第二話
「悠陽くん、これってどういう意味?」
「ん? ああ、ここはこういうことだと思うよ」
声のするほうを見ると、女子生徒と男子生徒が机を挟んで話していた。
男子生徒は東雲悠陽。
その向かいにいるのが、北河かな恵だった。
かな恵は説明を聞きながら、何度も頷いている。
「そっか! ありがとう、悠陽くん。助かった!」
「どういたしまして」
悠陽が笑う。
その笑顔を見たかな恵は、一瞬だけ言葉を止めた。
「かな恵?」
「な、なんでもないよ!」
「そう?」
「うんうん!」
かな恵は慌ててノートに視線を落とした。
――どうして、こんなに意識しちゃうんだろう。
悠陽は優しい。
困っていると助けてくれるし、こちらの話もきちんと聞いてくれる。
一緒にいると安心する。
だからこそ、彼の何気ない笑顔に胸が落ち着かなくなる。
けれど、悠陽が自分をどう思っているのかは分からない。
一方の悠陽も、かな恵が慌てている様子を見て、少し不思議そうにしていた。
けれど、その表情がどこか可愛らしく感じられたことには、自分でも気づいていた。
――もっと、話していたいな。
その気持ちに名前をつけるには、まだ早い気がした。
二人の間には、誰にも気づかれていない、小さな秘密が生まれ始めていた。
その様子を、窓際のルナは静かに眺めていた。
「……仲がいいんだなぁ」
ルナがそうぽつりと呟いた瞬間。
「あっ、白月さん!」
かな恵が明るく手をぶんぶんと振る。
子犬みたいなところがあるなと、ルナは思った。
「よかったら、一緒にお昼食べない?」
「えっ……わ、私?」
「うん! もちろん!いいよね?悠陽」
悠陽に笑顔で尋ねると、悠陽はふっと笑って頷いた。
ルナは一瞬ためらった。
けれど、かな恵の笑顔を見て、そっとこくりと頷いた。
「……ありがとう。ご一緒してもいい?」
「やった! もちろんだよ!」
こうしてルナは、かな恵と悠陽の二人と、少しずつ言葉を交わすようになった。
そして、昼休みの終わり際。
教室の入口を通りかかった蓮と、再び目が合った。
「あ。白月。」
「……く、黒瀬くん」
名前を呼ばれただけなのに、ルナの心臓が小さく跳ねた。
「ルナちゃん?」
「な、なにかな?」
ルナは慌てて顔を伏せる。
かな恵は不思議そうに首を傾げたあと、いたずらっぽく微笑んだ。
「ふーん……?」
「か、かな恵ちゃん……!」
その声に、蓮が少しだけ振り返る。
「どうかしたか?」
「な、何でもありません!」
ルナは思わず大きな声で答えてしまった。
蓮は一瞬驚き、それから小さく笑った。
「そっか。じゃあ、またな」
その一言を残して、彼は廊下の向こうへ消えていった。
ルナは机に視線を落とした。
頬が熱い。
どうして、彼が笑うとこんなに落ち着かなくなるのだろう。
まだ、答えは分からなかった。
「絶対絶対、なにかあるよ!」
「はいはい。わかったから」
その隣で悠陽とかな恵の声が響いていたことを、ルナは気づいていなかった。




