表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
かぼちゃのパンツはもういらない~弱みを握ればこっちのもの!  作者: 星降る夜


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/24

12 3歳児、ギルドへ行く


 3歳児、今日はギルドへお出かけです。

 ただの小遣い稼ぎのつもりが、とんでもない騒動に巻き込まれることに──。


 「今日はギルドへいきましゅ」


 私が言うと、かぼちゃのパンツを持っていたスーザンが、大きなため息をついた。


 「お嬢様はギルドで何をなさるのですか?」

 「こうがくのためでしゅ」


 心の中で、これは真っ赤な嘘だと呟いた。本当は、ちゃんと依頼を受けるためだ。小銭を稼ぐんだ!


 「まっ、護衛もいるし、いいでしょう」なんてぶつぶつ言いながら、外出用のマントを取ってくれた。街へのお出かけは、テッドの買い出し用の荷馬車に乗っていく。


 めんどくさそうにレオンが私を抱き上げて運んでくれた。


 私が頑張って歩くと、遅い!っていつも怒るんだ。


 3歳児の足の長さを考慮して欲しい。こっちはどんなに急いだって、トコトコ歩きなんだからね!


 レオンは私が命の恩人だってちゃんとわかっているのかしら、時々疑問に思う。


 街に着くとテッドと帰りの待ち合わせの時間を確認する。私はレオンに抱えられたまま、ギルドのある裏通りへ向かった。レオンのゆるぎない足取りに、ここに来慣れているのだと感じた。

だから、つい気になって聞いてしまった。


 「れお、ここにはよく来るでしゅか?」

 「いや、依頼があるときだけだが、俺たちは裏ギルドの方だな。表より依頼が荒い」


 そういうとマントのフードを深くかぶり口元はマフラーで覆う。一番最初に食堂で会った時と同じ出で立ちだ。私にもマフラーをぐるぐる巻いて、丁寧にフードの中に髪を隠した。


 「お前の髪色は目立つ」


 そう小さく言うと私を抱きなおし、薄暗い小道に入った。そこには冒険者らしい人がひっきりなしに出入りしていた。


 慣れた様子で、ギルドの受付に立つ。目の前にしっぽのケルンがいた。


 「こいつに合う依頼をもってこい」


 偉そうにレオンが言う。ケルンは気にも留めず事務的に答えた。


 「姫様は登録されますか?」

 

 3歳でも登録出来るのかしら?レオンの顔を窺い見る。


 「無理だな。7歳以上だろう」

 「ルリア7歳でしゅ」

 

 私がすかさず言うと拳がゴンと頭に降りてきた。痛いじゃない!


 「7歳には見えん」

 「7歳って言っとけば、だいたい通りましゅ」

 「お前は無理だ」

 「足し算も引き算もできましゅ。なんなら、れおより頭いいでしゅ」


 目の前でしっぽのケルンが受付の机に突っ伏して肩を震わせていた。そんなに笑うところじゃないでしょ!


 「おい、ちびども邪魔だ。さっさとどきな」


 乱暴に入り口のドアを開けてひげもじゃの男が入ってくるなり、しゃがれた声で私達に怒鳴った。その瞬間、ピコンと気配が跳ねて、でっかいひげもじゃの頭の上にポップアップが現れた。


 『首ちょんぱ(失敗)』

 『流血未遂』


 えっ、まずい。これはレオンがやるの?まさか今怒鳴られた仕返し?


 ううん、違う。レオンは剣を持っていない。

 じゃあ、誰がやるの!? 


 「まずい、まずいでしゅ!」思わずつぶやいた。


 他に誰か来るんだわ。どうしよう。こんな賑やかな狭いお店の中で、流血騒ぎは、やめて欲しい。レオンの顔を真っ直ぐに見つめてささやいた。


 「れお、この人首ちょんぱになるでしゅ」


 レオンは一瞬私を食い入るように見ると、即座に判断した。「下がれ」


 次の瞬間、私の体はラグビーボールのように宙を舞っていた。


「わわっ、ちょっと!? 投げるなら言ってくだしゃい!」


 抵抗する間もなく放り投げられた私の視界が、ぐんと高く跳ね上がる。

 ふわりと体が宙に浮いた一瞬、時間がゆっくりと流れるように感じた。


 ――まるで、天井を飛ぶ鳥になったみたい。

 眼下には、息を呑んでこちらを見上げるギルドの荒くれ者たちの顔、顔、顔。

 そして、入り口で短剣を構え、一切の感情を消した深い青い瞳のレオンの姿が、はっきりと見下ろせた。


 私は背後にいたケルンの腕の中へ、正確に放り込まれた。


「危ないじゃない! 落としたらどうするでしゅか!」


「大丈夫ですよ、姫様。ナイスキャッチです」


 ケルンが余裕の笑みを浮かべた直後――ドォォン!!!

