16 私はボールじゃないでしゅ! 〜指揮官レオンの非情なポイ捨て〜
今日も姫様は全力で勘違い中!
影たちの大活躍と、ロマンを探す姫様の奮闘をお楽しみください。
「ケルン、ルリアと馬車だ。いいな」
そう言うとレオンは私を軽々と抱き上げると、ケルンに向けて放り投げた。
えっ!? と思う間に宙を舞って、ケルンの腕の中におさまった。
ちょっと待ってよ、私はボールじゃないのよ! いつもポイポイと!
「私も行く!」
私だってロマンスの現場を押さえたいわ。
「ここでの指揮は俺だ。いいな」
レオンはそう言うと影たちに次々と指示を出していく。
「ウィズ、どうだ?」
「ビンゴですね。認識阻害の結界が張ってあります。だから地図にも載ってないし、誰も気づかなかった」
ウィズが片眼鏡のような魔道具を覗き込みながらニヤリと笑う。
「ちょちょいと術式を書き換えますね。……はい、完了。これで『俺たちだけ』は素通りできて、中の連中は俺たちの侵入に気づかない。ついでに外部からは相変わらず見えないままです」
すごい。セキュリティのハッキングまで一瞬だなんて。
でも、私には分かるわ。これは愛の巣を邪魔されないための「2人だけの世界」を作る魔法なんでしょう? ロマンチックだわ!
レオンが片手を上げると、一斉に影たちが散った。
ここから下へ行くのには随分と高さがある。前世の10階建てのビルより高そうだ。それなのに、あっという間に下へと影たちは飛んで行った。
(凄い……)
降りるというよりも、飛んで行ったというほうが正しい。
『飛影』の名前は伊達じゃない。我ながら良い名前を思いついた。
眼下の遺跡のような敷地には、驚くほど人影がなかった。空っぽの見張り小屋だけがポツンと残され、不気味なほど静まり返っている。
その静寂の中を、影たちが崖を駆け下り、岩場や深い森の木々の間を縫うように滑っていく。
風もないのにかすかに木の葉が揺れ、誰もいない暗い洞窟の入り口へと、黒い影たちが次々と吸い込まれていくのが見えた。
時折、金属がぶつかるような乾いた音が小さく響く。見えないけれど、確かに“何か”が起きている。
(すごい……本当に飛んでるみたい)
「わぁ~~もうあんなところまでいったんでしゅね」
私が感心して言うと、一緒に残ったケルンが誇らしげに教えてくれた。
「レオンは相手の背後に回るのが異様に早いんですよ。気づいた時には終わってます」
仲間たちの雄姿を語る彼はどこか嬉しそうだ。特にレオンは秒殺で相手を沈めるらしい。前世の平和な世界で育った私には聞くに堪えない話だった。
想像しただけで背筋がぞくっとした。でも、みんな頼もしい。
凄いけど、あまり詳しく聞かなくていいかな。これからは少年よ大志を抱いて欲しい。
皆、若いのにこんな技術を身に付けるなんてすごすぎだ。あんなに絵が下手だなんて言ってごめんなさい。
誰にもポップアップは出ていなかったから、大丈夫だとは思うけど落ち着かなかった。
「レオンがいれば皆は大丈夫だ。心配しなくていい」
ケルンがそっと私の手を取った。いつの間にか両手を固く握りしめていた。
「みんな、早く帰ってきて欲しい……」
私がつぶやくと、ケルンがギュッとしてくれた。優しいんだ。
しばらくすると、薄暗い入り口の奥から、影たちが次々と戻ってくるのが見えた。それぞれが自分より大きな人を担いでいる。服は砂まみれで、腕には細かい傷がいくつもついている。それでも、どこか誇らしげだった。
しんがりを務めるように、最後にレオンが姿を現した。
彼は正面の入り口に立つと、短く指笛を鳴らす。
「ピュッー!」
ケルンが任務終了の合図だと教えてくれた。状況によって音の出し方が違うんだって。
でも、戻ってきたレオンの顔は険しかった。
彼は地面に降ろされた救出済みの6人を見やり、忌々しげに遠く王都の方角を睨んだ。
「……おかしい。抵抗がなさすぎる。もぬけの殻だ」
低くつぶやいた声には、見えない敵への強い警戒が滲んでいた。
やがてレオンは小さく息を吐いて思考を切り替えると、影たちに顎で合図をした。
「馬車に乗せとけ」
レオンが短く言うと、影たちはぐったりした様子の6人を次々と馬車の中へ運び込んだ。皆寝ているみたいだけど、どうしたのかしら?
