対峙
カルパニア魔法学院は半分を森に囲まれ、もう半分は街のほうに面している。他の二校と違い自然溢れる学院として有名だ。ちなみにギルナミア魔法学院は帝都の中心部に、フィクナーレ魔法学院は水に囲まれている。
この立派な魔法学院にゼロが通っているという情報なのだが、どうやって潜入するのかカリンに相談したところ、制服を持ってきてくれた。どうやって入手したのかはこの際聞かないことにしよう。制服に着替え、学院になんなく潜入することに成功した。ターゲットを素早く見つけなければ、ばれるのも時間の問題だ。
どうやら登校時間だったらしく、校門付近は生徒でいっぱいでなかなか見つけることができなかった。きょろきょろと見回していると、写真によく似た男が歩いている。すぐさま戦闘モードに入りそうになり、慌てて心を静めた。原因はゼロの隣にいる人物だ。黒髪のセミロング、おまけに美少女。
見とれているところをカリンに睨まれ慌てて誰なのかを聞く。
「彼女はサリア・レクマイヤー、ゼロの妹みたい」
「妹?彼女が?」
「うん、どうする?」
「サリアって子を引き入れないかな?もしかしたら、彼女の説得で書を返してもらえるかもしれないし」
「説得・・・?」
カリンは納得いかない様子だ。
「別に戦いたくないというわけじゃない。戦って倒したら身柄を王様に引き渡すよ、魔導書と一緒にね。それでいいだろう?」
「・・・わかった」
「よし!じゃあ彼女に接触しよう」
隙をうかがい二人が分かれた時を狙いサリアを捕まえた。
「何ですか!あなたたちは!」
予想通りの抵抗だが、ここは打ち合わせどおりにカリンが声をかける。
「待って、私たちは敵じゃないわ。あなたに危害を加えるつもりは無い、あなたに助けて欲しいだけよ」
「助ける?一体何から!?」
「お兄さんを説得して欲しいんだ、本を返してくれってな」
「本?一体なんの・・・」
「私たちから奪われた本よ」
「奪われた・・・?まさか、お兄様が奪ったとでも・・・?」
「ああ、そうだ」
サリアはカリンの手を振りほどき二人と対峙した。
「お兄様がそのようなことをするはずがありません!」
「あなたに彼の何がわかるというの?」
「え?」
「彼がここに現れたのはあなたを助けるため、それまでは蒼の虚無として活動していて接触はほとんどなし。ねえ、教えて。あなたは彼の何を知っているの?」
(カリン・・・なんでそんなことまで知っているんだ?)
タカヤは初めて聞く情報をしゃべりだすカリンに戸惑いを覚えた。
「わ、私は・・・」
言葉を途中で切る。
正直、なにもわからなかった。お兄様との出会いはほんの数ヶ月前だし、その前に会ったのは何年も前になる。学費やら諸々はすべて負担してもらっていたが何の仕事をしているかまでは話さなかったし、聞きもしなかった。
「もし協力してくれれば彼の罪も消せるわ。それに彼に危害は加えないと約束する、どう?」
罪?彼らの言うことが本当であればそうなのだろう、しかし、とてもではないが信じられない。
「お兄様に危害を加えないというのであれば・・・」
「よし!決まりだな!じゃあ夕方、裏山の広場で会おう」
と、タカヤが締めカリンを連れて足早に去っていった。残されたサリアは時間見て慌てて教室にと戻っていった。
しかし、今日の授業は手がつかなかった。なぜ、彼らの言うことをすんなりと信じ込んでしまったのか。実を言うとサリアはすべてを信じてはいなかった。本のことはよくわからない、でもゼロが何をしてきたのか?それだけが気になっていた。
