第13話 温かな食事と、学園の「冷たい」理
お読みいただきありがとうございます! 学園の「効率的な食事」をお掃除したロア。 ノエルとの心の距離も少し縮まりましたが、学園という組織の異質さを感じ始めます。 次回、ロアへの冷ややかな視線が牙を剥く……。
フィオナに「掃除禁止」を言い渡されて始まった、セレステ魔導学園での生活。だが、ロアがどうしても耐え難かったのは、魔法で効率化し尽くされた、あまりに味気ない食事だった。
「……これ、卵じゃないよ。ただの、黄色く固められただけの、冷たい何かだ」
学食のオムレツ。見た目こそ黄金色で美しいが、ロアのゴーグル越しに見ると、それは単なる「栄養素の数値」を並べ替えただけの、生命の温もりが一切感じられない情報の塊に過ぎなかった。
「贅沢言うな。これ一食で銀貨一枚するんだぞ。エリート様のための、最高級の合成食だ」
隣でラグが、不格好なフォークを動かしながら嘆く。
「知性は、食材をいじめる理由にならないよ! 爺ちゃんのオムレツは、もっとこう、生きてる!って音がしたもん!」
ロアは我慢できず、食堂の奥に鎮座する巨大な自動調理機へと歩み寄った。調理機の周囲には、食材が分解される際に発生する不協和音が、情報の淀みとなって渦巻いている。
トントン。
黄金のハンマーピッケルが、調理機の排熱ポートに軽く触れる。
「掃除して、本来の美味しい音に戻してあげるね」
フワァッ。
瞬間。調理機から広がり始めたのは、計算された合成香料の匂いではなく、草原の風や土のぬくもり、そして生命そのものが放つ原始的な幸福の香りだった。学食を埋めていた冷たい静寂が、その香りに当てられたように、ざわめきへと変わる。
「……昨日の掃除屋。私にも、それを」
いつの間にか、ノエルがロアの隣に座っていた。 彼女は相変わらず透明な瞳をしていたが、鼻先を微かに動かし、盆に乗った掃除されたオムレツをじっと見つめている。
「いいよ! はい、あーん」
ロアが無邪気にスプーンを差し出す。ノエルは一瞬ためらった後、小さく口を開けてそれを受け入れた。咀嚼。そして、嚥下。
次の瞬間、ノエルの白磁のような頬に、ほんのりと赤みが差した。
「……美味しい。……今まで食べていたものが、急に砂みたいに感じちゃう。……ロアのそばにいると、私の世界が、少しだけ温かくなる気がする」
彼女は初めて、自分自身の明確な意志を言葉にした。
「……私を連れて行って。あなたの掃除が、世界のどんな場所を暴くのか……ずっと見ていたい」
「うん! もちろん。掃除の助手さんが欲しかったんだ!」
ロアはニコニコと笑った。だが、その笑顔の裏側で、ロアは学園の壁の至るところから、耳を塞ぎたくなるような「不快なノイズ」を感じ取っていた。この学園は、美しく整えられているようでいて、その実は不純物を排除することに執着しすぎている。それが、世界を無理やり変形させて、息苦しさを生んでいるのだ。
「……ここ、すごく静かだけど。……掃除しなきゃいけないところが、他にもいっぱいありそうだなぁ」
ロアはゴーグルを指先で直し、夕闇に沈む学園の巨塔を見上げた。この白すぎる世界の中で、自分だけが異臭を放つ汚れのように浮き上がっている。その奇妙な孤独感が、少年の胸に小さく、それでいて消せない火を灯していた。
(第13話終わり)
読んでくださりありがとうございます! 学園の「効率的な食事」をお掃除したロア。 ノエルとの心の距離も少し縮まりましたが、学園という組織の異質さを感じ始めます。 次回、ロアへの冷ややかな視線が牙を剥く……。
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