再びキム・ラード
ポット大臣が執務室に駆け込むと、そのすぐあとに、
「よお、しばらくぶりだな。景気はどうだい?」
超がつくほど醜悪なハーフ・オーク、キム・ラードが錫杖を鳴らしながら、執務室に入ってきた。
「あなたは元気そうね。幸せを肌で感じることができるくらいに単純なのかしら?」
「がはははは、口の悪いお姫様だ。混沌の領域で根性を叩き直してもらえばいい。礼儀作法を体で覚えこむようにな。もし、お望みなら、知り合いを紹介してやろう」
「遠慮しておくわ。無作法はあなたでしょ。あなたほど厚顔無恥になれれば、世の中、楽しくて仕方がないでしょうね。今日は何をしにきたの? あなたと世間話をするほどヒマじゃないわよ」
するとラードは錫杖でシャリンと床を突き、わたしの机の前まで歩み寄って、
「私もヒマじゃない。G&Pブラザーズ専務取締役として多忙を極めておるのだ。分からぬかな?」
「能書きはいいから、さっさと用件を言いなさいよ」
「せっかちなお姫様だ。『あわてる乞食はもらいが少ない』と言われておるがな。用件は言うまでもない。繰り返しになるが、我々と伯爵殿への債権と伯爵殿から我々への債権を相殺し、お宅の猟犬隊隊員と我がギルド員を交換すること、並びに、G&Pブラザーズと伯爵殿が長く誼を結び共存共栄を図ることだ」
ラードは、アバンギャルドに崩壊しそうな顔をわたしに近づけた。
わたしは気持ちが悪くなるのを我慢しながら、
「猟犬隊とギルド員の交換の提案は却下。もともと、お宅のギルド員は麻薬密売の容疑で拘束してるのよ。法は曲げられないわ。まず、あなたたちが即時無条件で猟犬隊員を解放しなさい。猟犬隊員は子供じゃないんだから、迷子になるわけがないし、ちゃんと一人で家に帰れるわよ」
「ほぉ~、だがしかし、それは認識不足というものだ。文字通りの意味で、『月夜の晩ばかりじゃない』ぞ。それに、偶然とは恐ろしいもので、万が一の事故が発生しないとも限らない」
「確率の問題なら運の悪い日もあるでしょ。そもそも、生まれてくるときだって確率よね。親を選べないし……」
そう言うと、突然、なぜだかラードは眉間にしわを寄せ、
「こっ、この…… 優しく言っているうちに考え直す方が、身のためだぞ」
と、ドスの利いた声で言った。そういえば、ラードは同郷の人に「生まれてこないほうがよかった」と言われていたとか。自分の出生に関しては、かなりのコンプレックスを持っているのだろう。出生の話をすればラードでも冷静さを失うとすれば……思わぬところでラードの弱点みたいなのを発見できたわけだ。
「その言葉は、そっくりそのままあなたに返しするわ。単細胞ね。脅せば万事解決するとでも思ってるの?」
ラードの醜い顔はますます破滅的に醜くなっていく。本当に、何気ない一言が相手を傷つけることってあるんだね(と、実感)。ともあれ、今のところ、わたしがやや有利か……