ゼロを始末するあるいはそのために自分をえさにするというのであれば、そのまま有無を言わさず誘拐すればいいのにも関わらず彼らは潜入というリスクを背負い自分に接触してきた。これが気にかかる。なぜなのか?何か事情があるのかもしれない、それならお兄様のほうが力になってくれるはずだと思い、夕方、ゼロを裏山の広場まで色々と理由をつけて連れ出した。ゼロのほうはというと、特に不審がるようすも無く、サリアの無邪気な行動を微笑んでいた。
裏山の広場につくと二人は足を止めた。
「さて、サリア着いたが一体なにがあるんだ?」
最初に口を開いたのはゼロだった。
「お兄様、お聞きしたいことがあります」
「なんだ?」
「お兄様は本をお持ちですか?」
「本?」
「特別な本です」
ゼロの表情が少し険しくなった。
「・・・誰から聞いた?」
「し、知り合いからです。その人が言うにはお兄様が奪ったと。教えてください!仕事ってなんですか!?仕事と称してそのようなことをやってきたのですか?」
と、一気にまくしたてた。
「何も話していなかったから疑うのも無理はないか、だが、サリア信じてくれ。盗みとかそういった類のことは一切やっていない」
「し、信じます!」
「仕事というのはギルドの仕事だ。一応、クランにも加入している、蒼穹の翼だ。聞いたことがあるだろう?」
そう言いつつゼロはポケットを探り青い翼の形をしたエンブレムを取り出した。
「そうなのですか・・・、その疑ってごめんなさい」
「気にするな、あとでゆっくりと話そう。そこの二人を片付けてからな、大方こいつらかがお前を惑わしたんだろう?」
「え?」
サリアが後ろを振り向くとそこには学院で出会った二人がそこに立っていた。
「気配を完全に殺していたのに気付くなんて・・・」
「さすがは蒼の虚無、一筋縄ではいかないということよ」
男のほうがゆっくり近づいてくる。年は10代より上、黒い髪をして剣士の装備をしている。そして、女のほうの装備には見覚えがあった、フィクナーレ皇国騒乱の時の――。
「魔導書はどこにあるんだ?」
「なんの魔導書のことだ?」
「カラサンド国に封印してあった魔導書だ」
「知らないな、それにカラサンド国なんて聞いたことすらない」
ゼロは目線をサリアに移すがサリアも首を振る。
「お前は滅ばした国の名前すら覚えてないのか!」
タカヤはついにキれた。
「・・・いいか?俺は国を滅ぼしてもいないし、魔導書も奪ってない。第一、カラサンド国なんてどこだよ」
「フィクナーレ皇国からもっと北にある小国だ!俺は、俺は国を助けるために召喚されたんだ!」
冷静なゼロに対しタカヤは怒りで押し切る。剣を抜き放ちゼロに突っ込んでいった。
「意味がわからん」
戸惑いつつも戦闘態勢を取るゼロ。剣は抜かず、代わりに足下から魔法陣が広がる。
ブッゥゥゥン
ゼロの周囲に光の剣が何本も現れて並ぶと同時にタカヤに向けて飛んでいった。
「そんなものは効かない!」
光の剣はタカヤに当たると次々と消えていった。
(なんだあれは・・・)
「くらえ!」
タカヤの剣を避け後ろに飛び距離を開ける。
「逃げるな!」
(魔法を打ち消した?いや・・・魔力の残滓は残っている。少し試してみるか)
「<天より落ちし岩よ、その質量をもって敵を滅するべし、メテオ!>」
ゼロが詠唱したとん空から大きな岩が火に包まれ落ちてきた。
「おいおいおい!なんだよその魔法は!」
タカヤは慌ててゼロへの攻撃を中止しメテオの阻止を優先する。
隕石は大きく、まともに落ちれば自分以外の人間に被害がでると判断したからだ。
「うおおおおおお!一刀両断!」
タカヤの振りかざした剣から剣の波動が飛び出し落ちてくるメテオを真っ二つに割った。
「なんてものを落としやがるんだ!」
「タカヤ、前!」
視線を前に戻すとそこにはゼロがいた。右の手のひらをかざした状態で――
「これはどうだ?」
ドゴオオオオオオオオン!
