①主要登場人物紹介
■シェリル・アリアシスト
【基本】
二十三歳。五月十九日生まれ。大陸最南端の小国、オルネス公国の出身で、アノリスの姉。
エレシア王国魔法師団に属する特級術師であり、師団の特任研究師。リーヴィン王立大学でも講義を受け持つ。
魔法を算術で記述する体系「魔法算術論」の著者として知られ、人々からは「エーテラリス」の異名で呼ばれる。
【外見】
腰のあたりまで届く、濃い紫の長い髪。ヘーゼル色の瞳。背丈は百六十六センチほどの細身で、物憂げな影を帯びた、整った顔立ちの美貌の持ち主。
黒や濃紫といった暗い色の服を好むが、装いにはまるで頓着しない。部屋の中では少々だらしなく、下着姿で過ごしていることもある。
イメージカラーは紫。師団の給水室にある彼女の水受けポットには、目印に紫の紐が結ばれている。
【生い立ち】
幼い頃から魔法と学問、とりわけ算術の才が突出しており、五歳で微分積分を学んでいた。
七歳の時、流行り病で両親を相次いで亡くし、妹アノリスとともに、オルネスの有力な魔法使いヒルビット卿に引き取られる。卿のもとでその才にさらに磨きがかかったが、十四歳の時に卿が世を去った。その後は自らの魔法の腕を頼りに、妹を連れて北へ向けて旅に出る。
その翌年、特級試験の最終関門「静魔七日」――音も魔力も届かない部屋で、七日間、眠らず、飲まず食わずで座り続ける試練――を越え、特級の位を得ている。
【魔法】
術式の土台は解析学、とりわけ複素解析。魔力の「極」を打ち、その周りをぐるりと一周する積分で「留数」を取り出すことで、術を炸裂させる。威力も種類も、感覚ではなく式の上で組み立てる。
杖は持たない。杖を介すると一拍遅れるからで、彼女にとっては手と指先こそが術の原点であり、到達点でもある。
ただし、彼女自身は算術を魔法そのものだとは考えていない。算術は術者のぶれをなくし、魔法を安定して放つための手段の一つ。古来からの感覚・作法で魔法を扱う術師の力も、等しく魔法である。
【人となり】
感情を表に出すことが少なく、淡々と事実を積み上げて話す。口癖は「事実なので」。
冷たいわけではない。物事をまず事実として受け止め、感情はいつもその後から、遅れてやってくる。
信条は「怖いから動く」。恐れを知らないのではなく、恐れているからこそ、先に手を打つ。
【人間関係】
妹のアノリスとは、両親を亡くして以来、ずっと二人で生きてきた。旅の途中で出会った亡国の王女ラフィスとは大親友であり最大の戦友。
魔法師団長アルヴァンは、組織の長と研究者という間柄。ただアルヴァンの側は、二十四年ぶりに目の前に現れた特級術師としての彼女を、畏れにも似た思いで高く評価している。
師団では、回復術師エルナと共同で研究を進め、神経魔法に一人で挑むソニアの才を高く買っている。
ミレイの熱線魔法はシェリルの示した着想を、ミレイ自身の算術で磨き上げたもの。
ヴォルテナ帝国軍総帥ガルデウスとは、算術を語り合う私的な書簡を交わしている。
【第二部の終わりに】
ガルデウスとの書簡は、「シェリルは帝国と内通している」という噂の火種にされた。噂の陰にいたのは、私腹を肥やしていた上級術師エイン。追い詰められたエインは、師団の給水室で彼女の水に毒を投じた。
一命を取り留めたシェリルは、法廷で被害者として証言台に立ち、事件は決着を見る。張り詰めていたものが緩んだ八月の終わり、師団長アルヴァンから十日間の休暇を命じられる。その命令書を携えてきたのは、副団長のベルナルトだった。
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■アノリス・アリアシスト
【基本】
十九歳。十月二十九日生まれ。オルネス公国の出身で、シェリルの妹。
エレシア王国魔法師団に属する上級α術師。第二部の上級術師試験を首席で突破した。
また、王都の最高級酒場と最高級娼館を兼ねる「月華亭」で受付として働いており、術師となった今もその仕事を続けている。客の相手をするのではなく、店の入口で客を迎え、さばくのが彼女の持ち場である。
【外見】
肩にかかるくらいの、茶色の髪。瞳は淡い灰色。背丈は百五十四センチほどと小柄で、戦いの邪魔にならない程度に、豊かな胸元をしている。
姉と並ぶと少し幼げにも見える。一言で表すなら、可愛らしく、そして折れない娘。
【生い立ち】
三歳の時に流行り病で両親を亡くし、両親の記憶はほとんど持たない。姉とともにオルネスの有力な魔法使いヒルビット卿に引き取られ、十歳の時、卿の死を機に、姉と二人で北へ向けて旅に出た。
