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三大魔法学院対抗戦-終劇-

はじめに気づいたのは観客の1人だった、そのうち徐々に気付く者が増えていき会場内がざわめく頃になってようやく魔人は異変に気付き振り向いた。そこには先程倒したはずと同じ顔の人間が立っていた。違いはせいぜい服装ぐらいだろう、漆黒のローブを纏っている以外は同じ目、顔立ち、髪の色、髪の毛のはね具合、身長すべてが一緒だ。

双子だろうか?そう思うのが必然だ、蒼の虚無が生き返った形跡もない、なにより彼はまだ地面に倒れたままだからだ。だが、会場内でただ1人、サリアだけは双子説を否定する。

彼女に兄が二人いたという記憶はない。もし、ゼロがそのことを自分に隠していたとすれば兄に抗議したいところではあるが今は兄の生存を喜ぶべきだろう。

様々な思惑に包まれる中、魔人が代表して彼に質問をしてみた。


「貴様何者だ」


名前などを聞きたいのではない。そこに倒れている人物と知り合いかどうかを聞くためにあえて”何者 ”と聞いたのだ。


「ゼロ・レクマイヤー、ただの魔道士だよ」 (これを言った時観客席から小さな歓声が聞こえた)


が、期待していた答えは返ってこなかった。


「あそこに倒れているのは貴様の兄弟か?」


「質問の多い魔人だな、残念ながら俺には妹が1人いるだけでね」


と、ゼロが答える。


ここでうん?と疑問が出てくる。では、あの同じ顔をした人物は何者なのかと。だが、あまり会話している時間がない。もうすぐ街に放った魔物も倒される頃合、増援が来るのも厄介だ。恐らく会場の空気を察するに先程倒した者は奴等にとって英雄的存在だったのだろう。ならば、今ここにいるやつは同じ顔とて実力はあまりないはず!

ガキン! 

観客には音がした後魔人が後ろに飛ばされたようにしか見えなかった。


元々の身体能力に加え二重魔法陣による加速魔法によって目の前にいる男に向けて手刀を加えて一撃で葬るつもりだった。が、ゼロは魔人の超加速に瞬時に対応した。まず、右手に剣を召喚、そして迫り来る手刀に斬撃を加え防御したのだ。


(この男強いな・・・ふふっ)


久しぶりの強者に出会え口元に笑いがでる。構えなおし再度攻撃を仕掛けようとした時、


「まぁ、待て。お前の疑問に答えてやろう。戦いはそれからでも構わんだろう?」


ゼロから話しかけられ動きが一瞬止まる。


「答えを教えてやろう、立て」


誰に向かって・・・と思った瞬間、地面に倒れていた蒼の虚無が立ち上がった。


(どういうことだ?確実に相手を殺したはず、死の魔法を使っているわけでもあるまいし)


蒼の虚無は胸に穴を空いた状態でゼロに近づく。


(まさか・・・)


それは真っ先に思いついた可能性、だがありえないと否定した可能性でもある。


(まさか・・・)


蒼の虚無の身体はゼロの体に引き寄せられていく。


(別に不可能ではないことだ、だがありえるのか?そんなことが)


蒼の虚無の身体が完全にゼロと重なり合った。まるで幽霊がゼロに乗り移ったかのように。


手のひらを握ったり腕を回したりと体の状態を確認していくゼロ、その動作をただ見守るしかできない魔人と観客。会場にいる誰もが今の光景に対して戦慄を覚えていた。


「改めまして、ゼロだ。君は何という名かな?」


「ウォルフだ、だが名前などどうでもいい!あの男の感触は人間そのものだった!思念体であるはずがない!」


ウォルフは声を荒たげる。

というのもウォルフ自身思念体とまったく気付かなかったからである。

『思念体』

簡単に言うと魔力で自分の分身を作る魔法技術の一つである。学院中はその理論のみ学習するが実践は行わない。思念体で戦っている人間も多くはない、どちらかというと少ないほうだ。

