特別、意味と、存在。
私はただ、スナイパーが狙いやすい位置にターゲットを誘導し、ターゲットが撃たれたら「キャー」と騒いで逃げるだけだ。下には見えない所に車が停めてある。
で、動いている人が一瞬にしてただの肉の塊となるのを私ははじめて目の前で見届けたわけだが……ここどこだっけ?知らぬ部屋にいて、服を着たまま椅子に腰掛けていた。近くには銃が一丁……。
触れようとした瞬間、後頭部に何かが押さえ付けられた。「動くな。」私は手を下ろすと、ゆっくりと後ろを向いた。
「動くなと言っている。」さらに額に押しつけられた銃を気にも止めず、無抵抗なまま彼を見た。
彼は、「お互いに自殺しないためにお互いを見張れって言われてたろ。あんた見てるとこっちまで気ぃ狂いそうだ。」と告げて銃を下ろした。
「……殺さないの?」
「メリットがないからな。それよりあんたを生かして襲った方がメリットある。」ベッドに押し倒されたが、抵抗する気もなければ、抵抗するものだとも思わずに死んだ目のまま彼を見上げた。彼は苦笑し、「おいおい、マジ?」と告げると、再び私を見てあきれた。どうやらあそこは地獄で私は地獄を見すぎてきたらしい。
そんなこんなで死を恐れない私は、いつのまにか彼と大出世をとげ、いつからか暗殺界ではそれなりに名の知れた殺人犯となった。
「……ティ。死にたいとは思うか?」
「常に。でも死ぬわけいかねーよ。俺は戸籍上存在しない人間でも病気の母親がいる。」
「ティ、母親に会いたいか?」
「会ってるから別に。」
「ティ……母親とはどんな存在だ?」
「……エム……親いないのか?」
「私の戸籍はない。捨て子って話だ。それもよくわからない。物心ついたときにはこの世界にいた……すまない。私情を話しすぎたな。」
お互いに本名を名乗らずに、背を向けて寝る。
普段ならそれが当たり前だった。だが今日は少しばかり違うようだ。
「エム、人のぬくもりってぇのは偉大なんだぞ。」
ギッというベッドが軋む音がして、私はティの腕に包まれた。
「……そうだな、温かいな……。」それだけ言って寝ようとすると、「寝たら襲うぞ。」と何故かティに怒られた。
「じゃあどうしろというんだ。寝るなとでも?」
ティの顔をじっと見てから目を反らした。
……嫌いだ。ティは生き生きしすぎている。私には眩しすぎる。初めてティを嫌いだと思った。それまではなんとも思わなかった。
それから寝ようと目を閉じた。
「襲うっつってんだろ。」
「ご自由に。」
「あっそ。」
首もとにモゾモゾとした感覚がくる。それはだんだんと胸元へ下がってくる。
思わず目を開けると、ティを直視し、「何をしている?」とたずねた。
「襲ってる。」
「……そこは鎖骨だ。性器じゃない。」
「知ってる。」
「……さっさとやって気が済んだら寝ればいい。」
「……エム、いい加減にしろ。まずは俺を見ろ。俺はお前の相方なんだぞ?何故目を見ない。」
「見たくない。」
「何故。」
「ティが嫌いだ。ティは……私には眩しすぎる。」
「……成る程、愛してほしいのに実際には戸惑うってやつか。別にいいけどね。俺はエムの事嫌いだよ。だって俺の顔ちゃんと見ねぇもん。」
「お互いに嫌いならそれでいいじゃないか。おやすみ。」
「ああ、好きなようにやってるよ。」
ティがベッドから離れた瞬間、唇に何かが押しつけられた。強引に口を開こうとしてくる。昔にもあった。嫌な記憶だ。性器を口に突っ込まれ、口内に得体の知れない何かを出された。
お世話にもおいしいとは言えなかった。だが、逆らえば殴られる。そんな思いから基本的に強いられれば何でもやった。
その癖はいまだに抜けないらしい。開かれた口からざらついた舌が私の口内をかき回す。
妙に息苦しい。なんだこれ?なんなんだ?
途中、咳き込んで起き上がると、ティを睨んだ。
「エムはキス初心者か。」妙に得意げなティにディープキスとやらを教えこまれ、もう一度よくわからない感覚を味わう。
酸欠になりそうだ。
「ティ……もう無理だ。疲れた。」ぐったりとティに寄り掛かると、ティは疲れたと言った私をほったらかして首筋に顔を埋め、胸元にも顔を埋めた。
ピンクのあざがそこにはできていた。
「ティ……これはなんなんだ?ただ性器と性器をこすりあわせるだけが欲求を満たすことではないのか?」
「んなわけあるか。普通はもっと大切にすべきもんだぞ。」
その夜、私ははじめて本来の意味を知った。そして、今までにはない妙な感覚も一緒に。
翌朝、いつまでたっても昨日の夜の出来事が脳裏に焼き付いて離れなかった。私は変態にでもなったのだろうか?
「……Dか……思ったよりあるな。」
驚いて声がした方向を見ると、ティが私の下着を見ていた。
「ティ、きさま……昨日私に何をした!」
「……ムラムラしたからヤッた。」
「媚薬か何か盛ったのか!?」
「……なんも?」
「嘘だ!」
「服着ろよ。」
「嘘だ……!じゃあ何故昨日の事が離れない……!」
私が嘆いた瞬間、ティがニヤリと笑った気がした。
「そんなによかったですか。もう一回やるか?」
「バカ言え。それより、下着、かえしてくれないか。」ティに手を伸ばすと、その手をつかまれ、そのまま押し倒された。
「よかったんだろ?」
「……今までのはこんなことにはならなかった。よってお前が何かを盛った。それ以外に思い当たる事はない。」
「はいはい、じゃーもう一回ねー。」
よくわからないまま、とりあえず2回目が終わった。変だ。変だ。変な声が出る。何故だ。
ティは、あれを特別な行為と言った。ならば私にとってのティは、特別な存在?だから私が狂った?特別なんてわからないから。そうか、そういう事か。
シャワーから上がると、髪の毛から滴る水を気にも止めずにティを呼び止めた。
「ティ、お前は私にとって特別な存在だ。」
「……そりゃどうも。」
ティは目を丸くしたままだったが、やがて「あれ?でも、特別な存在ってちょっとヤバくね?」と言って、管理された朝食を口にしながら私の前に座った。




