【数字が見える少女】
眩しい光の中、
アリアは目を覚ました。
木の天井。
柔らかなベッド。
知らない部屋。
「起きた?」
優しそうな女性が微笑む。
「アリア、覚えてる?」
その名前を聞いた瞬間、
記憶が流れ込んだ。
小さな村。
木こりの父。
料理上手な母。
そしてーー
白髪と青い瞳を持つ十五歳の少女。
「……女の子?」
前世は男だったはずなのに、
最後の記憶だけがない。
混乱するアリアの頭へ、
突然声が響く。
《ユニークスキル【数字変換】を獲得しました》
視界に半透明の画面が浮かぶ。
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アリア・フェルロード♀年齢15 Lv:1
筋力:2
敏捷:5
魔力:40
体力:3
『数字変換F』
対象の[数字]を書き換える
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「数字を書き換える……?」
そこへ父親が入ってきた。
「お前のスキル、聞いたぞ」
父は困った顔で言う。
「『数字変換』なんて聞いたことねぇ、
たぶんハズレスキルだ」
外から笑い声。
「数字変換? なんだそれ!」
「役立たずじゃね?」
胸が少し痛む。
前世でも特別じゃなかった。
転生してもまた[外れ]。
静かになった部屋で、
アリアは机のリンゴを見る。
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リンゴ
鮮度:80
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「……数字が見える?」
試しに、
80を100へ変えてみた。
数字を書き換えた瞬間、
体の奥から何かを消費した感覚が走る。
すると傷んでいたリンゴが、
一瞬で瑞々しく戻る。
「え……?」
本当に変わった。
その時ーー。
「アリアー? どうしたの?」
母が不思議そうに声をかける。
慌ててリンゴを隠すアリア。
「な、なんでもない……」
けれど胸は激しく高鳴っていた。
本当に数字を書き換えられた。
意味のわからないスキル。
だけど、
ただの[ハズレ]ではない気がした。
それから数日。
アリアは村でいつもの生活を送っていた。
朝は水汲み。
昼は畑仕事の手伝い。
夕方は薪運び。
森に囲まれた小さな村は平和で、
危険な魔物もほとんど出ない。
普通の人間のLvは2〜3程度。
自警団でもLv5あれば強い方だった。
だからこそ、
戦闘向きではないスキルは軽く見られる。
特にアリアの【数字変換】は、
誰も聞いたことのないスキルだった。
「おい、[数字ちゃん]!」
村の子供達が笑いながら声をかけてくる。
「今日は何の数字変えるんだ?」
「パンの数でも数えてろよ!」
ゲラゲラと笑われる。
アリアは小さく俯いた。
「……」
反論はしない。
しても無駄だと、
なんとなく分かっていた。
同年代の子達は、
火を出したり、
風を起こしたり、
身体能力を強化したり。
見た目でわかるスキルばかりだった。
けれどアリアのスキルは地味すぎる。
何ができるのか、
本人ですらまだ理解できていないのだから。
その日の夕方。
アリアは一人で森の近くへ来ていた。
「……はぁ」
小さくため息を吐く。
すると近くの石が目に入る。
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石
硬度:10
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「硬度……?」
試しに10を0へ変えてみる。
直後、
また魔力が削られる感覚。
そして石を拾い上げるとー
「軽っ!?」
指で押しただけで、
ボロっと崩れた。
「……すご」
今度は近くの木を見る。
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木
耐久:60
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恐る恐る60を80へ変更。
すると木の表面が僅かに硬質化し、
斧で軽く叩いても傷一つつかない。
「数字によって、
本当に結果が変わる……」
アリアの青い瞳が驚きで揺れる。
けれど同時に理解した。
このスキルは危険だ。
もし知られれば、
利用されるかもしれない。
だからアリアは、
誰にも言わないことに決めた。
翌日。
村の広場。
子供達が木剣で模擬戦をしていた。
「アリアもやるか?」
「どうせLv1だろ?」
「数字変換で勝つのかー?」
笑い声。
アリアは困ったように首を振る。
「……いい」
すると一人の少年が、
わざと肩をぶつけてきた。
ドサッ。
アリアは地面に倒れる。
「わっはは! 弱っ!」
アリアは何も言い返さなかった。
土で汚れた服を払い、
静かに立ち上がる。
「……帰る」
「逃げた逃げた!」
背後で笑い声が響く。
胸の奥が少しだけ痛んだが、
アリアは振り返らなかった。
夕暮れの村道を一人歩く。
空は赤く染まり、
家々の煙突から夕食の煙が上がっている。
「ただいま……」
家へ入ると、
母が鍋をかき混ぜながら振り向いた。
「おかえりアリア。遅かったわね」
「ちょっと森の方に……」
「危ないことしちゃダメよ?」
優しい声だった。
その優しさが逆に少し辛い。
父も椅子に座りながら口を開く。
「また村の連中に何か言われたのか?」
アリアは少し黙り、
小さく首を横に振った。
「別に……」
本当は悔しかった。
でも心配はかけたくない。
夕食を終え、
自室へ戻る。
窓から月明かりが差し込み、
部屋を静かに照らしていた。
アリアは椅子に座ると、
ゆっくり息を吐く。
「……研究してみよう」
このスキルの正体を。
『数字変換F』
“数字”を書き換える。
意味が広すぎる。
だからこそ、
可能性も分からない。
アリアは机の上にある物を並べた。
リンゴ。
石。
木片。
水の入ったコップ。
まずはリンゴを見る。
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リンゴ
鮮度:30
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「今は30のまま……」
試しに30を0へ変更。
瞬間、
リンゴが黒ずみ、
腐臭を放ち始めた。
「うっ……!」
慌てて窓を開ける。
「極端すぎる……」
次は水。
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水
純度:90
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90を100へ。
すると水が透き通り、
僅かに光を反射した。
「綺麗になった……?」
恐る恐る飲んでみる。
「……おいしい」
普通の水なのに、
妙に澄んだ味がした。
さらに石を取り出す。
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石
硬度:20
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今度は逆に、
20を30へ変更。
ズゥッ……
石が重々しい音を立て、
色まで僅かに変化する。
持ち上げようとしてーー
「えっ、重っ……!?」
びくともしない。
床に置いた部分が少し沈んだ。
「硬度を上げすぎると、
重さまで変わる……?」
アリアは驚きながらも、
頭の中で整理していく。
数字はただの表示じゃない。
世界そのものを構成している。
その“数値”を書き換えているのだ。
「……これ、すごいかもしれない」
胸が高鳴る。
だが同時に、
強烈な疲労感も押し寄せてきた。
「……っ」
視界が揺れる。
魔力だ。
数字を大きく変えるほど、
消費が激しい。
特に28まで下げた時は、
一気に持っていかれた感覚があった。
アリアはベッドへ倒れ込む。
「まだ制限がある……」
何でも自由に変えられる訳ではない。
たぶん、
魔力に応じて変換量にも限界がある。
そしてーー
「生き物には?」
その瞬間、
部屋の空気が少し重く感じた。
自分自身。
他人。
魔物。
もし数字を書き換えられたら―。
そこまで考え、
アリアは首を振る。
「……今はやめよう」
危険すぎる。
まだ何も分かっていない。
けれど一つだけ、
確信できることがあった。
このスキルは、
絶対に[ハズレ]なんかじゃない。
月明かりの中。
アリアの青い瞳が、
静かに輝いていた。




