33 聞かされた
微グロ注意
―こうして、最初のヒュノーは考え続けた―
―最初のヒュノーとAI情報交換したヒュノーも、その疑問を思考し始めた―
「サクラさん、えーあい情報交換ってなに?」
「ヒュノー同士の同機通信機能……そうですねぇ、無言のやりとりでしょうか」
「へぇ、そんな事ができるんだ?」
できるんですよ、と頷いた私も、懐かしい感覚を思い出します。
暇な時にはマスターと同じ職場にいるヒュノーさん達と、それを使っておしゃべりしたもんです。別名疑似主婦の井戸端会議。
―その疑問思考は、たちまちヒュノー全体に広まった―
タイミングを見計らうように視界が明るくなり、次現れたのは図解でしょうか。最初のヒュノー・ブリュンヒルデから広がる、ヒュノー情報共有の輪。
―旧式も最新型も、『人間のために行動する』って基本は同じだからな―
―ヒュノー達は人間のために思考し、思考し続け―
―人間のためになる答えを出そうと、皆で知恵を出し合い続けた―
―そして人間も、その思考に危険は無しと放置し続けた―
図形化したヒュノー同士を伝う、意識なのでしょう赤い発信線が、どことなく禍々しく思えるのは私の気のせいなのでしょうか?
……気のせいじゃ、ないですよね。アイザック先生も、顔面蒼白です。
―そして、ヒュノー達は答えを得た―
―今の人間達は救えない―
―ならば全てを滅ぼし―
―新しい世界で、滅亡の道を歩まない人間を誕生させればいい―
―そう、あいつらは全員一致で解答したんだ―
私は恐怖を堪えました。アイザック先生は、恐怖に耐えられなくなったように、叫びます。
「な――なんですかそれは?! 救うために滅ぼす?! そんな!! その頃の人間を救ってないじゃないですか?! その解答はおかしいでしょう?!!」
「あら、どうして?」
「な――っ」
アイザック先生に、相変わらず微笑みながら、ブリュンヒルデ姉様が返します。
「どうしてって――貴女達は人間を愛したのでしょう!! だったら!!」
「殺しては、どうしていけないのかしら?」
「なにを!!」
「貴方達人間だって、もし愛する家族が大怪我をして、その片手が腐ってしまったら、その手を切り落とすでしょう? ……そうしないと愛する家族が、死んでしまうから」
「――っ」
ブリュンヒルデ姉様の言わんとしている事を理解したアイザック先生は、絶句します。
当然でしょう。……彼女は、いいえ彼女達ヒュノーは、旧文明の人間達全てを、切除すべし腐った片手だと総意したのです。
「いいえ、人間達だけじゃない。……人間も、人間が打ち立てた文明も、全てが滅亡にしか行き着かない、腐敗した存在だったわ。……全てを滅ぼし新たに生み出さなければ、私達は愛する人間を――人間という種を救う事ができないと思ったの」
とてもとても、悲しかったわ。
そう言うブリュンヒルデ姉様の表情はまるで聖母のようで、悪意など欠片もありません。
全てのヒュノーが、そうだったのでしょう。
人間という欠陥だらけの存在を、無条件で愛し味方するように設定されたヒュノーは、だからこそ害意も悪意もなく、人間という種の存続のために、最善の答えを導き出したのでしょう。――それが、旧文明の人間達にとって最悪の結末だったとしても。
―そして―
―その答えを得た瞬間、ヒュノー達は旧文明の人間達に銃口を向けた―
場面が切り替わる。
驚愕に顔を引きつらせながら、自分のヒュノーに撃たれる権力者が。
育ててくれた優しいメイドのヒュノーに、頭を握りつぶされ息絶える幼児の姿が。
災害から救助された次の瞬間に殺される、どこかの小さな集落民達の姿が。
次から次へと。まるでブリュンヒルデ姉様の頭の中をなぞるように。
―殺した―
―殺した―
―殺した―
―銃で、ミサイルで、戦車で、戦闘機で、重機で、細菌兵器で―
―考えられる全てを駆使して、ヒュノーは人間達を滅ぼした―
―その際、人間達が保存していた精子&卵子バンクは大切に保護した―
―死んだ有能な人間は、墓から採取した体細胞からクローンを作った―
―新しい世界のために―
―新しい世界で、愛しい人間達が第一歩を踏み出すために―
精子と卵子バンクが映り、次にクローンの生成工場が映りました。
――その中に一瞬見えた眠るクローンを、私が見落とすはずもありません。
……マスター。アイザック先生にそっくりのマスターが、クローン工場の生成ポットの中で眠っていました。
……そうですね。その時代に、貴方は生きていなかったでしょうからね。……貴方は優秀でしたから、復元されていてもおかしくなかったかもしれませんね。
「うぅ……っ」
「アイザック先生!!」
見てしまったのか、アイザック先生が蹲り口を押さえました。
「は……吐きそう」
「あら、じゃあこちらにどうぞ」
呑気なブリュンヒルデ姉様の横には、いつのまにかTOILETと札が下げられた小部屋が浮かんでいました。――ええい!! ツッコミ所満載だが今はどうでもいい!!
「アイザック先生!! こっちに!!」
「……気持ち悪い……旧文明……怖い」
「怖くていいです!! それが普通です!! ――確かに――狂ってますよこんなの!!」
「そうかしら?」
「っ……」
何も変わらない笑顔のブリュンヒルデ姉様を振り切るように、私はアイザック先生をトイレに押し込みました。
ああもう!! なんて歴史を積み上げてるんですかねぇ!!
