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【年末スペシャル】かぼちゃのパンツはもういらない~弱みを握ればこっちのもの!  作者: 星降る夜


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4/10

4 はじめての街で、怪しい影と唐揚げ事件。


 はじめての街で出会った、怪しい影。

 なぜか「パパ」と呼ばれ、唐揚げを差し出されることになる。


 買い出しの日、私は朝からウキウキしていた。


 街に行くのは初めてだったから。


 今日は市場にお野菜や魚を買いに行くんだ。


 テッドが”肉屋はお嬢様には向きません”って言うから、そちらはお任せすることにした。


 街へは荷馬車の後ろに乗っていく。私はスーザンの膝の上だ。


 公爵家だから本当は立派な馬車があるんだけど、こんな風に荷馬車の後ろなんて、物語の始まりみたいで、わくわくしちゃう。


 それに馬車は使わしてもらえなかったみたいで、スーザンは相変わらずぶつぶつ言っていた。こっちの方が楽しいのに、変なの?


 街行く人々もすれ違う人々も皆楽しそうだ。市場に行くと色とりどりの野菜や果物が所狭しと並んでいた。


 何だか前世で見たカレンダー写真の中みたい。素敵だわ。


 リンゴも3色あるの、赤、黄、緑。テッドには一番酸っぱいのがお料理に向くのだと教えてあげた。


 前世で食べた紅玉のアップルパイが食べたい。向こうには、いがいがの栗まであるじゃない。栗ご飯にモンブラン。


 想像しているだけでよだれが出ちゃう。


 ”じゅるっ”


 ま、まずいわ。レディーなんですものね。

 手の甲で、知らんぷりしながらお口をぬぐった。


 バレてない?

 まっ、良いか。

 3歳なんだしね。


 お魚は良くわからなかった。前世のお魚は皆切り身だったから。丸ごと見てもわからないのよね。ただ貝はわかるわ。ホタテにハマグリ、アサリね。


 後はテッドにお任せして、私とスーザンはお昼を食べることにしたの。


 お店は街の人達が良く行く定食屋さん。多分貴族は来ないようなお店。

 つまり我が家の家族は絶対に来ないお店。

 街角までお肉を焼く香ばしい匂いが漂っていて、こんなお店にも入れないなんて絶対に人生損をしていると思う。


 店先で、たれを塗った、串焼きまで売っていた。


 私が立ち止まって串焼きを見つめていると、焼いているお兄さんが片目をつむってきた。


 幼女にウインクしても買ってあげないからね!っていうか、ウインクしなくても買います!


 ……と思った瞬間、スーザンに腕をガシッとつかまれた。


 「お嬢様、行きますよ!」


 ずるずるずるっ。


 私は串焼きから視線を離せないまま、スーザンに半ば引きずられるように店の奥へ連行された。


 ……く、串焼き、まだ食べてないのに。


 一番奥の席に座らされると、スーザンは慣れた様子で注文を始めた。

 ウェイトレスが離れると、こっそりと教えてくれた。


 「お嬢様、妹のお店なんですよ」


 いつもと違って、ため息なしだ。


 嬉しそうな笑顔に良かったなって思うけど、でもまあ、スーザンはため息が趣味みたいな人だから、深く考えないでおこう。


 まっ、良いか。


 私、3歳だから、気にしてもしょうがない。


 ふっと入ってきた少年が気になり顔を上げた。


 ピコン!と、気配が飛んで、また頭上に数字が浮かんだ。


 またあの“ポップアップ”!


 見間違いじゃない。


 目立たない焦げ茶のマントに、深くかぶったフード。

 足音もしない。空気みたいな存在感――まさに“気配を消す”というのはこういう人のことだろう。


 目の前のスーザンですら気づいていない。


 少年……いや、少し背伸びした少年?

 体格は細く、まだ若い。十代前半――思ったより幼い。


 私がじぃっと凝視していると、彼が「おや?」というようにわずかに顔を向けた。


 深い海のような青い瞳がこちらを捉える。

 表情はほとんど読めないけれど、その目が言っていた。


 ――“なぜ俺に気づく?”


 いやいや!気づきますとも!


 あんなに大きなポップアップが頭の上に出ていたら!


 大きな看板しょって走るタクシーみたいなものよ!


 周りが気づかないのは……まあ、細かいことはいいわ。

 問題はその内容だ。


 【15:00 倉庫】


 その数字は、ただの予定には見えなかった。


 うん、どうしよう……。


 ――その時。


 運ばれてきた大きなチキンの唐揚げに、私の心は一瞬で持っていかれた。


 揚げたてで湯気が出ていて香ばしい匂いが鼻をくすぐる。美味しそう。


 じゅるっ、よだれが出ちゃう。


 熱々の唐揚げをフォークに刺して一口かじる。


 んっ?変ね?味しない。

  無意識に、もう一度少年の方を見てしまった。


 お茶を飲むその頭上に大きなポップアップ。


 ……あ、これのせいだ。


 ふぅっ~~。

 ――大きくため息をついて、決心を固める。


 (ごはん……全然おいしくない! 気になることがあると、ご飯ってこんなに味しないのか……)


 これはもう、出来る範囲で動くしかない。


 フォークに新しい唐揚げを刺して、私は椅子を降りた。

 トコトコ歩いて、影みたいな少年の前に進む。


 フォークごと差し出す。


 「パパにあげる」


 少年は氷のような視線で私を見る。背筋がぞっとした。


 視線で唐揚げが凍るよ!でも負けてなるものか、ご飯を美味しく食べたいもの。


 「人違いだ」


 立ち去ろうとする少年の足に、私はしがみついた。


 「パパぁ~~~~~!!」


 店内の視線が一斉に刺さる。

 スーザンが青ざめた顔で飛んできた。


 その瞬間、私は叫んだ。


 「助けて! 知らないおばさん!!」


 スーザンの顔が一瞬だけ強張った気がした。


 スーザンには悪いけど……ごめんね。

 多分またため息が増える。

 でも今は仕方ない。


 少年が素早く私を抱き上げる。

 すかさず私は耳元で囁いた。


 「2じのほうこうに、ひとり。

  11じに、ふたり……。

  ……そうこは、16じ。わかりゅ……?」


 かんだ。

 焦ったから許して。


 少年は驚くように、まじまじと私を見つめた。


 その青い瞳に、初めて“感情”が灯った気がした。


 「……魔法を使うのか」


 私は首を振る。

 まだ使ったことなんてない。


 「お嬢様!」


 スーザンの声。

 振り向くと、妹さんらしき女性と一緒に立っていた。


 ――あ、そうだ。誤解を解かないと。


 「スーザン……おもいだしゅた」


 手を伸ばすと、スーザンはほっと息をついた。


 ……振り向いた時には、もう少年の姿は無かった。


 まあいいわ。

 やるべきことはやったんだから。


 これで、ご飯もおいしく食べられる。

 

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