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異世界編み師の布教活動  作者: 草食丸
第五章 王都への道は一日にして成らず
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5-㉛ 猫と愛欲の使徒

作品に興味を持って下さり、ありがとう御座います!

どうぞ最後までお楽しみ下さいm(_ _)m

 お姫様抱っこなう。

 気付けば、僕はアンサスに抱き締められていた。どうしてこうなった? よく分からん!

 ()()()()に見たアンサスは何やら凄く喜んでるし、ボロボロになっていた。

 とりあえず、野郎にお姫様抱っこされる趣味は無いので、早々に降ろして貰うことにする。

 あ、ちなみに女の人にお姫様抱っこして貰う趣味があるという意味じゃ無いので注意!


 状況がよく分からないので手短に確認したところ、まずピアちゃんとアニマル’sは無事。ミミちゃんとセレナも勿論無事。

 ピアちゃん側は落ち着いていて、馬車を避難させていた側は魔物に絶賛襲われ中だったらしい。


 ここは僕が食べられた場所から少し離れた場所で、背後で倒れてるワニも僕を食べたのと違う沼竜(スワンプ・ドラゴン)とのこと。

 うむ、特に取り急ぎすべき事は無いな。


「うんうん、了解。何も問題無いようで良かっ・・・アンサスっ、手っ⁉ 手っ!! ていうか全身大怪我してんじゃん!?」

「いえ、特に問題御座いません」

「問題あるわっ、アホちん!! アラミスーッ、アラミスーーッ!!」


 取り急ぎすべき事があった。

 何が「問題ありません」だ、問題ありまくりだわっ!!


 飛んできたアラミスにアンサスを任せ、僕は少し離れた所で佇む人物に顔を向けた。

 居るのは知ってた、だから視界も意識もその人から離さなかった。恐らくこの騒動の元凶な気がするから。


 僕が商人さんに違和感を持ったのは凡そ半日前。

 話は扉を潜った頃に遡る。



 ◇



「うん、目が覚めたらピアちゃんが僕の膝で寝ててね、それからずっと一緒に居るんだけど、もぅ可愛くて可愛くて。えへへ」

「凄く愛していらっしゃるのですね」

「そりゃ当たり前だよ! 勿論ピアちゃんだけじゃないよ? ミミちゃんも当然大好きだし、アニマル’sだって弟みたいだって思ってるし、セレナは大切な娘だし、皆それぞれ大切だよ!」

「がぅがぅ♪」

『セレナ、マーマすき』


 僕達は胃で見つけた怪しすぎる扉を潜り、警戒しながらも雑談を交えつつ歩いていた。

 扉から伸びるのはレンガで作られた、何の変哲も無い一本道。「もしかして、罠だらけか?」と、警戒もしたが何も起こらない。本当にただの一本道。

 道も広くないので不意討ちの心配もない、天井も低いので音も拾いやすい、本当に暇だ。そりゃ話も弾むというもの。

 それにしてもこの商人さん、めっちゃ僕らの事聞いてくるじゃん。もしかして熱量高めのファンか? あとでサインとか強請(ねだ)られるかもしれん、どうしよう練習してないや。


 僕の心情など知らぬ商人さんは、尚も質問を重ねてくる。

 面白いのが、先程から使っている様々な魔導具には全く興味を示さず、「僕ら家族の関係」「家族をどう思っているか」「皆との思い出」そればっかりだ。

 帰ったら例の娘さんへの土産話にでもするのだろうか? 僕としてはそっちの方が嬉しいけど、商人としては魔導具にも興味を持ったほうが良いと猫さんは思うぞ。


「種族、身分を超えて結ばれた家族、愛・・・あぁ、素晴らしい!」

「商人さん、大丈夫? なんか目が逝っちゃってるよ?」


 猫さん、その興奮のされ方はちょっと怖いです。


 そんな感じでテクテク歩いて行くが、やはり進めど進めど何も変わらない。

 そもそもここはどこなんだろう、まだ沼竜のお腹の中で良いのか? そうなら、この道は一体何なの? もう拡張とかそういう次元の話じゃ無い気がする。


「何だろうか・・・この感じ、前にどっかで・・・」


 僕はこの肌に感じる感覚に覚えがあった。しかしどこだろうか、喉の所まで出かかっているのに思い出せない。

 何とも言えないモヤモヤした気分で道を進んだ。


「それにしても、この道どこまで続いてるんだろうね? 僕んところもそうだけど、商人さんも早く帰ってあげないと娘さんが心配するよね」

「・・・えっ? あぁ、えぇそうですね。早く帰って無事な顔を見せてあげないといけません」

「んー?」


 今の間は何だろう、娘さんとケンカ中なのか?

