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かぼちゃのパンツはもういらない~弱みを握ればこっちのもの!  作者: 星降る夜


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8 風が変わった夜


 信じない者は、必ずいる。

 それでも夜は来て、矢は放たれる。

 この夜、守ると決めたものがある。

 ――東からの風が変わった。


 「こんなガキの言うことを聞くなんて、皆どうかしてるぜ。俺は抜ける!」


 ノブが吐き捨てるように言った。

 薄暗い集会小屋の空気が、ぴん、と張りつめる。


 レオンは眉ひとつ動かさず、ノブの肩を押さえつけたまま答えた。


 「抜けるのは構わない。――明日ならな」


 その静かな声に反応して、

 さっきレオンを呼びに来た茶髪の少年が立ち上がった。


 「レオンの言う通りだ。今夜、夜襲がなければ抜ければいい。信じてないんだろ?」


 「そうだ、明日抜けろ!」


 「うるさいから今夜はもう寝ろよ!」


 里の者たちが一斉に言う。

 誰もが本音では怖いのだ。

 “今ここで外に出たら本当に死ぬかもしれない”と。


 別に今夜抜けなくてもいい――そうやって皆、自分を誤魔化していた。


 私は、胸の奥がぎゅっとなるのを感じていた。


 「レオン、夜襲の詳細はわかるのか」


 重い声で誰かが呟く。

 皆の視線がレオンに、そしてその隣の私に向けられる。


 レオンは私を一瞬見る。

 逃げ場はない。喉が鳴った。


 私はポップアップを確認する。

 ――やっぱり、皆少しずつ違う。

 矢で傷ついている者、火の痕がある者、斬られた痕がある者。

 そして全員、夜の刻限が微妙にずれていた。


 「……レオン、ここの見取り図ある?」


 誰かが持っていた里の見取り図を差し出した。


 「たぶん、こうなるりょ」


 私は震える声で言った。


 レオンはノブを片手で拘束したまま、もう片方で見取り図に印をつけ始める。


 私の言葉を、次々図面に落としていく。


 カリッ、カリッ……

 その音がやけに大きく響いた。


 そして見えてきた“夜襲の全容”。


 「まず、内側から鍵を開け忍び込む。手前の者を刀で斬り、

 出てきた者を矢で射る。

 最後に――火矢で火を放ち、逃げ遅れた者を焼き殺したんだな」


 レオンが読み上げた瞬間、

 見取り図を覗き込んでいた里の者全員が息をのんだ。


 小さく、誰かが震える声で言う。


 「……じゃあ、俺たちは全員……」


 「時間がない。」


 レオンがかぶせるように言った。


 「まず鍵は全部開ける。どうせ、手引きの者が開ける予定だったんだろう。」


 そう言うといつの間にか、ぐるぐる巻きにされたノブを一瞥した。


 「閉まっていると逆に危ない。襲撃は東から来る。俺たちは待ち伏せする」


 「レ、レオン、これ……どうする?」


 誰かが指さしたのは、怯えた里の者ではなく、


 ――私。


 レオンは無言で私をひょい、とつまみ上げた。


 「お、おわっ!? なにゅ!?」


 レオンの目が細くなる。


 「お前が一番じゃまだな。――俺が見る」


 そう言った声は、

 これまでで一番低かった。

 

 レオンは私を片手でつまみ上げながら、鋭く周囲を見渡した。


 その眼差しは、たった今までの軽口とはまるで別物。

 里の者たちも、その変化に息を殺した。



 焚き火の炎が揺れ、レオンの横顔に赤い筋を描く。

 誰もが喉を鳴らし、ただ黙って耳を傾けていた。


 レオンは私を胸元に引き寄せ、別の手で見取り図を指す。


 「もう一度確認だ。鍵を全部開け放て。

  東側に三人。高台に一人。物見やぐらの下に、二人配置しろ。

  ――俺は、この子を護りながら中央で指揮を取る」


 「し、指揮を!? レオン、お前がか?」


 誰かが声を上げたが、レオンは目だけで黙らせた。

 その眼に射抜かれ、男はすぐに口を閉じる。


 「俺は帰る気だ。お前らもだ。違うか?」


 ぎりっ、と誰かが拳を握りしめる音がした。


 「レオン……その嬢ちゃんはどうする?」


 「俺から離す気はない」


 レオンの胸元で私は縮こまった。


 手は荒いけど、レオンの懐は暖かい。


 ちゃんと明日のご飯食べられるかな……


 心なしか皆のポップアップが薄くなったような気がする。

 生きる未来が、少しだけ濃くなったせいだ。


 レオンの気迫が伝わってくる。


 “絶対に離すつもりがない”という気迫だ。


 レオンは低くつぶやいた。


 「こいつの言葉で今夜が変わるんだ。

  だったら、死んでも護る」


 その場の空気が、すっと静まり返った。

 皆が真剣に頷く。


 「配置につけ。急げ。

  ……東の風が変わった。来るぞ」


 レオンが風の匂いを嗅ぐように顔を上げた。


 次の瞬間――。


 ひゅう、と夜の端がかすかに鳴いた。


 それは、風か。

 それとも――矢が飛ぶ前の前兆か。


 胸に抱かれたままの私は、息をのんだ。


 顔を上げると、皆のポップアップが――確かに変わっていた。


 運命が変わるんだ。


 そう思いギュッと目を閉じた。



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