3 自由すぎる3歳児、公爵家で日課を増やす。
3歳のルリアは離れで気ままな暮らしを満喫中。
気の合う人たちに囲まれ、のんびりした日常がどんどん楽しくなっていく――。
私はルリア3歳。公爵家の末っ子。
3歳の日常はのんびりとしていて暇だった。
両親も兄も姉も誰に会うこともない。なぜなら、私だけ離れに暮らしていたからだ。
小さいから一緒に食事をしないのかと思っていたけれど、そういうわけではないらしい。
まっ、虐待されているわけでもないし良いんだけどね。
取りあえず食事はちゃんとあるし、寝床も服もあったから。
でも不満はあるの。お食事がまずいの。お洋服がフリフリで趣味じゃないの。おまけにフリフリのかぼちゃのパンツ。なんせ、前世と思われる記憶が30代ですもの。
今日もピンクのフリルいっぱいのお洋服を着せられようとして、ごねてみた。一体誰の趣味よ!
「お首がチクチクしてイヤなの。髪の毛と同じ色なんてイヤ」
スーザンは大きくため息をついた。
「困りましたね。ピンクにフリルは女の子の大好きな物ですよ。お嬢様はどんなのが好きなのですか?」
そうよ!好みを言えばいいんだわ。
「レースにシックな色のセクシーなのがしゅき」
スーザンはピンクのフリフリを両手に広げて私の前に出したまま固まること1分。
お~い、息してますか?生きてる?
それから、今日3度目の大きなため息をついた。
”熱を出してから少し頭をやられたのかしら”なんてぶつぶつ言っている。
まずい、これはまずいわ。
「えっと……シンプルなのがしゅき」
「わかりました。落ち着いた色のを見繕ってきますね」
そう言って持ってきたのは紺色のワンピース。
あるじゃない、良い物が。やれば出来るのね。
私は至極満足して、本を読む。お昼を過ぎるといつものように、この間遊んだ庭師のおじいさんの所へ分厚い「薬草図鑑」を持って行くんだ。
それが、最近の日課だ。
おじいさんはトムさんて言うの。トムじぃ、って呼んでます。
私がトコトコ駆けていくと、トムじぃは向こうから急いでやって来て、図鑑を持ってくれる。3歳児には重たいから助かるのだ。
「お嬢様、毎回こんな重い本をお持ちになって、温室に置いておくのはどうですか?」
トムじぃ、重たいって言ってない?
でも嬉しそう……
本棚あるのかしら?うーん、使える!
グッドアイディア、トムじぃ!私は直ぐに頷いた。
それからトムじぃは、手際よく、温室に小さな本棚を作ってくれた。
いつものように一緒にお花の世話をして、最近は薬草も育てている。
図鑑を開いた途端、トムじぃの頭上にチラッと数字が見えた気がした。
ほんの一瞬だったけれど、確かに光った気がした……気のせい?
私が図鑑を持ってきたから、同じ物を植えてくれているそうだ。凄い。トムじぃは気が利くのだ。スーザンと違ってため息もつかないしね!
それから私はお食事がまずいとグチをいっぱいトムじぃに言った。
トムじぃは不思議そうに聞いていたけど、離れのお料理をしているコックさんとは親しいそうで、「今度話しておくよ」って!
やっぱり持つべき物は良い友達ね!
何でも母屋と離れでは厨房もコックさんも違うらしい。離れの厨房では主に使用人達の食事を担当しているそうだ。
良いこと聞いちゃった。それなら結構自由に好きな物お願いできるものね!
翌日、さっそくトムじぃが紹介してくれたコックさんが、丸くて大きな身体を揺らしながらやって来た。
テッドさんというらしい。見た目がどことなくネコ型ロボットみたいで、ひと目で親しみがわいた。
私は大好物の、ふわふわパンケーキのアップルソースがけと、カボチャのスープをご所望した。
「作り方がわからんのですよ」と困った顔をしていたので、
本で読んだ――という体で、こっそり前世の知恵を披露した。
(何を隠そう、前世で料理はよく作っていたのだ)
カボチャはポテトに変えても美味しいし、
パンケーキは卵の白身をしっかり泡立てるのがポイントだと教えると、
テッドさんは大きなお腹をポンと叩き、「お任せ下さい!」と胸を張った。
これからの食卓が楽しみで仕方ない。
みんな、3歳児の私のことをバカにせず、ちゃんと話を聞いてくれる。
なんて優秀で温かい人たちなんだろう。
……スーザンのため息がちょっと多いのは気になるけど。
こうして私の日課に、“メニュー会議”が加わった。
暇だった毎日が、どんどん充実していく。
ふふふ……幸せ~~~。
そしてついに、買い出しにも連れて行ってくれることになった。
「勝手に行っていいのかしら?」とソワソワしていたら、
スーザンが執事のセバスチャンに許可を取りに行った。
結果は――「お好きなように」。
スーザンはその場で怒っていたけれど、私は逆に感動した。
(好きなようにしていいって最高じゃない?)
どうにも、スーザンの心の動きは理解しづらい。
でもまあ、私は自由なのだ!
きっと、他の3歳児はこんな暮らしできないと思う。
美味しい食事に暖かいお部屋。
親切な人々に囲まれて……なんて、幸せなのかしら。
――ただ、私はまだ知らなかった。
この自由が、母屋の“誰か”を、じわじわ苛立たせているなんて。




