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かぼちゃのパンツはもういらない~弱みを握ればこっちのもの!  作者: 星降る夜


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23 ~見るだけ、おあずけでしゅ~


 ルリア、ついに動きます。

 影たちがまた大騒ぎする予感しかしません。



 私はルリア3歳。


 屋敷に戻ると、私はすぐに声をかけて皆を食堂に集めた。


 今日はギルドマスターからふんだくった、もとい、正当な報酬として頂いた小金貨の一部をみんなに配るんだ。


 「みなしゃん。一列に並んでくだしゃい」


 テッドも、トムじぃも、スーザンも、影のみんなも顔を見合わせている。


 「トムじぃは、向こうのテーブルに立ってくだしゃい」


 私はテーブルに、小金貨を10枚ずつ並べる。小金貨は私の3歳の手の平と同じくらいの大きさで、ずっしりとした重さが伝わってくる。3歳の私には重労働だ。これを10人分だから骨が折れる。


 「うわっ、これ小金貨じゃねぇか……」


 午後の食堂に窓から入り込んだお日様の光を受けて、小金貨はキラキラと眩しいほどに輝いていた。


 「ま、眩しい……目がつぶれるぞ」


 ギンはあわてて目をそらす。


 「俺初めて見た……」


 息をのんで立ち止まっているのはクーガだ。


 私だって初めてだから結構ドキドキなのだ。今世はもちろん、前世でもこんなお金は見たことがない。


 「手に取ったら、向こうのテーブルに置いてくだしゃい」


 その瞬間、食堂のあちこちで影たちが盛大にずっこけた。


 「えっ? もらえるんじゃないのか?」

 