思念体を作るにはまず自分の魔力を使う必要がある。思念体を作っている間は自身の魔力は思念体を作った分の魔力は回復できない。さらに、思念体はどんな動作においてもその魔力を消費し続ける。よって長時間思念体を維持し続けるのは不可能だ。例えば、自分の魔力の半分を使って思念体を作り上げたとしよう。その場合自分が使える魔力は思念体を作った残りの魔力しか使えない。しかも思念体が魔力を消費し続けるがその消費分は自分のところに戻ってこない。思念体を作り出すことによって戦闘力が2倍になるということはないのだ。むしろ、消費が2倍になり自身の魔力も減るため戦闘力は半減する。


魔力をあるったけ使えばあるいは完全な人間の再現を思念体で作り出すことも可能だろう。だが、もし作り出したとしても術者のほうは戦闘力皆無となってしまう。

しかし、実際に蒼の虚無は魔人二人を倒している。その間魔力を消費し続け、さらに融合魔法、古代魔法まで発動しているにも関わらずその姿を維持しつづけ、魔人のウォルフでさえ思念体と気付かなかった。しかも、術者は魔法剣を召喚し、加速魔法でウォルフの一撃防いでいる。これを戦慄せずいえるだろうか。


「さて、始めようか」


思念体が本体と同化してから本体に魔力の変化がない。

(どういうことだ・・・)


ゼロが剣を構える。左手はぶらりと下げたままだ。


(あの左手はなんだ・・・?)


ゼロが消えた。いや、早すぎて消えたように見えただけだ。一瞬で間合いをつめウォルフに斬りかかる。とっさにウォルフはゼロからの剣を受け流しカウンターで手刀による突き。これで殺れるとは思っていないが致命傷ぐらいにはなるだろう。手刀がゼロの体を貫いた時ウォルフはその感触に違和感を感じる。


(これは・・・思念体か!)


ゼロの姿が消える。


(どこだ?)


消えた敵を探そうとして首を回そうとした瞬間、背中に寒気を感じた。勘というべきか、長年の戦闘の経験が危険信号を上げる。咄嗟に前転をして回避する。後ろにはゼロがいた。振り下ろされた剣が空を斬る。


「やるな」


「魔法陣を介さず思念体を作り出すとはとんだ化け物だな」


「ふっ、魔人殿に化け物呼ばわりされるとは光栄だな」


両者はにらみ合いそして激突した。

剣と拳がぶつかり合う。金属音に似た剣撃の音が響く。両手を使い、手刀と拳を使い分けながら攻めるウォルフと左手は無防備に垂れ下げながら右手の剣でウォルフの攻撃を防御しつつ隙あれば反撃するゼロ。お互いに一歩も引かない勝負だ。


(あの左手・・・)


戦いながらゼロの左手に注目する。

先程、左手を取りにいこうとすると防がれた、つまり奴の弱点かもしれないということ。

外傷は無いように見えるが怪我をしているのであれば動かさない理由もわかる。


(ならばその左手もらう!)


流れるように剣を捌きつつ本命を気取られないように攻め左手を刈り取ろうとしたその時ゼロが無造作に左手をウォルフに突き出した。予想外の行動にほんの一瞬動きが遅くなる。


「甘い」


にやりとゼロが笑い、そして左手から魔法が放たれた。詠唱は無かった、魔法陣の展開は放出とほぼ同時。どちらが先に発動したかわからないほどの速さ。放たれた魔法はエアカッターと呼ばれる物だった。なんてことはない、B級の風魔法。ただ、突然現れた魔法に対して何の防御もせずに突っ込むのはB級魔法とはいえあなどれない。だが、ウォルフは何の防御もせずに突っ込んだ。驚いたのはゼロのほうだ。魔法で牽制し状況を変えようとしたのに迷わず突っ込まれてはどうすることもできない。魔法をかいくぐってきたウォルフの一撃を防ぐ。


そこでゼロは違和感を感じる、それはウォルフの切傷だ。放ったのはB級風魔法だが、もちろん多重魔法陣により威力は通常より2、3倍のはずだ。にもかかわらず、ウォルフの切り傷はまるでほんのかすり傷程度にしかなっていないからだ。


(まさかな、いや、もう一度確認する必要があるか)


二度三度攻撃を防ぐと再び魔法を放つ。今度はA級炎魔法のフレイムブラスト、火柱がうウォルフに襲い掛かる。だがウォルフはまたしても防御することなく突っ込み、ゼロに攻撃を加える。