 それに気のせいだろうか、商人さんはミサンガを大事そうにするわりには家族に対して興味が薄すぎる気がする。

 最初に話した時、全然そんな感じは無かったのに・・・複雑なご家庭なのだろうか?


 あまり余所様の事情に首を突っ込むべきではないので、僕は話を打ち切り歩き続けた。

 それから何度か食事をとり、また何時間か歩く。僕の腹時計はわりと正確なので、飲み込まれてからたぶん20時間くらい経っている筈だ。

 そのあいだ道に変化はなく、飽きたミミちゃんとセレナは眠ってしまった。どこに鼻があるのか、ミミちゃんは鼻提灯を作っている。


「ミミちゃん、鼻あったんだね・・・セレナも流石におねむか。いや、セレナは元々眠ってばっかりだったな」


 きっと僕が一人にならない様、起きててくれたんだろう。本当に良い子である。

 僕は起こさないように、優しく二人を撫でた。


「ふふっ、かわいい・・・」

「・・・やはり女神様は愛に満ち溢れていらっしゃいますね」


 そう呟く商人さんの表情は、先程までとはうって変わって真剣だった。


「まぁ、これでも平和と愛の女神ですから・・・たぶん」

「たぶん?」

「うん、たぶん」


 聞いたこと無いしな、もし違うなら編み物の神様だろう。


 それから更に何の変化もないまま道は続き、商人さんの質問も続くのだった。

 しかし流石にネタ切れ、この人に異世界での思い出を全部話した気がする。たぶんこの人は僕とピアちゃんの次くらいに、僕の異世界人生に詳しい人だろう。


 もう話すことが無いなぁと考えていると、漸く道に変化が起きた。


「おっ! やっと何かありそうな場所に出た!」

「・・・がう?」

『・・・・・・何、あった?』


 道の先にあったのは六畳ほどの小さな部屋。

 中央には石造りの台座らしきものと、その中央にバスケットボールサイズの光の玉が浮いていた。

 よく見ると光の玉はガラス、もしくは水晶のようなものらしい。照明器具だろうか?


 台座の向こう側を見れば、そこは壁。つまりここで行き止まりだ。

 この光の玉をどうにかしたら良いんだろうか? どうすればいいか悩んでいると、その答えがセレナから齎された。


『マーマ、これ、ダンジョンコア』

「ダンジョンコア⁉」

「が、がうっ⁉」


 そっか、初めてミミちゃんに会った時と同じ感覚なんだ。

 この子は元々ダンジョンで生活していたわけだし。


 ダンジョンコアは文字通りダンジョンの核だ。破壊すればダンジョン内に居る生命体は強制的に排除される仕組みになっている。

 出る方法が見つかった。しかしそれは同時に、ある事実が判明した事になる。


「ダンジョンコアがあるってことは、つまりここはダンジョン。それも()()()()()()()()()


 ダンジョンコアというのは文字通りダンジョンの核、つまり心臓だ。

 当然その辺に転がっているようなものでは無いし、体内がダンジョン化して平気な生物は居ない。

 それに前に読んだ本によると、コアはダンジョンから離れると急速に力を失うらしい。つまりこの沼竜(大食らい)がダンジョンコアを台座ごと誤飲したとしても、自然にダンジョン化することはあり得ない。

 つまりこの沼竜は人為的にダンジョンコアを移植されたということになる。


「誰がどうやって? それに移植出来たとして、何の為に・・・」


 移植したとして何の得があるんだ?

 ダンジョン資源を独自に確保する為? いやいや、それなら初めから庭にダンジョンを作れば良いし、そもそもダンジョンから生まれる利益は個人や一商業の規模を大幅に超えるはず。

 金額は知らないけど漫画知識で言うなら国家レベルだし、この技術自体国家機密レベルだろう。

 きっと、わざわざ生物に移植した理由がある筈だ。


「うーん・・・色々調べたいけど、結局脱出の為に壊すしか無いんだよねぇ」

「がうがう!」


 ミミちゃんは壊すことに賛成らしい。ちょっとコアを嫌がってるから、たぶんダンジョンというのは決して良いものでは無いんだろうな。


 ピアちゃんやアニマル’sに早く会いたいし、ちゃっちゃと壊してしまおう。僕はダンジョンコアに爪を立てたる、すると後ろに居た商人さんから声がかかった。

 商人さんは真面目な顔のまま、こちらを見ている。なんだろう?


