7 神託(?)三歳児、集会所をざわつかせる
三歳の私にしか見えないものがあるらしい。
でも信じるかどうかは、あなた次第。
「スパイ、と言ったな。特徴を言え」
「えっとね……」
記憶をたぐる。
すれ違った瞬間の違和感を必死に思い出そうと、目をぎゅっとつむる。
そのとき――
ピコンッ!
私にしか見えない音だ。
レオンのポップアップが更新された。
『夜襲0:00時 スパイ2名』
「えっと……スパイは2名。このお家の人はちがいましゅ」
「残りを集めるか」
レオンは無駄のない動きでドアを開け、皆を集会所へ集めるよう淡々と指示を出した。若いのに、誰も逆らわない。やっぱり強いんだ、この人。
「集会所に行く。裏切り者を教えろ」
小さく耳元でささやくその声は冷たく、けれど、ほんの少しだけ揺れていた。
(やっぱり、気づいてるんだ……何かがおかしいこと)
私はレオンに、カミカミしながらも知っている限りを伝えた。
レオンはしばらく腕を組み、それから静かに膝を折って私の目線まで降りてきた。
「――お前は、何者だ」
レオンの影が、私の足元まで伸びてきた気がした。
深い海のような青い瞳が、真っ直ぐに私を射抜く。
逃げ場がないほど静かで、綺麗で、冷たい。
でも。
その中に、ほんの少しだけ温度があるのを、私は知ってしまっている。
「ルリア……でしゅ」
「名前を聞いているんじゃない。“力”だ」
「ないでしゅ」
「嘘だ」
「ほんとでしゅ!」
「何故、助ける」
「明日のご飯を美味しく食べたいからでしゅよ、もちろん」
レオンは訳がわからないと言うように頭に手を置いた。
そして小さくつぶやいた。
「……今日ここにいないのは、お頭だな」
低く呟いた一言。その一言で、レオンが全てを悟ったことがわかった。
今日行くはずだった任務。指図したのはお頭だったのだろう。そしてこの場にいないお頭。
たぶん他の皆は、「留守にしている」くらいにしか思っていないだろう。
夜襲の予告を知っているのは、この世界で私ひとりだけだ。
お頭が敵に寝返り、仲間を処分しようとしていることなど、誰も想像すらしていない。
だから――
・事実を言っても信じてもらえない
・むしろ、レオンが裏切ったと思われる
私の答えいかんで、レオンが仲間に殺される。
(絶対にそんなのダメ)
ドアが開いて声が掛かる。
「皆集まりましたぜ。どうしやす?」
「ああ、今行く」
茶色の髪の青年が私を一瞥して出て行った。
彼の頭上にもポップアップが出ている。
皆を見捨てるなんて、私にも出来ない。
やっぱり皆で助かろう。
だって、死んじゃったら明日のパンケーキ食べられないでしょ。
「行くよ、任せてね」
「はぁっ!?」
レオンが素っ頓狂な声を出した。
3歳の幼児に任せられるわけがないだろう!その目がそう語っている。
でも私にはこの場を切り抜ける勝算があった。
レオンは倉庫の罠にはかからなかった。
これは敵には想定外だ。
――なら勝てる。
――やっつければ良いだけだ。
集会場に入ると、やっぱり1人だけポップアップが出ていなかった。
私はレオンに素早く伝える。
“一番後ろの右端の茶色い帽子の人”
「ノブか。……わかった」
私は一番前に出て、ご挨拶する。
「はじめまして、ルリア3歳でしゅ」
雑談でザワザワしていた場が、誰も私に興味を示さない。
そこで、私は大きな声で言った。
「神のお告げがありました。これから夜襲があり、まもなく皆様は全員神に召されるでしょう」
ざわめきが、刃物で切られたみたいに止まった。
「言い残すことがあれば伺います」
後ろの茶色帽子が立ち上がる。
「嘘だ。こんなガキの言う事なんて信じられるか!レオンは気でも狂ったんだ!」
彼はそう叫び、私を指さした。
「あなたは、大丈夫。生き残ります」
私は静かに言った。噛まなくてよかった。
すると前に座っていた人が立ち上がり叫ぶ。
「全員じゃないじゃないか。やっぱりこいつの言う事は変だぜ!」
「しゅつれいしました。全員とは味方のことでしゅ」
……噛んだ。致命的に。
一瞬、全員が顔を見合わせる。
つまり、そういうことだ。
視線が一斉に茶色帽子へ向く。
レオンの手が動いた瞬間、茶色帽子の男の影が床に縫い付けられたように止まった。
「どこへ行く」
その冷たく低い声、氷のような眼差しは、どう見ても15歳には見えなかった。