姉のような学問の素地はなく、勉強熱心な方でもない。ただし、地頭は良い。
【魔法・戦い方】
自身の魔法を乗せることができる法剣ヴェントラーゼを操る。姉のように式を組むのではなく、感覚で魔法を扱う「感覚派」の術師。術式の計算はヴェントラーゼが行っている。
得意とするのは風。ヴェントラーゼから放つ風の斬撃をはじめ、修行を重ねるうちに、扱える術にも幅が出てきた。
上級αは、上級に上がったばかりの最下位。その上にはβ、γと、まだ伸びしろが残されている。
【人となり】
明るく人懐こい、今どきの娘らしい軽やかさの持ち主。その実、話術にかけては天才的で、相手の心をするりと開かせる力が突出している。月華亭で酔客を笑顔であしらう手際は、姉と二人で生きていくために磨き上げた、紛れもない技能である。
場面に応じた丁寧語を武器にする一方で、親しい相手には飾らない口調で話す。
身体も心も打たれ強く、簡単には折れない。才能の塊のような姉を誇りに思いこそすれ、妬んだことは一度もない。
口癖は「燃えてきた」。ラフィスを「ラフィ姉」と呼ぶ。高貴な血を引くラフィスに対して気軽にこの呼び方をするのは、アノリスだけ。
【人間関係】
姉のシェリルは、唯一の家族。ラフィスとは旅を共にし、姉に次ぐ家族のような存在になっている。
上級試験を共に戦ったミレイ、エルナ、カイル、ソニアらとは、同期の仲間。
月華亭の主セレナには、娘のように目をかけられている。
【第二部の終わりに】
月華亭の帳簿に紛れた不審な金の流れに最初に気づき、汚職事件の端緒を作った一人。
姉が毒を盛られていたことは、法廷で初めて知った。事件が決着を見た今、彼女はまた月華亭の受付に立ち、いつもの笑顔を取り戻しつつある。
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■ラフィス・ミラセシル
【基本】
二十五歳。一月八日生まれ。亡国カリティスディアの王女。王家の正式な名は、ラフィス・エルン・カリティスディア。
王女であることは、第一部で騎士団の門を叩いた日に露見し、王宮では知られている。ただし、民には明かされていない。
現在はエレシア王国リーヴィン騎士団の将軍。術師の等級のような公的な格付けは持たず、「将軍」という役職そのものが彼女の立場を示す。直属の上官は騎士団副団長のバレンツ。
【外見】
肩に届かないくらいの、濃紺の髪。瞳も紺。背丈は百七十二センチほどの長身で、すらりとした体つきをしている。
男とも女とも言い難い、中性的な顔立ち。それでいて、ふとした仕草に女らしさがのぞく。
装いの感覚は抜群で、安い服でも高級な仕立てに見せてしまう。本人に飾るつもりがなくとも、育ちの良さはそういうところに出る。
【生い立ち】
七歳の時、祖国カリティスディアがヴォルテナ帝国に攻め滅ぼされ、両親を失った。以来、十年という長い年月を、己の腕一つで、旅と修行を重ねて生きてきた。姉妹とは十八歳の時に出会う。
旅の目的は、戦火の中で弔われることのなかった両親の魂を送る儀式「カルナヴィア」を果たすこと。第一部の終わり、シェリルとアノリスとともにたどり着いたドルヴェナ岬で、その願いを遂げた。
【戦い方】
盾を持たず、軽快な身のこなしで戦う剣士。第二部で、長く振るってきた剣から、刀「ノクティセカ」に持ち替えた。
剣だけでなく馬の扱いにも長け、ダルガン連合を訪れた折には、ダービーの日の前座レースに急遽乗せられた馬で三着に入っている。
【人となり】
ぶっきらぼうで照れ屋。気遣いを言葉にするのが下手で、代わりに行動で示す。料理が得意で、旅の途中では三人の食事を作る役回りでもあった。
飾らない振る舞いの中にも、本人の自覚なしに気品が滲む。
信条は「復讐は意味を為さない」。亡き父の言葉であり、祖国を奪われた彼女が自らに課してきた戒めでもある。
【人間関係】
シェリルとは、互いの背中を預け合う戦友。アノリスからは「ラフィ姉」と呼ばれ、慕われている。
【第二部の終わりに】
将軍に就いて間もない夏、外交省次官ルヴァンらとともに隣国ダルガン連合へ軍馬の視察に赴き、二頭の軍馬エリオとフィリオを融通されるという成果を持ち帰った。
シェリルが毒を盛られていたことは、アノリス同様法廷で初めて知った。その夜、彼女はシェリルの執務室を訪ね、「お前は、私の大切な戦友だ」と告げている。