 がっかりしたようにつぶやいたのは誰? 私は顔を上げる。


 「今は手触りだけでしゅ」


 皆の頭にクエスチョンマークが浮かぶ。


 「おあずけでしゅ。退職するまでルリア銀行が預かっておきましゅ」

 「えっ! 俺一生姫様に仕えるつもりです!」


 「俺もだ!」「俺もそのつもりだ!」 と口々に皆が言う。

 「でも、それじゃあ今はもらえないのか?」なんて、食堂がざわついた。


 「嬉しいでしゅ。では、適当な時にあげましゅ」

 「なぜ、もったいぶるんだ?」


 隣でレオンが不思議そうに聞く。


 私は前世で見ている。

 分不相応な金は、人を守らない。


 私は奥の手を使うことにした。


 「お告げでしゅ」


 私がそう言うと、みんなの背筋がピンと伸びた。

 影のみんなはもちろん、テッドもスーザンも、トムじぃまで真剣な顔になる。


 「お告げ……ですかい、お嬢様」

 トムじぃが静かに問いかけてくる。


 私はこくりとうなずいた。


 「みなしゃんは、これからとっても大事なお仕事をするでしゅ。だから、お金は“守り神”として預かっておくのが一番いいんでしゅ」


 「守り神……」

 クーガがごくりと喉を鳴らす。


 「そうでしゅ。お金は、持つ人を選びましゅ。準備ができてない人が持つと、悪いことが起きるんでしゅ」


 影のメンバーがざわつく。

 前世で何度も見てきた光景だ。急に大金を持つと、人は壊れる。


 「だから、安心してくだしゃい。ちゃんと、みんなのために預かっておきましゅ」


 そう言って私は、そっとレオンの袖を引いた。


 「れお、行くでしゅ」

 「どこへだ?」


 私はにっこり笑う。


 「お店の契約でしゅ。トムじぃ、ついてきてくだしゃい」


 「わ、わしが……ですかい?」


 「子供は契約できないと思うでしゅ。契約者はトムじぃでしゅ」


 トムじぃは驚いたように目を丸くしたが、すぐに深くうなずいた。


 「……お嬢様のご命令とあらば」


 「あとでトムじぃの“奥さん”も探しましゅから、よろしくでしゅ」


 「お、奥さん……?」


 トムじぃはぽかんと首をかしげた。

 その横で、レオンが意味ありげに口角を上げた。


 スーザンが袋に小金貨を何枚か入れてレオンに渡してくれた。


 「ふふふ、楽しみでしゅね」


 私はスキップしながら玄関へ向かった。頭の中には、カステラ屋さんの青写真。縁日で売っているベビーカステラとたい焼きの中間のイメージ。


 中にクリームやチョコを入れるんだ。チーズもありかな?なんて夢が膨らむ。


 ギルドの斜め前にある、あの『貸店舗あり』の看板が頭に浮かぶ。


 ――ここから、私たちのお店が始まるんだわ。影達もまっとうな仕事に就けるのよ。


 屋敷を出ると、冬の冷たい風がほっぺを撫でた。


 私はレオンとトムじぃを引き連れて、ギルドの斜め前にある“あの看板”へ向かう。


 『貸店舗あり』


 近づくにつれて、胸の奥がどきどきしてくる。

 前世でも今世でも、こんな大きな買い物をするのは初めてだ。


 「……ここが、お嬢様のお店になる場所ですかい」

 トムじぃがしみじみと呟く。


 「そうでしゅ。ここでカステラ屋さんをやりましゅ」


 私は胸を張った。看板の前に立つと、胸の奥がじんわり熱くなる。


 甘い匂いのする店なら、誰が出入りしても怪しまれない。

 影のみんなの拠点としても、これ以上ない場所だ。


 レオンは腕を組んで店の外観を眺める。


 「思ったより広いな。人通りも多いし、悪くない場所だ」

 「ふふふ、そうでしゅ。これが『コバンザメ作戦』でしゅ!」


 私が鼻息荒く宣言する。


 大きなお店にくっついておこぼれを狙う、前世の知恵だ。侮るなかれ、深い考えがあるんだからね。でも、この世界にコバンザメがいるのかはわからないわ。


 レオンが怪訝な顔をした。


 「あ? コバンザメ?」


 「ギルドという大きなサメにくっついて、おこぼれを頂戴するんでしゅ。依頼帰りでお腹を空かせた冒険者が、甘い匂いに釣られてふらふらとやってくる……完璧な立地でしゅ!」


 レオンは呆れたように笑った。


 「お前、本当に3歳か? 商人顔負けだな」


 彼がそう呟いた、ちょうどその時。店の扉がギィと開いて、中から大家さんらしきおじさんが顔を出した。


 「おや? 店を見に来たのかい?」

 「はいでしゅ! 借りたいでしゅ!」


 私は元気よく手を挙げた。


 おじさんは一瞬ぽかんとしたが、すぐに笑った。


 「ははは、元気な子だな。じゃあ中を案内しようか」


 私たちは店の中へ入った。


 中は思ったより広く、奥には小さな厨房スペースもある。

 床は少し古いけれど、掃除すればすぐに使えそうだ。2階に上がる階段もあった。休憩室や秘密の会合にも使えそうだ。


 私はくるりと店内を見渡した。

 「ここなら、カステラを焼けましゅ。ギルドの前なら、人もたくさん来ましゅから」


 レオンも頷く。


 「換気も悪くないな」


 トムじぃは壁を軽く叩きながら、真剣な顔で確認している。


 「建物の状態も悪くないですな。お嬢様、ここなら安心して使えます」


 私はにっこり笑った。


 「では、契約お願いしましゅ。トムじぃが契約者でしゅ」


 「わ、わしが……ですかい?」


 トムじぃは驚きつつも、背筋を伸ばした。


 「はいでしゅ。トムじぃが一番信用できましゅ」


 大家さんが書類を持ってきて、トムじぃに説明を始める。


 「ほう、おじいさんが店主か。いい隠居仕事になりそうだな」


 レオンは横で腕を組みながら、静かに見守っていた。


 私がもう一度ちょこちょこと店内を見て回っている間に無事契約が終わり、大家さんが鍵を渡してくれた。


 「今日から君たちの店だ。頑張りな」


 「ありがとうございましゅ!」


 私は鍵をぎゅっと握りしめた。


 そして、目の前のギルドに狙いを定める。コバンザメは離れない。ずっと、くっついているからね。


 レオンがふっと笑う。


 「……本当にやるんだな」

 「当たり前でしゅ。これから忙しくなりましゅよ」


 鍵を握りしめたまま、私はトムじぃを見上げた。


 「では、次は“奥さん”の準備でしゅ」


 「お、奥さん……?」


 さっきから、お嬢様は何を言っているんだ? とその顔が言っていた。


 トムじぃがその事実を知るのは、お屋敷に帰ってからだった。


 ……ふふ。


 また一つ、良いことを思いついた。


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