情報は集まったけれど
レオ・ザ・デスマッチとキム・ラードの生い立ちや経歴や性格等々について、ひととおり情報は集まったけれど、
「う~ん…… これでは、もうちょっと…… もっと直接ガツンといけるような……」
わたしがぼやいていると、ドーンがいつものように諸々の報告のために執務室を訪れ、
「カトリーナ様、難しい顔をされてますが、一体、何を???」
「えっ? え~っと、レオ・ザ・デスマッチとキム・ラードのことよ。脱税しているとか、実はどこかに人質にできそうな隠し子がいるみたいな、もっと直接的な弱みを握りたかったのだけど」
「脱税でしたら、会社の財務書類を盗み出さないと、難しいと思います。さすがに隠し子は……そのような形跡は皆無でした。現時点でできることについて、最大限の努力はしてますが」
「努力は評価しているし、制約が多い中でよく頑張ってると思うわ」
「ありがとうございます」
ドーンはかしこまって頭を下げた。
わたしは報告の書類に目を通しながら、
「弱みを突くのは無理っぽいとしても…… あの二人が仲間割れでもしてくれないかな」
「仲間割れですか。それでしたら、可能性はあるかもしれませんな。あの二人、どうやら目指すものが少し違うようなのです。デスマッチは商人の子ですから、財産を蓄積することが発想の前提にあるようです。シーフギルドを乗っ取ったのも、結局、裏の世界を牛耳って贅沢したいからではないかと思います」
「へ~、そうなの。それじゃ、ラードは?」
「ハーフ・オークのキム・ラードは、ヒューマンの社会では幼い頃から疎まれ、何度も殺されかけています。この世界からヒューマンを完全に撲滅することがラードの本当の狙いではないかという話もありますから、二人の目指す方向が互いに矛盾・衝突するように持っていけば、仲間割れも有り得るかと思われます」
「それじゃ、今はどうしてくっついてるんだろう。裏の世界で君臨するのがとりあえずの目的かしら。そもそも二人の出会いって、どんなだったのだろう?」
「それはよく分かりません。剣の達人と魔法の達人ですから、お互いがお互いを必要としたのではないでしょうか。でも、まあ、『英雄並び立たず』と言いますから、そのうち、ひょっとしたら……」
その時、ポット大臣が眼の周りを腫れ上がらせ「ひぃ~」と悲鳴を上げながら、ドタバタと執務室に駆け込んできた。
「た、た、たっ! 大変です、カトリーナ様!!」
「どうしたの? その顔……」
「ヤツです! また、あのハーフ・オークが!!」
どうやら、また、キム・ラードがやって来たらしい。哀れなポット大臣、今度は正面から殴られたのだろう。