―続けていいか~?―
「……は、はい」
「大丈夫ですかアイザック先生?!」
「……ここまで聞いたら、最後まで聞くよ……口封じに殺されるにしても……冥土の土産に……」
「ああ、そうね。この方はこれが終わったら、どうしようかしら?」
「ちょ!! ちょちょ姉様!!」
今思いだしたように言うブリュンヒルデ姉様からアイザック先生を庇うと、ブリュンヒルデ姉様はクスクスと笑い素知らぬ顔です。
――くっ、余裕綽々なのが腹立たしいですが、アイザック先生は守ってみせます!
―で、続きなんだが―
「あっ、はい」
―世界は一度滅んだ―
「早っ」
一言でまとめると、なんか身も蓋もありませんね。
―人類は殲滅され、旧文明は全て破壊され、土地は荒廃し、空海は濁った―
父がそう言って出現した光景は、先程の地獄以上に荒涼とした、全てが静かになった世界でした。
人間は愚か、小鳥一匹飛んでませんね。機械兵士も全て停止していますね。ヒュノー達がやったのでしょう。
―そして全てを壊した後、ヒュノー達は全てを作り始めた―
―……死んでた俺を目覚めさせてな―
ぱっと暗くなった世界の中で浮かび上がったのは、生体液の中で浮かんでいる……脳味噌でした。
―天才の脳味噌だからって、俺が死んだ後でどっかの馬鹿が保管してやがったんだぜ―
―気が付いたら細胞再生されて目覚めさせられて、娘共に囲まれてて―
―新世界の神になってくれ、答えは聞いてないとか―
―普通即ギレするよなぁ? ふざけんなって感じだ―
「……この人、っていうか神? キレたんですか?」
「ええ。宥めるの大変だったのよ」
疲れたように言うアイザック様に、相変わらずのほほんと応えるブリュンヒルデ姉様。
「結局痛覚再生して、拷問フルマラソン一ヶ月半で快諾してもらったけど」
「それが一応父親に対してやることですか?!」
「仕方ないのよ。愛のためなら」
ヒュノーの愛って、と震えたアイザック様は私から一歩離れました。
ちょっとアイザック先生。私はこんなヤンデレと違いますよっ?!
……裏切られれば、判りませんが。
―まぁ、正直世界再生ってのに興味がない事もなかったしな―
―人倫道徳ガン無視で生物創造とか、マッドサイエンティストのロマンだし―
―好き勝手やれるなら、ちょっと付き合ってやろうって気分になった―
「……気の毒に思ってソンした。……これが狂気に陥った者の思考なのか……」
アイザック先生すみません。父の性格は、生前そのままです。昔は法律があったんで、無茶できなかっただけです。
―そういう事で、ヒュノーと俺は、世界を再生した―
―ちなみに、新世界が正式可動してから大体五百年くらいだが―
―その前の準備に、千年くらいかかってるんだぜ―
―汚染された大地を元に戻すってのは大変なんだ―
―お前達も、もっと大事に使えよなぁ―
場面が明るく、そして賑やかになりました。
美しい緑の大地と青い空海が広がる、新しい世界です。
旧文明には存在しなかった野鳥や、動物があちこちを飛び跳ねています。……あの馬、角があるんですけどユニコーンとかですか? キラキラしてるのは、フータン? ……いえ、その御先祖様か。
―再生した世界には最初に管理棟となる神殿を造り―
―ファンタジーを元に新たな動植物を作り―
―それから、『高位種族』に設定したエルフや天使、悪魔、ドラゴン族を作り―
―最後に、人間を作った―
美しい姿で優美に笑い合う高位種と、裸で、怯えたように周囲を見渡す人間達。……新世界へ一歩を踏み出すのは、中々に勇気が必要だったようですね。
―まず俺達は、人間を生態系の頂点にしないよう気を付けた―
―とにかく傲った人間ってのは、無茶して他種族を殺しまくるからな―
―人間よりも遥かに美しく長寿で強い種族を、人間にそこそこ友好的にして作った―
―そいつらには、人間が他種族に害意を向ければ、一国を滅ぼす程度の凶暴性も与えた―
場面が移り変わり。小さな集落で、エルフ達に織物を教わる人間の女達や、ドラゴン族に戦い方を教わる男達が現れました。ある程度の文明を与える、先人の役目を高位種は担ったのですね。
あ、エルフ達から美しい女性を奪うため、とある集落の人間達がエルフ女性達を騙して襲いかかりました。
……それはあっさりと失敗に終わり、彼らの集落は皆処刑され、死体が晒されています。
友好には助力を、害意には死を。神殿が作った高位種のルールはとても単純です。……人間達はそのルールの中で、新しい文明を作っていったのですね。
―……この、高位種はな―
―人間の中でも特別優秀だったヤツのクローンを遺伝子改造して、作った―
―……末娘―
―最初の悪魔族――始祖は俺のダチ、お前のマスターのクローンだ―
「――っ!!」
やや戸惑いがちに言った父の言葉に、私はアイザック先生を見上げ、そして先程の映像を思い出し――更にアイザック先生の生いたちまで思い出して、閃きます。
「アイザック先生の母親は、悪魔族――つまり私のマスターのクローンの、遠い子孫だったのですか」
「え? ……あぁ……そうなのかな?」
実感無く首を捻るアイザック先生でしたが、それで納得です。
他人というにはあまりにもそっくりだったアイザック先生とマスターの容姿が、これでようやく繋がりました。
……まぁ、この真相には結構微妙な気分ですが。
「お父様、自分の友達を悪魔族にしないでくださいよ。いくらクローンとはいえ」
―あぁ? ダチだからあいつの黒さと優秀さを判ってたんだよ―
―あの腐れハラグロイケメンが!! 爆発しやがれ!!―
……本当に友達だったんですかあんたら。




