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第17話 黄金の雷鳴と、偽りの誇りの剥離

お読みいただきありがとうございます! ハンマーピッケルが弾かれ、絶体絶命のロア。 ガウェインの漆黒の雷がすべてを飲み込もうとしたその時、ロアの背中を支える「冷たいはずの魔法」がありました。 リゼの献身、アルゴスの覚醒、そして消えた強敵の行方。 謎が深まる中、セレステ編はクライマックスを迎えます。



「……硬いっ! これ、ただの表面の汚れじゃないよ!」


 ロアの叫びが、中央演習場に虚しく響いた。

 弾かれた黄金のハンマーピッケルを握り直すロアの腕は、黒い雷の余波で激しい痺れに襲われていた。ガウェイン・フォン・ベルシュタイン。


 彼が纏うのは、ベルシュタイン家の誇りなどではない。数百年、この国が魔法の繁栄の裏で吐き出し続けてきた隠蔽されたエラーログの塊――それを一族の命脈で強引に繋ぎ止めた、不浄の衣だ。


「誇りを汚した報いだ。……消え去れ、異端の不純物め」


 ガウェインが冷酷に手を掲げる。


 バチバチィィッ!!


 ロアの目の前に、透き通った青い幾何学模様の壁が展開された。  ノエルの魔力障壁だ。


「……ロア、下がって。……この雷、魔力じゃなくて毒を直接流し込んでくる。私の演算が次々と上書きされていく……!」


 ノエルのバイザーが、激しい警告の赤色に染まっている。彼女はロアの背中に手を添え、必死に残りの魔力を振り絞って防波堤を築いていた。


「やめろ、兄上! 彼らは関係ない! ……ベルシュタインが背負うゴミ捨て場としての役割を、部外者にまで押し付けるつもりか!」


 血を吐くアルゴスの叫び。その言葉に、ガウェインの瞳が不気味に細められた。


「……気づいていたか。そうよ、我が一族は世界の汚れを食らって肥大化したデリート・ボックスそのもの。誇りとは、その悪臭を隠すための香水に過ぎん」


 キィィィィィィィン……!


 ガウェインの頭上の魔法陣が、絶望的な黒色へと収束する。


 バァァァァァァァァァンッッ!!!!


 光を飲み込む極太の黒雷。  ロアが、そしてノエルが迎撃の魔力を練ろうとした、その一瞬。


「アルゴス様っ……!」


 細い、けれど鋼のように硬い意志を秘めた影が、アルゴスの前に飛び込んだ。 従者の少女、リゼ。


 ドゴォォォォォンッ!!


「リゼぇぇぇぇっ!!」


 アルゴスの絶叫。ノエルが即座にロアの視界を遮るように立ち、爆風から彼を庇った。煙が晴れた後、そこにあったのは、もはや人間としての輪郭を保てず、デジタルなグリッチとなって崩れ落ちようとするリゼの姿。


「……ずっと、痛みに耐えて笑う……あなたを、愛していました……」


 透明になっていくリゼの指先が、アルゴスの頬を滑る。


「……あ、あ、ああああああああっ!!」


 アルゴスの咆哮。  ロアは見た。アルゴスの魂の核に眠っていた純真な光が、リゼという最後の一滴を受けて、真っ白な設計図のように輝き出すのを。


「……ガウェイン、兄上! ……一族が世界のゴミ拾いなら、私はそのゴミごと、黄金に輝かせてみせるッ!!」


 ドォォォォォォォォンッ!!


 アルゴスの身体から放たれたのは、太陽そのものの温かさを持つ黄金の雷鳴。  それはガウェインの黒雷に対抗する暴力ではなく、世界というシステムの本来の白さを呼び戻す、強力な再定義パッチだった。


「なっ……構造解析不能!? バカな、理を超えたというのか!」


 ガウェインの黒雷が、黄金の光に触れた瞬間に洗浄され、キラキラと輝く光の塵になって消えていく。


「ロア! 今だ! ……ノエルさんも、頼む! 彼の中にある核の座標を!!」


 アルゴスの力でガウェインの守りが剥き出しにされた。ノエルが冷静にバイザーを調整し、ガウェインの胸元にある、最も黒ずんだ一点を指差す。


「……そこ。座標、固定完了。……ロア、お願い!」


「うん! 最高の場所だね! 行くよッ、掃除開始だぁぁ!!」


 ロアが地を蹴った。ノエルの魔導支援がロアのハンマーピッケルに重力操作という名の加速を与え、黄金の軌跡が空を割る。


 ズドォォォォォォォンッ!!


 ガウェインの胸にハンマーピッケルが食い込んだ。いや、それは肉を叩いたのではない。数百年分の「ベルシュタインの呪い(蓄積した重量エラー)」を、世界の果てへと剥がし取ったのだ。


「が、はぁぁぁぁっ……!? 私の……誇りが……」


 パリン。


 ガウェインを縛っていた黒い衣が砕け散る。だが、その瞬間だった。


 ザザ……ザザザッ……。


 ガウェインの身体を、不気味な黒いノイズが包み込んだ。勝利の歓声が上がるはずの中庭。だが、瓦礫の中に倒れ込んだはずのガウェインの身体が、一瞬の暗転と共に、一欠片の衣服すら残さず消滅していた。


「……あ。いないよ、ラグ。あのお兄さん、どこ行っちゃったの?」


 ロアが首を傾げる。  ノエルは、ガウェインが消失した場所から、わずかに残る消去官デリーターのものと同じ残像を感じ取り、ロアの腕を無言で強く握った。


 静寂が、ゆっくりと戻ってくる。アルゴスは、黄金の光の中で奇跡的に形を保ったリゼの身体を、狂おしいほど大切に抱きしめていた。


「……ノエル。お掃除、大成功だね」


 ロアは肩で息をしながら、ノエルに微笑みかけた。ノエルは少しだけバイザーの位置を直し、ロアの煤けた顔を指先でなぞった。


「……ええ。お疲れ様、ロア」


 ロアは見上げた。ガウェインを回収した何かが潜む、曇り一つない星空のその先を。ベルシュタインというゴミ箱を空にしたことで、世界のシステムは、より一層「掃除屋」への警戒を強めていることに、彼はまだ気づいていなかった。


(第17話終わり)

読んでくださりありがとうございます! リゼの献身とアルゴスの覚醒。そして、消えたガウェインの行方……。 ベルシュタイン一族が守り続けてきた「誇り」の正体が、世界のバグの保管庫だったという衝撃の真実。 ノエルとロアの絆も少しずつ深まってきましたが、学園編の幕引きの裏で、さらに巨大な『掃除すべき存在』が胎動しています。

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