第15話 雷神の誇り、剥がれる痛みと救済
お読みいただきありがとうございます!アルゴスとの決戦。彼を縛る「強さ」の正体を、ロアが暴きます。
学園の夜が明け、ついにその日がやってきた。
セレステ魔導学園の心臓部、直径数百メートルを誇る広大な中央演習場は、朝から異様な熱気に包まれていた。すり鉢状の観客席を埋め尽くしたのは、普段は冷徹なエリートを気取る数千人の学生たちだ。彼らのバイザーが五色に明滅し、期待と興奮という名の情報のノイズが空気をビリビリと震わせている。
「……ラグ、あそこ、すごくうるさいよ? 人の声じゃなくて、魔法の機械の音が、耳の奥をずっと叩いてくるんだもん」
ロアは演習場の入り口で、顔を顰めて耳を塞いだ。彼の目には、演習場の床下に張り巡らされた膨大な魔導回路が、過剰な興奮に耐えかねてドロドロとした情報の澱を吐き出しているのが見えていた。人々が「歓声」と呼ぶ音の裏側で、世界は悲鳴を上げている。
「我慢しろ。……今日はあの金ピカ野郎との決闘(ランキング戦)なんだろ? 街中の魔導士が、お前の正体を見極めようと目を皿にしてやがるぜ」
ラグが不格好な大剣を背負い直し、ロアの背中をポン、と叩いた。
「――諸君。静粛に。本日、特待検体生ロアと、ベルシュタインが次男アルゴスによる、特例ランキング戦を執り行う」
空中から降り注ぐ管理者の声。直後、対戦相手のアルゴスが雷鳴と共に舞台へと降り立った。
「始め!」
宣告と同時に、空間が爆発した。
ドガァァァァン!
アルゴスの身体から放たれるのは、青白い狂雷。通常の魔法を遥かに凌ぐ、暴力の奔流だ。
「……食らえ! 我が一族の誇り、代償の果てに至る……迅雷の裁決ッ!」
アルゴスの咆哮。だが、ロアの目には、その雷はアルゴスの細胞を削って吐き出されたエラーに見えていた。
「危ないよ! それ以上やったら、きみの身体がバラバラになっちゃうよ!」
ロアは、雷光の海の中を、まるで水遊びでもするように歩き出した。
パリン。
指先で空気を横に払うだけで、直撃したはずの雷鳴が光の塵となって消えていく。
「……アルゴス。きみの魔法は、すごく一生懸命で、すごく痛いね」
ロアは、アルゴスの目の前まで辿り着くと、静かにハンマーピッケルを掲げた。
「でもね、その痛みは、強さじゃないよ? それは……ただの掃除のし忘れだ!」
ズドォォォォン……!
ロアが叩いたのは、彼を縛り、細胞一つ一つを焼き続けていた雷神の衣という呪いの接合部。 キラキラ……。
瞬時に、青白い放電が白銀の雪となって霧散した。
「……痛く、ない」
アルゴスは呆然と自分の掌を見つめた。生まれた時から彼を離さなかった、あの焦げるような痛み。それが、嘘のように消えていた。
「あ、きみ、すごく綺麗な目をしてるね! 怖がらなくていいんだよ、アルゴス!」
ロアがニコリと笑って手を差し出す。アルゴスはその場に膝から崩れ落ちた。魔法という鎧を剥がされ、彼は初めて、世界の温かな呼吸を取り戻したのだった。
(第15話終わり)
読んでくださりありがとうございました! 痛みが消えたアルゴス。ロアがもたらしたのは、破壊ではなく救いでした。 しかし、この「お掃除」が学園の秩序をさらに揺るがしていくことに……。
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