子供達はフィンへ尊敬の眼差しを向けて帰っていった。夜にはハミルの見張りをするという名目でフィンは応接間で眠り、翌朝起きるとハミルはもういなかった。


「すんなり出て行ってくれたの?」

「ん? そうだな、大体すんなりだ」


 フィンはニコリと笑って右手の拳を強く握ったのだった。

 すんなりの定義はまぁ、人それぞれよね。うん。




 フィンは同じ家に住むようになっても、なんだかんだと毎晩応接間で眠った。

 そして一週間後。


「フィン、起きて」

「ん、悪い、寝坊したか?」


 夜明けと同時にフィンを起こした。


「まだ早くないか?」

「今日は忙しいの。ほら、着替えてご飯食べて。私先に村長さんのお家に行くね。後で奥さん達が来るから、フィンもみんなと来てね」

「ああ、わかった」


 寝ぼけて首を捻るフィンを置いて私は早々に家を出た。足早に村長さんのお家に行くと、奥さんとサリーが促すまま奥へと進んだ。

 そう、今日は結婚式をするのだ。


(前に言いそびっていたり、色々考えちゃったりで結局本人には言えなかったのよね)


 サリーが髪を巻いてふんわりとアップに纏める。その下の方、襟足から耳裏まで添うように青い布で作った花を飾っていく。上部には大きい花飾りを指すと、ぐっと華やかだ。

 服を着替えて、持参したアクセサリーをつければ完成だ。サリーが用意してくれたブーケを受け取り外へと出る。


 そこには既に準備の出来たフィンがそわそわした様子で待っていた。


「フィン、お待たせ」

「エ、エラ……」


 フィンの髪もサイドに流してきちんとセットされている。服も白く汚れのない服で、私の服とお揃いの青い布で作られたタイと花がポケットに飾られていた。


「フィン、素敵よ」

「あっ、あ、ありがとう。……エラは、妖精みたいに綺麗だ」

「本当? 嬉しいわ」


 フィンがあんまりにもじっと見つめ続けるので、少し照れてしまう。こんなふうに胸の奥がくすぐったくなるような、浮き立った気持ちは初めてで、落ち着かない。


「さぁさお二人さん、出発しますよ」

「は、はい」


 フィンが出した肘にそっと手をのせて、私たちは湖に向けて歩き出した。村長の息子さんがベルを持って先導し、弓や剣に花飾りをつけた男性が続く。その次に料理をのせたお皿や、パンを乗せたお皿、小さい水瓶を抱えた女性達が続き、最後に私たちが歩き出す。


「エラ、一体いつから……?」


 結婚式を予定していたのかと言うことね。


「フィンが小屋暮らしを無事終えたら挙げましょうかと村の人達に言われていたの。その、伝えられなくてごめんなさい」

「いや、そうか。おれが一人で出掛けることを決めてしまったからか。俺こそすまなかった」


 静かな森に、チリーン、チリーンと先導の鳴らす澄んだベルの音が響く。

 私は意を決してフィンへ問いかけた。


「一つだけ聞きたかったの。その、探している人って、どんな方だったの?」

「ん? ああ、話し上手で人懐っこい大男なんだ」


 そう、話し上手で人懐っこい……ん? 大男?


「人の輪に加わるのがやたら上手いから、戦関係の情報収集を依頼できないかと思ってな。村に来てもらうことがあったらエラにも紹介するよ」

「え、ええ」


 探していたのは仕事を頼みたい、男性。

 その瞬間、ほっとした。私が彼の人生を曲げたとか、邪魔したとかそういうのではなくて。

 心配が晴れてみれば、この二ヶ月で積み重ねた彼への信頼が、ほんわりと心の底に積もっていることに気がついた。


 一行が湖に着くと男性達は左右に分かれて並び、女性達は敷物の上に食べ物を並べていく。フィンと二人で湖に足をつけて、ブーケを投げ入れるのが、村の婚姻の風習とのことだった。


 お互いに向き合い、ブーケを胸の上まで掲げた私の手にフィンが手を添えた。温かくしっかりと支えてくれる手の感触に、私は確信した。この先もきっと彼を信頼する。信頼出来ると。


「「せーの」」


 掛け声と共にブーケは放物線を描き湖の上に落ちた。夏の日差しは朝なのに既に暑く、よく晴れて辺りはキラキラしていた。


「フィン、私心の準備が出来たと思うの」


 流れていくブーケを共に見送りながら、私は言いました。


「何か準備する事があったか?」

「ええ、その……貴方を好きになる心の準備が」

「…………え?」

「私きっと、貴方を好きになれると思うわ」


 思い切って告げ、そっとフィンを見上げると、ぽかんとした顔がみるみる赤く染まっていった。


「えっ、あ、え?」

「だからもう少し、待っててくれる?」


 フィンの目にはみるみる涙が溜まり、激しい首肯と共に流れ落ちた。

 なんだかつられて私も恥ずかしくなってしまったわ。赤くなった私達を村のみんなが微笑ましく見守っているんだもの。

 持ってきた食べ物を全て湖に捧げて、式は無事終わりました。





***




 それからセオとルーシーが来て、二人でお世話して、何だか二人なら子供が出来ても大丈夫そうだと思えたり、それまでの生活で生まれていた信頼感が情に変わり、絆されたり。


 それで婚姻一年記念に、一線を越えることになったわ。私のイメージでは暗い中お相手に任せて終了って、雑な想像しか出来なかった。だって閨教育は「声を漏らさずお相手に全てを任せましょう」だけだったんだもの。


 でもフィンは凄かった。まずランプはつけっぱなし。私が痛がったり、途中で体調悪くなったりしたら直ぐ気がつくように、明かりは絶対消さないと言い張ったわ。

 それから観察するように私の一挙手一投足を見つめ続けて、ちょっとでも痛がったら中断、翌日に持ち越し。

 こういう言い方してもいいのかしら、その、とっってもしつこくて、完遂するのに一週間もかかったわ。いっそ一思いにやってくれと叫びそうにもなったわね。


 恥ずかしすぎて、一生忘れられないし誰にも言えない思い出ね。

 



〈番外 春と夏の間に・終〉





最後までありがとうございました(*^人^*)


また別作でお会いできましたら幸いです。それでは。

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