ゼロの手から光が一直線に伸びタカヤを直撃した。爆風が起き、土煙が舞う。
が、タカヤは無事だった。傷も一つもない。
(なるほど、そういうわけか・・・)
「いっきなり!なにしたんだ、お前!」
タカヤはゼロに向かって叫ぶが、戦いを見守っている二人の視線がある所に集中しているのに気付きその場所を見た。
足下が光っている。いや、爆心地にいたタカヤの周囲が青白く光っていた。小石は透明な結晶となっており幻想的な雰囲気を出していた。
「なんだ、これ・・・」
「あ、あ、ありえない・・・」
タカヤとカリンの声が重なった。
「魔力をそのまま撃ち出すなんて・・・人間じゃないわ・・・」
「魔力・・・?」
タカヤがこちらの世界に来てから1年も経っていない以上、この世界の常識、特に『魔』についての知識に関してはこの『異常』に気付かないはずだ。異常の説明をするにはその魔力について少々説明しなければならない。そもそも、人の内に存在する魔力は、個々によってその容量(許容量ともいう)が違う。少ない人もいれば多い人もいるのだ。
特にカルパニア魔法学院ではその魔力の増減でクラス分けがされているわけだが。
魔力と言うのは人にとって生命エネルギーに近いものがある。魔力を使い切ってしまえば当然、意識を失って倒れてしまう。だが、休息を取ればある程度は回復するし魔力値を含む食物を食べても回復する。魔力が人にとって良い物に感じられるが、魔力を多く取りすぎると逆に危険である。人が魔力を外部から吸収する一般の方法は、食物を食べること。
回復する方法も休息や他者からの魔力の補充だ。そして、魔力の補給ができる限界はその人の容量まででそれを超えると人体に悪影響を与えることとなる。例えば、頭痛、吐き気、眩暈などはまだ軽いほうだ。最悪の場合、長時間高濃度の魔力を浴び続けた場合、肉体の変化や魔物化、死に至る場合もある。しかし、タカヤが浴びた魔力とゼロが撃ち出した魔力は少々異なる。例としてあげるのならば、バケツに入った水だ。水は魔力、バケツは器。これを思いっきり相手にぶちまけると、相手にある程度のダメージが与えられる。
今回はそれば水ではなく魔力というエネルギーだったということだ。
魔力といっても、属性なんかはまだ付属してない無属性であるわけだが、無属性でも爆発は起きるし衝撃も来る。なぜなら、エネルギーという力を直接相手にぶつけるからである。
カリンとサリアが今ある状態に衝撃を受けているのは事実だが、目線はそれぞれ別の人物に向けられていた。カリンは、地面が結晶化させるほどの魔力を撃っても平気な顔をして立っているゼロに衝撃を受けていたが、サリアはそれほどの魔力を撃ちこんだという事実を受け止めながらも魔力を受けて平気な顔をしているタカヤに衝撃を受けていた。
(魔力、魔法その両方を打ち消した。いや、吸収したようにも見えるな。許容量も常人以上もある。さてと・・・)
「あー・・・(何が起こったかよくわからないが)そろそろ観念したほうがよくないか?」
タカヤはとりあえずゼロに降伏を促した。
「ん?なぜだ?」
「だって、あんたさっきから俺にダメージ与えてられてないじゃん」
「そういうお前こそ・・・ちっ!」
ゼロが言い終わる前にタカヤは一瞬で間合いを詰めてゼロに斬りかかる。咄嗟にゼロは魔法剣を召喚し防御するが魔法剣はタカヤに無効化され砕け散り剣はそのまま、ゼロの肉体を切り裂いた。両者の動きが止まる。
「ほら、あんたは俺の攻撃を防御できないし、攻撃を与えることもできない」
ゼロは割れた剣を横目に見ながら空いた手で傷口を抑え光属性魔法による治癒で傷口を防ごうとしたが途中でやめた。
「(厄介な、魔法で治癒すらできんか)そのようだが、その指摘は少々間違っているな」
「なに・・・?」
そう言うとゼロは剣を捨て、傷口を抑えていた手を下ろし深呼吸をした。その動作だけでタカヤは何か不思議な感じがした。何かが違うと・・・・。
「ふー・・・・」
ゼロがゆっくりと息を吹くと不思議なことに斬りつけられた傷がみるみる塞がり完全に治ってしまった。
「!?なにをした!」
「こいつは治癒孔といってな、『気』を使って身体の自然回復力を高める技だ」
「あぁ?気?」
「そしてこれが・・・」
ドオオオオオオン
ゼロは腰だめに構えてタカヤに向かって球のようなものを投げつけた。タカヤは反応できずにそれをまともに受け吹き飛ばされてしまった。
「気孔波弾、簡単にいうと気の塊だ」
なんとか起き上がるタカヤ、防御したとはいえ腹に痛みが残っていた。
「気ってなんだよ・・・ドラ●ンボールかよ・・・」
「近いが・・・安心しろ、あそこまで強力じゃないし、髪も金髪にならんよ」
「・・・そいつは安心した」
「どうやらダメージは与えられるようだな」
「そのようだ」
タカヤとゼロは黙り短い時が流れ、同時に言い放った。
「「決着をつけよう!」」




