第29話 剥がれる蒼穹、モニターの裏側
お読みいただきありがとうございます! 監視者の塔を越え、たどり着いた世界の頂。 そこでロアたちが目にしたのは、神々しい天国……ではありませんでした。 私たちが「空」だと思っていたものの正体。 剥離者のハンマーピッケルが、世界の最大の嘘を暴きます。 物語はいよいよ、核心の「管理ルーム」へ。
「……ねえ、ロア。……手が、届いちゃうわ」
垂直の壁を登り詰め、一行がたどり着いたのは、奇妙なほど平坦な屋上だった。
そこには遮るものもなく、ただ見渡す限りの蒼穹が広がっている。だが、ノエルが震える手を伸ばすと、その指先は本来遥か彼方にあるはずの青色に触れた。
パリッ。
静かな、けれど取り返しのつかない音が響いた。
ノエルが触れた場所から、美しい青空のテクスチャが、まるで古びた壁紙のようにめくれ上がったのだ。
「……何、これ……。空が、……冷たいわ」
剥がれた場所から覗いたのは、無限に広がる星空でも、眩しい太陽でもなかった。
そこには、巨大な基板と、点滅する緑色のインジケーター、そして果てしなく続く配線の網があった。
「……分析完了。……地上から視認されていた太陽および月は、この天井に設置された高輝度プラズマ発光体による投影映像です。……現在、剥離箇所の修正プログラムが起動中」
ドローン越しのルカの声が、ひどく遠くに聞こえた。
[Object: Sky - Type: Projection_Screen - Status: Damaged]
「……嘘だ。……じゃあ、私たちが信じていたあの美しい朝も、……夕焼けも、全部……誰かが作った絵だったっていうの!?」
ノエルがその場に膝をついた。エリート魔導師として、世界の理を追求してきた彼女にとって、これ以上の侮辱はなかった。
彼女たちの人生は、巨大な箱庭の中で、作り物の光を浴びて踊らされていただけだったのだ。
「……掃除だよ、ノエル」
ロアの静かな声が、絶望に支配されかけた空間を貫いた。彼は黄金のハンマーピッケルを、その巨大なモニターの裏側へと突き立てた。
「偽物なら、剥がせばいい。……汚れてるなら、磨けばいい。……爺ちゃんはいつもそう言ってたもん!」
ロアのハンマーピッケルに力がこもる。かつてない規模の黄金の螺旋。それが、世界の天井という名の嘘を、一枚、また一枚と剥ぎ取っていく。
バリバリバリッ!!
凄まじい物理的な破壊音と共に、頭上の青空が完全に剥落した。直後、一行を襲ったのは、人工的な空など比較にならないほどの、圧倒的な無音の宇宙だった。 そして、そのモニターの裏に隠されていたもの。 それは、空間そのものを管理するための、巨大なコンソールパネルと、そこに座る一人の人物だった。
「……あ。……待ってましたよ、掃除屋さん。」
振り返ったのは、管理者シオンではない。
シオンよりもさらに小さく、けれど深淵のような瞳を持った、一人の少女。彼女の後ろには、世界のすべてのデータを処理する中央電算機が、静かに、けれど狂おしいほどの熱量で唸りを上げていた。
(第29話終わり)
第29話、お読みいただきありがとうございました。 ついに「空」が剥がれました。隠されていたのは、世界の管理を行う巨大な電脳空間。そしてそこで旅人を待っていたのは、謎の少女・ナハトでした。
もし「面白い!」と思ってくださったら、ブックマークや評価で応援していただけると非常に嬉しいです!
次回、第30話「特権階層、あるいは孤独な観測者」。 世界の最後で、ロアは最大の「お掃除」に直面します。 クライマックスへ、加速します!




