21 子供料金!? ~半額シールはここには不要~
今日もルリアは、世界のほつれを見逃しません。
ギルドでの一件が、思わぬ方向へ転がり始めます。
ギルドから受け取った手紙を見て、私は少し考えこんでしまった。
もしかして、私が3歳だから、ちゃんと報奨金を払ってくれないかもしれない。両親が一緒に行くわけではないし、レオンは強いかもしれないけどギルドマスターと戦うわけじゃない。
私はちゃんと払ってもらいたいだけ。カステラ屋さんをやるんだからね。
弁護士なんてこの世界にいるんだろうか? まだこの世界をあまりよく知らなかった。
できれば、あまり人を巻き込まずに、自分の力で何とかしたい。
ミルクティーを飲みながら窓から庭を見ていると、ギンがトムじぃと庭の手入れをしていた。
んっ! 良いことを思いついたわ。弱みを握ればいいのよ。
私はポンと手を叩くと、ギンを呼ぶために庭へトコトコと歩いていく。
トムじぃとギンは私を見ると手を振ってお辞儀をしてくれた。
「ギンに頼みたいことがありましゅ。トムじぃ、ギンをお借りしてもいいでしゅか?」
「お嬢様、もちろんです。こき使ってやってくだせぃ。ギンは毒草にも詳しくて驚きました」
「毒草? 薬草じゃなくて?」
「姫様、俺はどっちもいける派です。煎じれば薬、混ぜれば毒。紙一重なんですよ」
ギンは得意げに言うけど、毒も薬も使いようって言うし、結局同じじゃないの?
まっ、今はいいんだけど。
ギンを連れて部屋に戻ると、スーザンにひみつの打ち合わせだから席を外すように指示をした。
「はいはい、わかりました。ごゆっくり」
なんて言って、あきれたような眼差しでこちらを見てくる。ふんっ、真剣なんだからね。
2人きりになるとギンに秘密の任務を与えた。影たちは諜報任務に長けているの。使わない手はないわ。
「姫様、了解です。えっと、今日の夕飯のメニュー、それから、これと、これを調べてくればいいんですね」
「そうでしゅ。これは他言無用でしゅ。これはスタンプ案件でしゅ」
「姫様、これはスタンプ案件ですか?」
私が大きくうなずくと、ギンは嬉しそうに両手を大きく上げて飛び上がった。
「じゃっ! また」
それだけ言うと、あっという間に消え去る。さすが影だ。
私が感心していると、後ろから静かな声が聞こえた。
「ギンを偵察に出したか。明日のギルドの件だな。何を調べるのか知らんが、時間はあまりないな」
いつの間にか訓練から帰ってきたレオンが、部屋のドアのところに立っていた。
「たいしたことは調べましぇん」
「まっいい。ギルマスも狸だからな。せいぜい気をつけろよ」
それだけ言うとまたどこかへ消えてしまう。レオンは何かにつけて首を突っ込んでくる。基本暇人なんだよね。自分に頼んでほしかったのかな?
ふふふ……、明日が楽しみ。
次の日の朝、ギンが真っ先に報告に来た。出るわ出るわの成果は十分すぎるほど。
おほほほ、見ていなさい。これなら今日は楽勝ね。
私はギンのスタンプカードに1つスタンプを押してあげた。
ギンは「俺が一番多い!」と胸を張って部屋を出ていく。
その後ろ姿を見ながら、一抹の不安が胸によぎった。
いつの間にか、あのカード、影の間で価値高そうなのよね。
前世でもスタンプカードって、よく争奪戦になったものだわ。
ふふふ。私の前世の知識を甘く見ないでほしいわ。
『取られちゃわないかしら?』と思ったけれど、
まあ、これも彼の社会勉強よね。
ギルドへはいつものようにテッドの買い出しの荷馬車で行く。もちろん護衛はレオンだ。
スーザンは何かと“忙しいのよね”なんて言いつつ手を抜いている。
私はそんなに手のかかる子供じゃないんだと思うんだけどね。
テッドに市場で降ろしてもらう。帰りはギルドの馬車で送ってもらうからと別れた。だってね、持ちきれないほどのお金貰ったら、皆にばれちゃうじゃない。荷馬車なんてねぇ……
ギルドに入ると、この間と同じ2階の個室に案内された。
ギルドマスターは机に向かって仕事をしていたけれど、私たちが入ると顔を上げて、愛想の良い笑顔を向けた。笑っているのに、目の奥だけが静かだった。まるでこちらの価値を値踏みするように見てくる。
私は今日もレオンにマフラーでぐるぐる巻きにされている。髪色が目立つそうだ。
マフラーの端が歩くたびになびくから、まるでほどけかかった包帯をひらひらさせて歩く、蘇ったミイラみたいだ。
もちろん、フードもちゃんと被っている。
ギルドマスターは私の顔は拝めないはずだわ。
レオンも同様にフードを目深に被って顔を隠しているし。
怪しい、絶対に怪しい。銀行強盗みたいだと思う。
私は隣のレオンを見上げて、小さくつぶやいた。
「これじゃあ報奨金をもらいに来たのか、呪いをかけに来たのかわかりましぇんね」
そんな私たちに愛想の良い笑顔って、大丈夫なんだろうか? この人は……
ギルドマスターに勧められたソファーに座ると、ギルドマスターは、トレイに乗せた報奨金を戸棚から出してきた。
「この間の報奨金が決まりましたのでお受け取りください」
トレイに乗った報奨金を見た瞬間、私は眉をひそめた。少ない。レオンに視線を送ると、彼は小さくうなずく。やっぱり——この人、ごまかしている。
「これは、少ないでしゅ」
私が言うとギルドマスターは大げさに咳払いをする。
「お嬢ちゃんは、相場を知りませんね。これは子供料金です」
はいっ!?
報奨金に子供料金?
つまり半額? 半額は好きだけどここじゃない。
……そんな都合のいい話、あるわけない。
前世の常識で考えても、これはただのごまかし。
ごまかされないわよ、ギルドマスター。
半額シールは好きだけど、ここでは貼らせません。
次回、ルリアの反撃が始まります。




