13 ギルドからの手紙
朝食後に届いた一通の手紙。
名探偵……?ルリアの“初仕事”が始まる予感です。
「お嬢様、お手紙が来ていますよ」
のんびりと朝食後のお茶をすすっていると、スーザンが何やら封筒を持って現れた。
立派な紋章の入った封筒だった。スーザンが裏を見て、「ギルドからですね」と呟く。
お詫び状かしら? この間貰ったんだけどね。
まさか、お代を間違えたから返せとかじゃないよね?
……3歳に借金はきつい。
この時期の手紙は……おかしいわ。
私は名探偵らしく少し考えて、そっと封筒に顔を近づける。
くんくん、と匂いをかいで首をかしげた。
「おかしいわね。陰謀のにおいは、こんなに甘い香りがしたでしゅか?」
「お嬢様、鼻の頭にスコーンの粉が付いていますよ」
少しドキドキしながら封を開けようとすると、脇からスーザンがさっと取り上げて読んでくれた。
私は背伸びして文字をのぞこうとしたけど、当然届かなかった。
『ルリア様
先日の件につき、公にできぬ相談がございます。
明日15日、ギルドマスター室にてお待ちしております。
ギルドマスター』
「お嬢様、15日は明日ですよ。行かれるんですか?」
3歳の私は特に用事もないし暇だ。
相談。
しかも、直接。
私の勘はピンときた。
……あ、これ、浮気調査依頼だ。
ふふふ………ついにその時が来たんだわ。名探偵の出番だわ。
「れお、私のスケジュールはどうなってりゅかしら」
わざとらしく咳き込みながら聞いてみる。レオンはめんどくさそうに私を一瞥した。
「ないだろ」
「では、あすは、ギルドましゅたーとあいましゅ」
私はスーザンにそう宣言した。
――翌日。
私はまた、ギルドに連れてこられていた。
――しかも今度は、個室である。
ふふふ………初心者なのにこの好待遇。ギルドマスターは人を見る目があるんだわ。目の前に座っている口ひげを蓄えたおじさんに目をやる。
護衛なのにレオンの前に書類を置いているのが気に入らないわ。
私に頼むんじゃないの?
私はレオンの前に置いてある書類を自分の前に引っ張ってきた。
「わたしに、いらいしゅるんですよね?」
ギルドマスターは少し驚いたように私を見る。
お手紙くれたの忘れているのかしら? 若くてもボケるって聞いたことあるけど。
ギルドマスターはぎこちなく頷いた。
私はゆっくりと書類に目を通す。
「お前、読めてないだろう」
レオンが耳元で囁いた。失礼な奴だわ。でも考えてみれば、3歳が読めたら、それはそれで問題だわ。
ちょっと腕を組んで考えてみる。能力は隠すべきよね。「能ある鷹は爪を隠す」っていうしね。私は書類をそっとレオンの前に戻した。
ギルドマスターは口ひげを指でなぞり、ひとつ咳払いをした。
「……正直に申し上げますと、表沙汰にできない件でしてな」
「それで。さいきんかえってこないひとをさがすんでしゅよね?」
待ちに待った浮気の調査だ。
「な、なぜそれを?」
ギルドマスターが驚いたように私を見るけど、ここは威厳を見せなくちゃね。
何気ない風を装って、レオンの手元の書類をのぞき込んだ。
紙を見ると、帰ってこない人は6人。
……浮気にしては、多すぎない?
一体どんな町なのよ。
野次馬根性がむくむく湧いてくる。興味津々だ。
「すべて、わかっておりましゅ」
私が言うと、レオンが私の頭に手を置いて遠ざけようとする。邪魔者扱いしないで欲しいわ。
「……厄介な匂いがする。しかも6人同時に消えるなんて、浮気で済む話じゃない」
レオンは私を睨んだ。怖くなんかないもん。
「おい、やめとけ、ギルマス。俺は下りる」
「ではわたしだけということで」
「待て、お前にできるわけないだろ!」
「わたくしへのいらいでしゅよね。ちがいましゅか?」
レオンが私を抑え込んだ。いったい、か弱い乙女になんてことをするのよ!
「これは……ギルドマスターである私が、個人としてお願いしたい案件です」
「つまり、他言無用でしゅ」
私はレオンの腕から抜け出すと、腕を組んで頷いた。隣でレオンが大きなため息をついた。頭を手で押さえている。意外に大げさな奴だ。スーザン病は感染力が強いのかしらね。
私に任せれば安心なのだよ。ふふふ………
「……奥様方には『家出』と説明していますが」
ギルドマスターは言いにくそうにまた口ひげを撫でる。この人の癖なんだわ。嘘をつくときとかにも出そうな癖ね。
「正確には、『全員、同じ夜に姿を消した』のです」
同じ夜?
え、なにそれ。
……浮気の打ち合わせ?
それとも集団不倫? 秘密の密会みたいなものかしら……
「……これは、あいのとうひこうでしゅね」
「違う」
レオンが私の返事に被せるように言うと、呆れた顔を私に向けた。
「いや、その……」
ギルドマスターが言い淀んだ。
「……ギルドマスター個人が動く案件だ。俺は関わりたくない」
「ギルドとしては動けぬ事情がありましてな」
……なるほど。
ギルドでも解決できないほど、こじれた浮気なのね。
まさか、ギルドマスターも浮気仲間かしら?
それともハニトラに引っかかった?
偉い人ほど、浮気は隠すもの。気持ちはわからないでもない。
私は念願の浮気調査に、ワクワクする気持ちを抑えられなかった。
「ルリアに、お任せくだしゃい」
私は上機嫌で依頼を受けたのだ。
ふふふ……
今日のご飯も、美味しいに違いないわ。
(これは……名探偵ルリアの初仕事でしゅね)
連載再開にあたり、読んでくださり、本当にありがとうございます。
次は明日の朝投稿予定です。




