【正式な冒険者】
魔物の素材を回収したあと、
アリアはギルドへ戻ることにした。
ギルドへ着くと扉はすでに閉ざされ、
中の明かりもほとんど消えていた。
「……報告は明日になりそうね」
アリアは近くの宿屋へ足を向けた。
着いたのは初めてこの街に来た時に、
泊めてもらった宿屋だった。
カウンターに向かうと、
見覚えのある店員が顔を上げた。
「部屋は空いてますか?」
「はい、空いてますよ……」
店員はそこで、アリアの顔を見て目を丸くした。
「あれ、お嬢さん。この前の?」
店員はアリアとルミシェナを交互に見ると、
確認するように尋ねた。
「二人で一部屋でいいかい?」
「え……」
アリアは思わずルミシェナを見る。
「食事付きなら一人銀貨一枚。
別々の部屋にするなら、
追加で一人銅貨三枚だよ」
今の手持ちでも払えない額ではない。
けれど、宿代はなるべく抑えたい。
「あ、えーと……」
アリアが迷っていると、
ルミシェナは静かに口を開いた。
「私は、主様と同じ部屋で構いません」
「そ、そう……?」
「はい。むしろ、その方が安心できます」
真顔でそう言われ、
アリアは少しだけ頬を引きつらせた。
「一部屋で、食事付き二人分お願いします」
「はいよ。なら銀貨二枚だね」
アリアは銀貨二枚を差し出した。
店員はそれを受け取ると、
奥から部屋の鍵を取り出す。
「二階の奥の部屋だよ。食事はすぐ用意できるから、荷物を置いたら下に降りておいで」
「ありがとうございます」
鍵を受け取ったアリアは、
ルミシェナと一緒に階段へ向かった。
部屋に入ると、
中には小さなベッドが二つ並んでいた。
思っていたよりも綺麗な部屋だったが、
アリアは荷物を置くなりベッドに腰を下ろした。
墓地での戦いを思い出すと、
まだ少し指先が震える。
「……疲れた」
「主様、大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。今日は色々ありすぎただけ」
その時、扉の外から店員の声が聞こえた。
「食事の用意ができたよ」
アリアは小さく息を吐き、立ち上がる。
「行きましょう。お腹も空いたし」
「はい、主様」
二人は部屋を出て、
一階の食堂へ向かった。
一階の食堂で、
アリアとルミシェナは遅めの食事を取っていた。
周りには他の客もいる。
食事の途中、
アリアは向かいに座るルミシェナを見つめた。
(……よく考えれば、ルミのことをほとんど知らないわね)
「どうかされましたか?」
「いや、ルミってこの街の人なの?」
「……いえ。私の故郷は、ここから遠く離れた場所にあります」
「遠く?」
「はい。ラトナという小さな村です」
ルミシェナはそう言うと、
少しだけ視線を落とした。
「ですが、今はもう……戻れる場所ではありません」
「……そう」
それ以上聞いていいのか分からず、
アリアは黙ってスープを口に運んだ。
食事を終えた二人は二階の部屋へ戻った。
明日のことを考える余裕もなく、
アリアはベッドに横になる。
「……おやすみ、ルミ」
「おやすみなさいませ、主様」
その夜、アリアはすぐに眠りに落ちた。
翌朝。
アリアが目を覚ますと、
ルミシェナはすでに身支度を終え、
荷物までまとめていた。
「おはようございます、主様」
「わっ、もう起きてるの?」
「はい。いつでも出発できます」
「荷物まで……」
宿屋を出た二人は、
そのままギルドへ向かった。
ギルドに入ると、
アリアは受付カウンターへ向かう。
「昨日の依頼の報告に来ました」
「はい、確認しますね」
カリナは依頼書と素材を見比べ、
小さく頷いた。
「確かに受け取りました。
こちらが報酬です」
「ありがとうございます」
アリアが報酬を受け取ると、
カリナは少し気まずそうに口を開いた。
「それとアリアさん。
仮登録の期限が迫っています」
「仮登録の期限?」
「はい。このままだと、あと数日で仮登録が失効してしまいます」
「失効すると、どうなるんですか?」
「そのままでは依頼を受けられなくなります。
活動を続けるなら、改めて正式登録していただく形になります」
アリアは少し考え込んだ。
これからも依頼を受けるつもりなら、
正式登録は避けられない。
「……正式登録するには、どうすればいいんですか?」
「銅貨三枚の手数料を払っていただければ、
正式登録できます」
「それなら、これでお願いします」
アリアは銅貨三枚を差し出した。
「はい、確かに受け取りました」
カリナは奥から新しいバッジを取り出す。
「これでアリアさんは正式な冒険者です。
木章バッジをお預かりしますね。
代わりに、こちらの鉄章バッジをお渡しします」
アリアは木章バッジを外し、
代わりに鉄章バッジを受け取った。
「これからは依頼達成数と命石の数で、
ランクを上げることができます。
頑張ってくださいね」
「はい、ありがとうございます。……あの、そう言えば命石持ってます」
命石については前に来た時聞いていたので、
魔物を倒した時に素材と一緒に回収していた。
アリアはカバンの中から、
青く光る石をいくつか取り出した。
「これですよね……」
「はい、それが命石です」
カリナは命石を受け取り、
少し驚いたように目を丸くした。
「もう結構手に入れていたんですね」
カリナは命石を確認すると、
小さく頷いた。
「では、こちらは討伐記録として回収させていただきます。
正式登録したばかりですが、
これで少しランク評価も進みますよ」
アリアは受け取った鉄章バッジを見つめ、
小さく息を吐いた。
ようやく、自分も正式な冒険者になれたのだ。