「貴様、魔法をいや、属性を半減させているな?」


「ほう、魔法を数回撃っただけでわかるとはさすがだな。我が能力は魔法属性抗体、いかなる魔法属性も私の前では無力だ」


「完全に無力化できないところがエレメントマスターとの違いってところか」


「他にも色々あるがな、さてどうする?魔法剣士ゼロよ」


「なに、簡単だ。剣で切り裂けばいい、魔法なんて無用だ」


そう言い放つとゼロは先程の戦いとは打って変わり攻勢に出始める。片手で剣を自在に扱う。そして戦いはすぐに終わりとなった。ゼロの猛攻にあい防御を必死で続けていたが、

ほんの一瞬だけ隙を作ってしまったウォルフ。その一瞬をゼロが逃すことも無く、一筋のの剣閃となってウォルフの体を斬った。体が斜めに切り落とされ、胴と足は完全に分かれてしまった。地面に倒れたウォルフの首元に剣先が止まる。


「なぜ、魔人がこの地を襲う?」


「私は強者を求めた、今や魔人の半分は始祖に忠義など尽くしてはおらぬ・・・」


「そうか、他に何か無いか?」


「一思いにやってくれ、お主ともっと早くに戦えていればこんな計画に乗らなかったのだろうに、な」


ウォルフのその言葉を聞きもう一度尋ねようとしたが、魔人はすでに意識が絶え絶えとなっていた。ゼロは剣に炎属性の魔法をありったけ込める、耐性があろうと燃やすことができるほどの威力さえあればいいのだ。それを一気に振り下ろして魔人の体を焼いた。

体は一瞬で燃え上がり、灰となって空に舞い上がっていった。


戦いが終結を迎えた後、歓声が巻き起こった。観客は総立ちで拍手と声でゼロを迎えた。


「お兄様!」


サリアは観客席から飛び降り、ゼロの胸に飛び込んだ。匂いをかぎ、何度も顔をすりつけ、ゼロが本物だと何度も確認をした。


「お兄様が死んでしまったと思って・・・私は!」


「俺は死なんさ、サリアがいる限りは、な」


涙を浮かべ見上げるサリアの頭を優しく撫でる。少し離れたところでエル、アカネ、レンが涙を浮かべこちらを見ていた。しばらくは、この場を兄妹に譲るかのように。


「見事であった!魔法技術、剣術すべてにおいてすばらしい戦いであった!」


マーリンが駆け寄ってくる。涙こそを浮かべてはいないもののその顔は歓喜に満ちていた。


「お主こそ大陸最強の魔道士じゃ!蒼の虚無のことを入れてな!」


「はぁ、それはどうも」


「マ、マーリン様、あの・・・・」


突然、ゼロとマーリンの間に街の警備兵が割り込んでマーリンに耳打ちをする。

耳打ちをされたマーリンの顔つきはみるみる内に歓喜の顔から驚愕の顔へと移っていった。


「な、なんじゃと・・・!?」


ゼロとサリアは顔を見合わせる。どうやら異常な事態が起きたらしい。


「すまぬが、至急ゼロ殿はわしと一緒に展望室まで来てもらえんかな?」


「いいでしょう、サリアはここでみんなと待っているんだ、いいね?」


「でも、お兄様・・・」


サリアの言葉を最後まで聞かずにゼロはサリアから離れるとマーリンと一緒に走っていってしまった。


(今は離れたくないのに・・・)


