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かぼちゃのパンツはもういらない~弱みを握ればこっちのもの!  作者: 星降る夜


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2/21

1 ルリア3歳、公爵家の末っ子は思い出す


 3歳で前世の記憶を思い出したルリアは、

 ふわふわパンツと好奇心を連れて、ちょっと不思議な異世界を歩き始める。


 大きなケーキが見えた。

 兄も姉も笑っている。


 ――でも、母は私を見ていなかった。


 触れたかっただけなのに。

 「ダメよ、汚れるでしょう」と鋭い声が落ちて、

 私はころんと床に転がった。


 「お母様、ルリアったら、寝巻のままだわ」


 姉の嫌そうな声が聞こえた。


 「連れていってちょうだい」


 冷たい声だけが落ちてくる。


 侍女に抱きかかえられ、ケーキの甘い香りは遠ざかった。胸の奥がぽつりと痛む。


 昨日の夜、侍女のスーザンが。嬉しそうに言っていた。「明日はお嬢様のお誕生日ですね」その言葉に何かいいことがあるような気がしていた。


 (お誕生日?じゃなかったのかな……)


 まだ、お誕生日が何かなんてわからなかったけれど、楽しそうな気がしたのは、違ったんだ。

 その気持ちが“悲しい”という名前だとは、まだ知らない。


 外に出ると庭の木の影がひんやりしていた。侍女の手を避けて、とことこ歩き、木の下に座る。


 (ここ、すき……)


 空を見ているうちに、だんだん頭がぽかぽかして、視界が揺れた。


 その日から、高い熱が続いた。

 夢と現実の境目が溶けていくようだった。


 うなされながら見た夢は、長くて、でもはっきりしていた。


 私は日本という国に暮らしていた。


 歳は曖昧だけど、「もう30過ぎたな」という実感だけはやけに鮮明。


 妹中心の家に嫌気がさして、家を出た。

 農家の敷地の小さなアパートで、一人暮らし。


 ……友達は、たぶんいなかった。


 読むのは恋愛ノベルばかり。

 ハッピーエンドが好きだった。


 でも最近思う。

 溺愛とストーカーって、紙一重だなって。


 ふぅ~っ、と息をつき目を覚ました。


 頭がぼんやりとやけに重い。


 伸びをして、目を開けると、飛び込んできたのは――フリフリのかぼちゃパンツ。


 (えっ……さっき見ていたのは夢?)


 声も小さく、手も短い。身体も軽い。


 夢……なの?


 状況を掴めず首を傾げていると、部屋にふわりと光が差し込んだ。


 幾重にも重なったレースのカーテン、小花の壁紙。

 アールデコ調の家具が柔らかく輝いている。


 壁の鏡に映ったのは、桃色のくるくる髪をした3歳くらいの女の子。

 淡いアメジスト色の瞳が、驚きでぱちぱち瞬いている。


 ――ルリア? いや、これ、私!?


 えぇぇ……?


 混乱していると、扉が開いた。


 「お嬢様! 良かった! 目が覚めたんですね!」


 駆け寄った侍女は涙ぐみながら手を取る。


 「今、旦那様と奥様をお呼びしてきます!」


 そのまま走り去り、足音が遠ざかる。

 部屋には静けさが戻ったが、頭の中はざわざわしたままだ。


 ――お嬢様? 旦那様? 奥様?


 さっきまで30代だったはずなのに。

 時代劇みたいな言葉が飛んでくる。


 やがて重厚な扉が再び開き、気品ある男女と黒いカバンの紳士が入ってきた。

 黒いカバンの紳士はベッド脇に腰を下ろし、優しい声で尋ねる。


 「お嬢様、ご気分はいかがですかな?」


 頷くと、そっと脈を測られた。


 懐中時計を見た医師が顔を上げると、金髪にエメラルドの瞳の女性――母が安堵の息をつく。

 「お熱も下がりましたし、もう大丈夫でしょう。峠は越えました」

 「やれやれ、無事なら我々を呼ぶな」


 その声は氷のように冷たかった。


 灰銀色の髪に、冷えたスレートグレーの瞳をした父が、私を見下ろす。

 その視線には、私という存在がその辺の置物と変わらず写っているようだった。


 胸の奥が凍り付く。


 (この感覚……知ってる。夢じゃない!?)


 「以後、些事であればいちいち私を呼ぶな。妻にも声をかけるな」


 父は冷たく言い捨て、母の後を追って出ていった。


 残された侍女たちは、ようやく息をついた。


 「お嬢様、大丈夫ですか?」


 振り向くと、侍女が水を差し出してくれる。


 「3日も高熱で眠っておられたんですよ」


 喉を通る水の冷たさが私を現実へ引き戻した。


 侍女は背中にクッションを当て、そっと微笑んだ。


 「ありがとう……スーザン」


 自然に名前が呼べたことに驚く。


 桃色の髪、異国の言葉、冷たい家族。


 思い出した。夢じゃない。


 私は――ルリア。


 ルリア・フォン・アストリア。

 公爵家の末っ子、3歳。



 内容は変わっていませんが、読みやすいように調整しました。

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