 

 鼓膜を震わせる轟音と共に、ギルドの入り口が乱暴に蹴破られた。


 乱入したフードの男が、続けざまに三日月形の刃――ブーメランを投じる。だが、レオンの方が速かった。

 どこから取り出したのか、その手には一本の短剣が握られている。金属音が響き、弾かれたブーメランをレオンは無造作に左手でキャッチした。空気が一瞬だけ凍りついた。


 「……ご挨拶だな」


 低く冷えた声。その深い青色の双眸には、もはや一切の感情が映っていなかった。

 


 フードの男はレオンを一瞥もせず、フロアのひげもじゃを睨みつけて怒鳴った。


 「薄汚い裏切り者が。宝欲しさに仲間を殺して魔物のせいにしやがって、タダで逃げ切れると思ったか!」


 「し、知らねぇな! 俺は何も知らねぇ!」


 「とぼけるな! 見つかった亡骸が、てめえのマントのボタンを固く握りしめていたんだよ!」


 その叫びと同時に、近くの椅子が派手な音を立ててドアへぶつかった。


 ひげもじゃの顔からサッと血の気が引くのがわかった。


 言い逃れできないと焦った彼が、血走った目をギョロギョロと動かした、その時。


 弾け飛んだドアの破片から私を庇おうと、ケルンが咄嗟に身を翻した。


 ひげもじゃの濁った目が、一瞬の隙ができたケルン――いや、その腕の中にいる私をはっきりと捉えた。

 追い詰められた大人が、なりふり構わず狂ったような勢いで飛びかかってくる。


 「しまった――!」


 ケルンの鋭い声と同時に、私を抱いていた腕が乱暴に払われた。


 ひげもじゃに無理やり首根っこを掴まれて引き剥がされる。


 「く、来るな! こいつがどうなってもいいのか!」


 ひげもじゃは震える手でナイフを私の首に当てる。私を盾にして逃げるつもりだ。


 ……あーあ、君、終わったね。(心の中でそっと合掌した)


 レオンが、私を触られて黙っているはずがない。


 「ガキの命が惜しけりゃ、道を開け……ッ!」


 言葉が途切れるのと、視界がぶれるのは同時だった。


 シュンッ!


 風を切る音と共に、目の前を「何か」が回転しながら飛んでいく。それは、ナイフを握ったままの、太い腕だった。


 生温かい飛沫が視界を赤く染め、私を拘束していた不快な力がふっと消える。


 「ぎゃあああああ!! お、俺の腕があああ!!」


 「きゃっ……!」


 ホラーじゃない、これ! 痛いのも怖いのも嫌なのに!


 衝撃に備えてぎゅっと目を閉じた私の体は、間一髪、ケルンの腕に収まった。


 ――心臓が痛い。息がうまくできない。怖い。鉄錆みたいな血の匂いがする世界なんて、絶対に嫌。泣きたくないのに、勝手に涙が出てくる。


 べそをかいてケルンにしがみついている間に、奥から現れたギルドマスターによって、私たちは別室へと促された。


 乱入者も、私を掴んだひげもじゃの男も、騎士団に連行されていった。詳しいことは騎士団で聞くらしい。


 ギルドマスターは、何故かおびえた顔で謝りまくり、私はレオンのおかげで怪我一つなく、お咎めも受けずに済んだ。


 どうやらレオンとギルドマスターは旧知の仲らしい。レオンを怖がっているようにしか見えなかった。腫れ物に触るっていうかね。


 いったい何をやっていたんだろう。レオンたちの受けていた案件って、やっぱり暗殺とかなのかな?


 レオンたちの過去に少し触れた気がした。


 過去は過去。でも、心の傷になっていたりするのだろうか……


 帰り際には、ギルド側から深々と頭を下げられ、ずっしりと重い「お詫び金」まで握らされてしまった。


 ……結局のところ、私はラグビーボールみたいに放り投げられただけで、何もしていない。


 それなのに、今日一日の稼ぎを余裕で叩き出してしまった。


 「……ま、いっか! 終わり良ければすべて良し、よね」


 懐に入った硬貨の重みを感じながら、私は涙の乾いた頬を上げた。


 次は、ちゃんとした「依頼」で稼ぐことにしよう。


 皆を幸せにしてあげるんだ。


 私はボスだからね。


 3歳児でも、やるときはやるのだ。

 


 3歳児には刺激が強すぎる一日でした。

 夕方にも更新しますので、また遊びに来てくださいね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