「れお、みんなどうしたでしゅ?」
「説明が面倒だからな。ギルドまで寝ていてもらう」
それから私に石ころをくれた。まあるい卵型の、ずっしりと重たい石ころだ。怪獣の卵だったりしてね。ゴジラが生まれるかも。ワクワクするわ。
鈍く光るその石は、太陽にかざすと内側に何か複雑な模様が透けて見えるような気がした。
「土産だ。落ちていたからな」
「姫様。僕達もみんなで拾ってきましたよ」
クーガがそう言いながら懐からまあるい石ころを出してきた。皆がそれぞれ拾ったのを私のマフラーを広げて包み込んだ。石ころでもお土産だなんて嬉しい。レオンの持ってきたのが一番大きかった。
帰りの馬車で少し窮屈になりながらギンとジャックに挟まれた。
「ところでロマンスはありましたでしゅか?」
私が聞くと、ジャックが不思議そうな顔をした。
「姫様、あそこは鉱山ですよ」
鉱山?
「もしかして、宝石とかでしゅか?」
「ちょいと、違法なところですね。持ち主が決まっていない鉱山でね」
ということは、愛の逃避行ではなかった?
もしかして愛の贈り物を作るために自ら発掘に行ったの?
わぉ。これは、これでロマンだわ。手作りのアクセサリーなんて素敵!
ましてや発掘からだなんて、愛が深いんだわ!
馬車の荷台に並べられた6人は薄汚れていて、裸足でボロボロだけど、愛の為には苦労をいとわない人たちだったのね。
「ロマンティックでしゅね」
荷台を覗きながら言うと、ジャックが不思議そうな顔をした。
「男のロマンって事だろ?」
ギンがジャックを小突いた。男の子にもロマンが分かるんだわ。
マフラーに包んだ石ころたちをぎゅうっと抱きしめた。みんな無事でよかった。それに依頼もこなしたからきっとお礼も入るはずだものね!
ギルドに着くと、中が一瞬静まり返った。次の瞬間、ざわっ、と大きな波のようなざわめきが広がる。
「お、おい……全員連れてきたぞ……?」
「あの連中、本当にやりやがった……!」
受付のお姉さんは口をぱくぱくさせているし、ギルドマスターは腰を抜かして床に座り込んでいた。
でも私は眠かった。疲れたから早く帰ってお昼寝したかった。3歳の体には堪えるんですよ。
部屋の棚に石ころを並べていたら、スーザンが見つけて捨てようとしたので“めっ”と怒っておいた。皆がくれた大事な石ころなんだからね。
卵型の石を撫でると、表面がつるりとしていて、どこか不思議な重さがある。ただの石ころにしては、妙に手に馴染む。
(なんだか……中に何か詰まってるみたい)
そんな気がしたけれど、気のせいかもしれない。でも、影たちが拾ってきてくれたんだもの。初めてもらったんだから、嬉しい。
今日の事に思いをはせた。影たちは驚くほど優秀で、素早かった。
ところで、連れて帰ってきた人たちは、今頃奥さんに怒られていないかしら。
あの人たちはどんな宝石採れたのかしら? ちょっと気になった。
きっと今日のご飯も美味しくたべられそう!
姫様の無邪気さの裏で、影たちは静かに何かを感じ取っていました。
17話では、彼らの過去と、姫様がもたらした小さな光が描かれます。少しだけ雰囲気が変わる回です。




