18 導入しましゅ、スタンプカード!
影たちの平穏は、ルリアの「思いついた」でいつも崩れます。
私はルリア3歳。今日も、いいことを思いついた。
影たちを食堂に集める。
「皆さん昨日はご苦労様でしゅた」
そう言うと、クーガを呼ぶ。
「これをみんなに配るでしゅ」
クーガたちに手渡したのは、ハガキサイズのカード。今朝スーザンと一緒に作ったんだ。スーザンが紙を切って、私が線を引いた特製だ。
皆が不思議そうにカードを眺める。
ふふふ……何を隠そう、これはスタンプカードなのだ。
「毎日お風呂に入るとルリアがスタンプを押しましゅ」
得意げに言うと、ジャックが手を上げる。発言する時には手を上げることにしたんだ。
「はい、ジャックどうじょ」
「もう最初からスタンプが1個押してあります」
「よく気が付きましゅた。これは、昨日の『愛の逃避行(浮気調査)』のお助けをした分でしゅ」
私が言うと部屋がざわつく。
「ロマンスってなんだ」「昨日の任務のことか?」
「スタンプが溜まるとご褒美があります」
一斉にみんなの手が上がった。
「ご褒美って何ですか?」
「もちろん特製おやつでしゅ」
「「「「「「 わぉ~~! 」」」」」」
皆が色めき立った。しめしめ。
「はい、では順番にお風呂に行ってくだしゃい。最初はれお、でしゅ」
「はぁっ、……今か。何で昼から風呂なんだ……」
「隊長は手本を見せましゅ。汚い男はモテましぇん。乙女の前では、きれいでいてくだしゃい」
皆、お風呂が嫌いなんだよね。武器などの手持ちの物を全部出さなきゃいけないし、無防備になるから嫌だって口々に言っていた。
でも、汚いし臭いのは、本当にイヤ。
乙女の前では、きれいでいてほしい。今度アロマオイルでもぬりぬりしてやりましょう。
「それでは順番にお風呂に行ってくだしゃい」
私が言った瞬間、部屋の空気がピリッと変わった。
最初に動いたのはジャックだった。
「……おれ、行く!」
椅子をガタッと鳴らして立ち上がると、その後ろからウィズが叫ぶ。
「ずりぃ! おれが先だ!」
「いや俺だろ! 昨日一番働いたの俺だし!」
「関係ねぇ! スタンプだぞスタンプ!」
わぁっと全員が立ち上がり、一斉に食堂の出口へ殺到する。
「おい押すな!」「足踏むな!」「タオルどこだよ!」
「服脱ぎながら走るなバカ!」
「カオスでしゅね……。
皆さん、そんなにお風呂が好きだったんでしゅね?」
レオンが呆れた顔でつぶやく。
「……お前ら、昨日まで風呂嫌いだったよな?」
その横で私は満足げに頷いた。
「ご褒美の力はすごいでしゅ」
風呂から上がった影たちが、濡れた髪をタオルで拭きながら食堂に戻ってくる。
「姫様、入ってきました!」
「おれも! ちゃんと洗ったぞ!」
「背中も洗った! ジャックに確認してもらった!」
みんな胸を張って報告してくる。私は椅子にちょこんと座り、机の上にはスタンプを準備する。気分は幼稚園の先生だ。
「はい、では順番に並ぶでしゅ」
影たちがわらわらと列を作る。列と言っても、押し合いへし合いで全然整っていない。
「おい押すな!」「順番守れよ!」「俺が先だって!」
レオンが呆れた声を出す。
「……風呂よりスタンプの方が大事なのか、お前ら」
私は胸を張って言う。
「スタンプは大事でしゅ。やる気が出ましゅ」
最初の1人、ジャックがカードを差し出す。
「姫様、お願いします!」
「はい、ジャック。よくがんばりましゅた」
ポンッ。
スタンプが押されると、ジャックは目を輝かせてカードを見つめた。
「……押された……!」
「ずりぃ! 次おれ!」
「姫様! 俺もちゃんと洗った!」
「背中も洗った! ほら匂い嗅いで!」
「嗅がねぇよバカ!」
私は1人ひとりに丁寧にスタンプを押していく。
「はい、ウィズ。きれいでしゅ」
「はい、ケルン。しっぽの先までちゃんと洗えてましゅ。えらいでしゅ」
「はい、クーガ。……耳の後ろ、次はもっと洗いましゅ」
「うっ……はい……」
影たちが、“褒められたい犬”みたいにしっぽを振っているのが目に見える。
最後にレオンがカードを出す。
「……俺も押すのか?」
「れおは隊長でしゅ。手本を見せましゅ」
「はいはい……」
ポンッ。
レオンはカードを見て、ほんの少しだけ口元が緩んだ。
「……まあ、悪くないな」
私は満足げに頷いた。
「はい、これで今日のスタンプはおしまいでしゅ。みなしゃん、よくできましゅた」
影たちの歓声が食堂に響いた。
いいつも読んで頂きありがとうございます。
お風呂の後は……にぎやかなパーティーが始まる予感。




