【森での実験】
翌朝。
まだ夜の名残が残る薄暗い時間だった。
窓の外では小鳥が鳴いていた。
朝の冷たい空気が部屋へ流れ込む。
アリアはゆっくりと目を開く。
ぼんやりとした頭のまま天井を見つめ、それから小さく息を吐いた。
「……眠い」
身体はまだ重い。
けれど、不思議ともう一度眠ろうとは思えなかった。
胸の奥が落ち着かない。
昨夜、自分の身に起きたこと。
あの[数字]を書き換える力。
あれが夢ではないのならーー
自分は、とんでもないものを手にしてしまったのかもしれない。
布団の上でそっと拳を握る。
心臓が少し速く脈打った。
「……もっと調べないと」
呟きは、ほとんど独り言だった。
両親を起こさないよう静かに着替え、軋まない場所を選びながら部屋を出る。
まだ家の中は静まり返っていた。
アリアは慎重に扉を開け、朝靄の残る外へ出た。
向かったのは村外れにある小さな森だった。
昼になれば薬草採りや薪拾いに来る人もいるが、この時間ならまず誰もいない。
森は朝靄に包まれていた。
アリアは周囲を何度も確認してから、一本の大木の根元へ腰を下ろした。
そして深く息を吸い込む。
「……ステータス」
意識した瞬間、視界に半透明の文字が浮かび上がった。
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アリア・フェルロード
Lv:1
筋力:2
敏捷:5
魔力:40
体力:3
『数字変換F』
対象の[数字]を書き換える
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改めて見ても、現実感がない。
だが昨夜、石の数字を書き換えた感覚は確かに残っていた。
アリアは唇を引き結ぶ。
「……自分にも使えるのかな」
もし使えるなら。
自分自身を強くできるのなら。
震える指先を押さえ込みながら、[筋力:2]へ意識を向ける。
すると数字が淡く光った。
「……っ」
できる。
アリアは思わず息を呑む。
心臓の鼓動が一気に速くなった。
恐る恐る、数字を書き換える。
2を―3へ。
瞬間。
ドクンッ!!
胸の奥で心臓が大きく脈打った。
同時に、身体の中から何かが一気に抜け落ちる感覚が走る。
「うっ……!」
強烈な脱力感に、アリアは思わず地面へ手をついた。
頭がくらくらする、
呼吸まで少し苦しい。
だが、それとは別に。
身体の感覚が変わっていた。
アリアはゆっくり立ち上がる。
拳を握る。
腕に力を込めた瞬間、昨日までよりも明らかに軽く動いた。
「……あれ?」
近くに落ちていた太い枝を持ち上げてみる。
昨日なら両手で苦労していたはずなのに、今は片手でも持ち上がった。
「ほんとに……強くなってる……」
驚きと興奮で声が震える。
だが次の瞬間、視界に新たな文字が浮かび上がった。
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魔力不足
変換維持まで残り:35秒
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「……え?」
維持。
その言葉を理解するより早く、筋力の数字が淡く揺らぎ始めた。
3。
その数字がゆっくりとー2へ戻る。
途端に身体が重くなった。
さっきまで簡単に持てていた枝も、急にずしりと重量を増したように感じる。
「時間制限……あるんだ」
アリアは額の汗を拭いながら考え込む。
どうやら、一度変えれば終わりじゃないらしい、
この状態を保つだけでも、魔力が削られていく。
瞑想し魔力を回復する。
その時だった。
近くの茂みがガサリと揺れた。
「……!」
アリアの肩が跳ねる。
反射的に立ち上がった。
低いうなり声。
草を踏み分ける音。
そして飛び出してきたのは、灰色の毛並みをした小型の魔物だった。
鋭い牙。
獣のような四肢。
ウルフラット。
村周辺でも時折現れる低級魔物だ。
視界へ数字が浮かぶ。
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ウルフラット
Lv:2
筋力:4
敏捷:5
体力:6
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「数字……見える」
人だけじゃない。
魔物にも見える。
アリアが息を呑んだ瞬間、ウルフラットが地面を蹴った。
速い。
「きゃっ!?」
咄嗟に横へ転がる。
鋭い牙が頬をかすめ、熱い痛みが走った。
触れると指先に血がつく。
本能的に理解した。
普通なら勝てない。
Lv1の少女が一人で倒せる相手じゃない。
けれどー
アリアの視線は、ウルフラットの数字を捉えていた。
敏捷:5
「これを……」
喉が震える。
だが目は逸らさない。
意識を集中させる。
5をー3へ。
瞬間、頭の奥を鈍器で殴られたような衝撃が走った。
「うぁっ……!」
大量の魔力が持っていかれる。
視界が揺れた。
だが次の瞬間。
ウルフラットの動きが目に見えて鈍くなった。
「ギャウッ!?」
着地に失敗し、その場によろめく。
さっきまでの俊敏さが嘘みたいだった。
「すごい……!」
本当に弱体化している。
だが安心した一瞬の隙を、魔物は逃さなかった。
敏捷は落ちても筋力は高い。
ウルフラットが低く唸りながら飛びかかる。
「っ!!」
アリアは咄嗟に近くの木へ触れた。
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木
耐久:10
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10をー20へ。
ゴォン!!
直後、突っ込んできたウルフラットが木へ激突した。
だが木は折れない。
むしろ、硬くなった幹にぶつかった魔物の方が悲鳴を上げた。
「今……!」
アリアは足元の石を掴む。
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石
硬度:10
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10を30へ。
石の感触が変わる。
まるで鉄の塊みたいに硬くなった気がする。
アリアは歯を食いしばり、全力で振り下ろす。
ゴッ!!
鈍い音が森へ響いた。
ウルフラットの身体が痙攣し、そのまま地面へ崩れ落ちる。
数秒後。
完全に動かなくなった。
静寂が戻る。
アリアはその場へへたり込んだ。
「はぁっ……はぁっ……」
息が苦しい、
頭痛も酷い。
手の震えが止まらなかった。
怖かった、本当に死ぬかと思った
それでも魔物を倒したのだ、自分の力で。
その瞬間、
視界に淡い光が広がった。
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個体成長を確認
Lv:1 → 2
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温かな感覚が身体を包み込む、
疲労が少し軽くなる。
空っぽだった魔力も、わずかに戻ってきた感覚があった。
「……レベルアップ」
呆然と呟く。
アリアは倒れたウルフラットを見つめた。
数字を書き換えるだけの力じゃない。
組み合わせれば、戦える。
工夫次第では、もっと―。
そこまで考えた瞬間、急に背筋が寒くなった。
もし、この力が知られたら。
村の人たちはどう思うだろう。
冒険者は、貴族は。
国は…。
こんな力、放っておくはずがない。
檻の中、白い部屋。
何度も力を使わされる自分。
そんな光景が、
一瞬脳裏をよぎった。
アリアは無意識に胸元を掴んだ。
鼓動が早い。
怖い、
けれど同時に、自分でも分かっていた。
この力は―あまりにも強すぎる。
「……絶対に隠さないと」
誰にも知られてはいけない。
そうしなければ、きっと普通の生活には戻れなくなる。
朝日が少しずつ森を照らしていく中、アリアは強くそう決意した。
アリア・フェルロード♀年齢15 Lv:2
『数字変換F』
Fランク時の変換効率 維持費1秒=1
物質使用時 消費1=2 生命体使用時 消費1=5
筋力:4
敏捷:6
魔力:50
体力:5




