第50話 記述の起点、白き深淵の邂逅
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空の裂け目を通り抜け、ロアたちはそこへと至った。
先ほどまでの崩壊の喧騒が嘘のように、音も、風も、そして重力すらも存在しない、ただ果てしない「白」だけが支配する空間。
足元には鏡のような滑らかな床が広がり、見上げる先には、この世界のすべての記述(ルビ:プログラム)が流れ込む巨大な光の滝が、逆説的に静止して見えた。
「……ここが、記述の起点……」
ナハトの声も、ここではどこか遠く響く。ラグは愛用の大剣を構え直すが、その表情には隠しきれない緊張が走っている。ノエルもまた、ロアの背中を守るように寄り添い、周囲の圧倒的な静止に息を呑んだ。
「……また、来たのか。不確定要素:ロア。……それと、出来損ないの写し身」
頭上から、感情を削ぎ落とした「声」が降り注ぐ。
光の滝の中央から、一人の少年――シオンが、音もなく空中に現れた。以前、真・宇宙で対面した時よりも、その体は透き通り、周囲の白と同化し始めている。それは彼が管理者としての権限を極限まで使い、自らをもシステムの一部へと昇華させている証拠であった。
「シオン……。こんなの、街のお掃除なんかじゃない! ただ、めちゃくちゃに壊してるだけだ! みんなを凍らせちゃうなんて、そんなの爺ちゃんの言ってた綺麗な世界じゃない!」
ロアが、聖葬槌を突きつける。
シオンの視線が、その黄金の輝きに、そしてロアの背後に揺らめく白銀の軌跡に注がれた。
「……ガレンの遺物か。……しかし、それは所詮修復に過ぎない。……今のこの世界は、もはや修復で済む段階は終わっている。……一度すべてを止め、空白に戻す。……それが唯一の論理的な救済だ」
「止めるのは救いじゃない! 動き続けて、汚れながらでも、それでも明日に行くのが生きるってことだって……僕は、街のみんなに教わったんだ!」
ロアの全身から、白金と黄金の燐光が力強く立ち昇る。それは、シオンの支配する静止の世界に、初めて持ち込まれた変化の熱だった。
『……非論理的な。……バグが熱を持ち、さらなるエラーを呼ぶ。……理解できない。……理解、不能……』
「わからなくていいよ! ……僕が、今から全部書き換えてあげるから!」
ロアは聖葬槌を振り上げた。 同時に、シオンの背後の光の滝が激しく波打ち、そこから巨大な、数千の削除コードが白銀の刃となってロアたちを包囲する。
「ロアっ! 来るわよ!」
「あぁ、分かってる! ……ラグ、ノエル、ナハト! 力を貸して! ……空を直して、シオンの涙、止めてくる!」
ロアが地を蹴り、シオンへと肉薄する。 管理者の無と、修復者の熱。 正反対の二つの意志が、世界の最深部でついに激突した。
―――輝きが、すべてを塗り潰していく。
(第50話 終わり)
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