20 くしゃくしゃの手紙と、スーザンの雷
午後の離れに届いた一通の手紙が、静かな時間を一変させます。
影たちの騒動とスーザンの雷が、思わぬ展開を呼ぶ回です。
私はルリア、3歳。公爵家の末っ子だ。
わけあって、1人離れで暮らしている。事情は詳しくは知らない。何故かって? なんたって、私は3歳なんですもの。つい先日、たぶんお誕生日を迎えたばかりなのだ。
ふふふ……そんな私には仲間(という名の手下ども)ができた。7人の精鋭なる影たちだ。
何を隠そう、私はボスなのだ。
午後の穏やかな光の中で、ゆっくりとミルクティーを飲む。今日のおやつはレモンのマドレーヌ。甘酸っぱくておいしい。窓の外を眺めると、影がすうっと横切った。これはもちろん、私の手下の影だ。
「姫様、ギルドからお手紙が来ました!」
「待て、それは俺が先に持ってきたんだ!」
クーガが手にした封筒を、ケルンが奪おうと手を伸ばした。クーガはすかさず片方の手で、ケルンがしっぽのように長く伸ばしている三つ編みを引っ張った。
「いててっ、やめろよ!」
手にした封筒は2人に掴まれて、あっという間にくしゃくしゃになっていく。
あっちゃ~~、これじゃあ精鋭な影たちじゃなくて幼稚園児でしょ!
「何事ですか? 部屋に入るときはノックをしてからです!」
スーザンの叱責が飛んだ。やれやれ、封筒1つ満足に届けられないとは。訓練された警察犬の方がまだマシかもしれない。
「「姫様宛てに、お手紙を預かってきました!」」
高級な厚手の紙に、ギルドの赤い蝋(封ろう)で封をされている立派な封筒が、今はもう見る影もなくくしゃくしゃだ。スーザンは受け取った瞬間に短く声を上げた。
「……ひっ」
2人を睨みつけると、凍りつくような低い声で言い放つ。
「この封筒は、馬車に轢かれでもしたんですか?」
クーガとケルンは、蛇に睨まれた蛙のように硬直した。
「……あ、俺たち仕事に戻らなきゃ」
それだけつぶやくと、あっという間に姿を消した。もう、逃げ足だけは一流なんだから。
「お嬢様、ギルドからのお手紙ですよ」
スーザンは封を切ると、当然のように読み出した。最近は仕切り役……というより「園長先生」が板についてきた感じね。
***
ルリア様
このたびは、先般の件につき
ギルドとして正式に確認が取れましたので、お知らせいたします。
当該案件に対する功績を鑑み、
規定に基づく報奨金をお渡しする運びとなりました。
つきましては、
三日後の午前十時、ギルド本部応接室まで
お越しいただけますようお願いいたします。
今回の件における
随行者各位の判断と行動は、
ギルドとしても大変興味深いものでした。
当日、直接お話しできることを楽しみにしております。
王都ギルド
ギルドマスター代理
***
「お嬢様、ギルドの報奨金って?」
ああ、めんどくさい人に見つかったかも。
追及されることにうんざりしながら、適当な理由をひねり出した。
「この間、迷子の子猫を助けたでしゅ。6匹もいたんでしゅよ」
スーザンを下から見上げて、こてんと首を傾げた。両手を組んでお願いのポーズをしてみる。心の中では(えらいでしょ! ほめて! ほめて!)と呪文を唱える。
「そういうことですか。飼い主からお礼が出るんですね」
なんて言いながら、彼女は3日後の予定……とカレンダーの確認に余念がなかった。
しめしめ。
でも気になるのはこの文面。「随行者」って、どう考えてもレオンたちのことだよね。なんか嫌な感じ。3歳の私が依頼を受けた“はず”なんだけどね。
そんなことを考えながら手紙を眺めていると、低い声がした。
「お前、いつ子猫を助けたんだ?」
顔を上げると、レオンが腕を組み、口元に皮肉げな笑いを忍ばせてドアに寄りかかっていた。
「子猫ちゃんと呼ぶには、ちょっと大きかったかも」
ぺろっと舌を出した。そんなことよりも、貰うものはもらわなきゃ。
カステラ屋さんのためなんだから!
いくらぐらい入るのかしら。3歳だからと侮られていないわよね?
「れお、一緒にギルドに行くでしゅよ。ちゃんとお金、もらいましゅ」
「ああ」
レオンは短く言うと片手を上げた。
その目は「子猫どころか、虎の尾を思い切り踏み抜いた自覚はあるんだろうな?」と語っていたけれど、私は知らん顔で微笑み返した。
私の頭の中には、小判がジャラジャラ降ってくる。
「カステラ100個、できるかな♪」
鼻歌まじりにそんなことを考えている私を、レオンが何とも言えない顔で見ているけれど気にしない。
終わり良ければすべて良し、ねっ!
影たちの騒がしさも、スーザンの雷も、今日の離れはにぎやかでした。
次は、ギルドへ向かう小さな一歩が動き出します。