サリアの思いを残して。



展望室は闘技場の塔の最上階にあり、セルナグレイの町並みを一望できる施設の一つだ。


「あちらをご覧ください!」


警備兵が指し示す場所に黒い影見える。影は大きいものから小さいものまで様々であり、まるで行進するかのようにこちらに向かってきていた。


「なんじゃあれは・・・」


「恐らく魔物でしょう、タイタンオーガからゴブリンまで大量にいるようですね」


ゼロが冷静に分析する。


「ええ、偵察隊の話によるとその通りです」


警備兵もうなずく。


「偵察隊はすぐに下がらせろ、あれだけの数だ、偵察してもあまり意味はないだろう」


「残念ながら偵察隊とはすでに連絡が取れません。恐らくはもう・・・」


警備兵がうつむく。


「そうか、確認するがあの一帯の住人の避難はどうなっている?」


「はい!全市民は東門の都市兵本部に避難しております!あの一帯は完全に無人だということを保証しますよ!」


「ならば安心だな」


そう言うとゼロは魔力を引き出し始めた。それもとんでもない量をだ。


「あの、いったいなにを・・・」 「なにをするつもりじゃ」


膨大な魔力に圧倒されつつある警備兵とマーリンを無視しゼロは詠唱を始める。


<我らの頭上に広がる世界よ、星々のはるかな世界よりその力を以って地を焼くべし。其は灼熱の星、いかなる闇をも切り裂く光となりて今ここに現れん!ソーラーレイ!>


どんよりとしていた分厚い雲が突如として割れ、一筋の光線が下りてきたと思うと魔物の群れをなぎ払った。爆発と閃光が幾度も無く折り重なって起き、あまりにも眩しく目は開けていられないほどだった。

爆発の音が収まって恐る恐る目を開けると魔物の群れがいた場所には黒く焼け焦げた地面に黒い物体がいくつも転がっていた。


「魔物が消えた・・・?」 「今の魔法はいったいなんじゃ!見たことも無いぞ!」


警備兵とマーリンの声が重なる。


「星天魔法というものだ、星の力を使う魔法だよ。さっきのは太陽の力を使ったのさ」


ゼロがマーリンに説明する。


「星天魔法?そのようなもの聞いたことがない!どこで手に入れたのじゃ?」


「手に入れたのではない、作ったのだ。この俺がな」


「な、なんだと・・・。あの魔法を作った・・・?」


「この辺で失礼しよう、この話はいずれ別の機会で」


ゼロは驚いて固まっているマーリンとの会話をさっさと切り上げると足早にその場を去った。




こうしてセルナグレイの惨劇は幕を閉じた。年に一回のセルナグレイの”祭り”は悲惨な結果に終わってしまった。このような事件が起きたため、魔法大会管理委員会は大会を中止と判断し、今年の三大魔法学院対抗戦は今後行わないという方針を出した。

セルナグレイが受けた傷は大きく、市民の犠牲は少ないものの城壁及び城門の破壊や警備兵の被害が大きかった。セルナグレイの復興には三ヶ国から人員と物資が送られることになった。

各学院はその日のうちに自国に戻ることとなり帰宅の途についた。ゼロもサリア達と一緒に帰ったが道中蒼の虚無のことについての質問攻めにあったというのは言うまでもない。

どういうわけか、学院中に蒼の虚無=ゼロということが知れ渡っており、ゼロが学院に着くなり同好会などの勧誘が殺到したとか。

サリアがこの一件でゼロによりべったりとなってしまったのがゼロ唯一の失敗だった。

もはや、羞恥を忘れたかのようにいつもくっついて来るのだ。彼女曰く「お兄様から一時も離れたくない!」ということらしいが真偽のほどは定かではない。




―???―


男はゆっくりと階段を下りてくる。そこは周りが石でできておりどこか神殿のように感じ取れる。男の周囲には赤と黄色の甲冑を身に纏い顔も仮面で覆われている兵士が体から血を流して倒れている。生きている様子も無く、すでに死んでいるようだった。

さらに階段を下りるとても開けた場所にでた。周囲には魔結晶が綺麗に光って部屋を明るく照らしている。広間の真ん中には柱が4本囲むように立っている。柱には本来球体が結界を作っているのだが、球体は形を成しておらず粉々に砕けていた。

4本の柱が囲むよう黒い本が置いてあった。男はその本に手を伸ばし、台から本を取る。


「ふはははははははははははは!いいぞ!いいぞ!」


笑いながら本をめくっていく。


「本物だ!遂に手に入れたぞ!これこそが死の魔道書!ははははははははははは!」


「あと二つ!あと2冊だ!魔人共を送り込んだかいがあったというものだ!!」


男の笑いは神殿内に響くがその笑い声を聞くものは誰一人としていなかった。



久々の長編?になってしまいました。更新が遅れに遅れたことはなんとお詫びをしたらいいか・・・。今回で三大魔法学院対抗戦編は終わりになります。なんか全然対抗戦ぽくないとか思ってたり・・・。

もう少し早めに更新できるようにと頑張っていきますので何卒よろしくお願いします。

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