ゾンビの正体は?
プチドラは、わたしの肩にぴょんと飛び乗り、耳元でささやいた。
「このゾンビの正体は、きっと、猟犬隊員だよ」
「えっ!?」
わたしは、一瞬、ギョッとしてプチドラに顔を向けた。プチドラによれば、ゾンビの数と誘拐された猟犬隊員の数が一致することや、ゾンビにまとわりつく衣服の切れ端の色が猟犬隊員ユニフォーム色と同じく黒であること等々から合理的に考えれば、正体は猟犬隊員以外に考えられないとのこと。ならば、捕虜とされた猟犬隊員は、誰かにカオス・スペシャルを大量に投与され、ゾンビ化したことになるが……
「デスマッチ社長、さっき、クライアントとの約束と言ったわね」
「そうだが、それが何か?」
「そのクライアントって、ひょっとして、わたしのこと?」
デスマッチはすぐに答えず、一瞬、間を置き、
「そちらとは、カオス・スペシャル継続的供給契約以外に、約束はないはずだが」
デスマッチは顔色も声色も変えず、ポーカーフェースを崩さずに言った。それなら、
「とぼけないでよ。今すぐにでも、懸案の捕虜の交換に応じてもいいわよ」
「捕虜の交換だって? それは別に構わないが、今日はラードの話をしにきたのではなかったのか?」
わたしとデスマッチは、しばらくの間、どことなくかみ合わない話を続けた。こちらとしても、捕虜のギルド員は既にこの世にいないので、簡単に「捕虜の交換に応じる」と言われては困る。ただ、デスマッチはこちらの事情まで知らないだろうから、そうはならないだろう。
そのうち、地下室のゾンビの隣で話をするのは気持ちが悪くなってきたので、わたしたちは、場所を社長室に移し、話を続けた。しかし、捕虜の交換についての結論は出なかった。こちらにも弱みはあるし、デスマッチも本質的に商人だけあって話はうまく、のらりくらりと話を引き延ばしている。ただ、話した感じでは、デスマッチはゾンビ化の原因を知らないようだ。もし知っていたら、それをネタにして、話を自分の方に有利に運ぼうとするだろうだから。
であれば、捕虜の猟犬隊員にカオス・スペシャルを服用させたのは、顔面大爆発のキム・ラードということになる。ラードがわたしの執務室に勝手に上がりこんで読んでいた資料の中に、ゾンビ化の報告書があったに違いない。あいつ、この前に「復讐」とか言ってたけど、猟犬隊員は復讐のための実験台にされたのだろうか。
しばらくすると、不意に、外の方がガヤガヤと騒がしくなった。何か事件でも起こったのかと思っていると、ギルド員の一人がドタバタと大慌てで社長室に駆け込み、
「社長、大変です! ゾンビです!! ゾンビの群れが!!!」




