拡大する被害
ミスティアのスラム街で発生したゾンビ化は、予想通り、その後、各地で続発した。猟犬隊に調査させたところによれば、被害地域は帝国西部、ミスティアG&Pブラザーズの勢力範囲に一致する。ゾンビ化の被害はスラム街から一般住民にまで拡大し、深刻な社会問題となりつつあった。特にミスティアの被害は深刻で、住民の半分近くがゾンビ化したとの情報もある。G&Pブラザーズのギルド員も多数ゾンビ化しているらしい。
報告に執務室を訪れたドーンは困惑気味に、
「どうしましょう。まさか、こんなことになるとは……」
「捕虜のギルド員がゾンビ化した時点で予想できたことよ。今更後悔しても遅いわ。でも、領内でゾンビ化した話は聞かないから、良しとしましょう」
ウェルシー領内では、猟犬隊が目を光らせて麻薬密売を取り締まっていたこともあり、ゾンビ化の被害はほとんどなかった。
「ドーン、どうしたの? まさか、この程度でビビっちゃったの?」
「いえ、そういうわけではなく…… なんと言いますか、こんな大事件になるとは思わなかったので……」
「しっかりしなさいよ。こんな時こそ、人としての器が問われるのよ。まあ、いいわ。あなたはとりあえず、待機。そのうち、きっと忙しくなるから」
ドーンは一礼して執務室を出た。もともと町で暴力的非合法活動(昔風に言えば愚連隊みたいな)をしていたドーンにとって、こういう大きな話は荷が勝ちすぎるのかもしれない。
プチドラは執務室の机の上に寝そべり、
「マスター、難しくなってきたね。対応を誤れば、即アウト、場合によってはお尋ね者だよ」
「うん、分かってる。要は、ゾンビ化の原因がわたしということが、特定されなければいいのよ。もっと言えば、そういった証拠がなければいい。いくら怪しまれたって、証拠がなければ、どうということはないわ」
領内でゾンビ化被害がほとんど発生していないところが疑われそうな気もしないではないが、今のところ、カオス・スペシャルの生産はできないし在庫もない。それに、領内に生産設備は存在せず、不利な証拠になりそうなものはない。すぐに後ろに手が回りそうな危険はないだろうけど、もちろん安閑としているわけにはいかない。
これからすべきことは、とりあえず、完全な証拠隠滅。そのためには、レオ・ザ・デスマッチとキム・ラードをなんとかしなければならない。両方とも亡き者にしてしまうのが手っ取り早いけど、デスマッチは共犯だから、運命共同体として味方に引き入れたいような気もする。
「それで、マスター、具体的に何をどうするの?」
プチドラは机の上で、立ち上がって言った。
「う~ん、どうしよう」
残念ながら、取り立てて策があるわけではなかった。