「女神様。女神ユウ様、貴女様にとって『愛』とは何ですか?」

「愛? うーん、いきなり聞かれてもなぁ」

「『愛』は素晴らしいものですか?」

「うん、良いものだと思うよ。ちょっと恥ずかしいけど、僕がピアちゃんを、家族を思っている気持ちは間違いなく愛だと思ってるよ。そういう意味では、愛は家族とか繋がりの事かも」

「家族・・・繋がり・・・」


 商人さんは言葉を反芻して何かを考えている。


「では誰かを守ることも『愛』ですか?」

「うん、それもそうだと思う」

「では誰かを守る為に命を奪う事は『愛』ですか?」

「それは・・・違うと思う」


 命を奪う事は愛じゃない、でも命を奪うと言っても色々ある。

 殺人や無意味な殺生は当然悪だ、でも食べる為の殺生や戦争とか命を守る為の行為は悪か?

 勿論良いことではないが、しなければ愛する者が死んでしまう。極論、愛する者を守らない事に繋がる。

 じゃあ、意味のある殺生は愛する行動か? その答えは僕には無い。だって、僕だって地球に居た頃から沢山の動植物を食べているのだから。


「俺は思うんです。『愛』は心の在り方なのだと」

「うん、そうだね。正しくは無いけど、大切なものの為に行動しなきゃいけない事もある・・・戦争とかね」

「そうです、そうなのです! つまり『愛』とは、正しき心が起こす行動。つまり()()()()()()()()()()()()()のでしょう!」

「・・・はっ?」


 今なんて言った?

 国が滅ぶ? どうしてそんな話に飛ぶの?


「そう、仕方ないのです。命を奪う事も、人を嬲る事も、弱者に石を投げることも、大切な物を奪う事も、住処を奪う事も、一族を絶滅させることも、尊厳を奪う事も、望まぬ未来を強要させる事も、権利を踏み躙ることも、権利を強奪する事も、罪を擦り付けることも、全て全て全て仕方の無い事なのです!!」


 ──『愛故に』


「・・・何を言ってるの? そんな訳無いじゃん、少なくとも尊厳を踏み躙ったり権利を奪う事はを絶対に違う」

「何が違うのです? 愛する者の尊厳を奪い返す為に、害者の尊厳を奪う事はそんなに悪い事なのですか? 愛する国の為に、他国を蹂躙する事は罪なのですか? 貴女様は相手の権利を守る為に全てを諦めるのですか? 愛する妹様を汚い男に差し出す事も厭わないのですか?」

「ふざけんな、そんなの許すわけ無いじゃん」


 ピアちゃんは一生僕のもんだ、絶対に嫁にやらん。


「では、女神ユウ様。俺に『愛』を説いて下さい。『愛とは何ですか』? 何処までが『愛』なのですか?」


 商人さんの目が僕を見つめる、その目が次第に黒く染まる。

 ドロリと目から、口から、耳からコールタールの様な粘り気のある液体が出てきた。


「『愛』を『愛』を『愛』を『愛』を」

「な、何が・・・」


 ガクガクと油の切れたおもちゃの様な動きを見せ始めた商人さん、凄まじいホラーだ。

 何が起きているのか分からない。状況が分からず混乱する僕だが、商人さんも想定外が起こったようで困惑していた。


「ふむ、()()()思ったよりも耐久力が無いですね。不甲斐無い事です。それに・・・外でも想定外の事が起きたようです」

「外? ピアちゃん達が何かしてくれてるのかな」

「妹様のお名前が出た瞬間、貴方様から素晴らしい『愛』を感じました! あぁ、素晴らしい!」


 商人さんは恍惚とした表情を浮かべたかと思えば、再び真面目な表情に戻る。何か忙しい人だな。


「さて、女神様。()の目的も果たす事が出来ましたので、どうぞそちらのコアを破壊してください。さすれば、外への脱出も叶いましょう」

「勿論、遠慮なくそうさせて貰う。でも色々聞きたいことが出来たよ」

「それは外に出てからに致しましょう、愛する方々が外でお待ちなのでしょう? えぇ、えぇ、私は女神様の『愛』を邪魔する様な無粋は致しませんとも」


 僕は商人さんに警戒しつつ、ダンジョンコアに爪を立てる。するとガラスの割れた音と共に、何処かへ流される感覚に襲われた。

 そこからは、気付けばアンサスにお姫様抱っこされていたというわけである。


 アンサスに降ろして貰った僕は、商人さんを正面に捉え構える。敵かどうかは分からない、でも悪い人だ。そんな気がした。


「さぁて、無事出られて良かった・・・ってぇ事で。どういう事か、説明してくれるよね? ねぇ、商人さん?」


 商人さんは微笑んでいた、だがそれは凄まじい違和感の覚える笑みだった。


「仰せの侭に。っと、その前にこの姿のままでは失礼にあたりますね。お目汚し失礼致します」


 そう言った次の瞬間、商人さんから垂れていたコールタールが勢い良く吹き出す。

 それらはヘドロのような動きを見せながら足元に水溜りを作り、それが止まると商人さんは地面に崩れ落ちた。


 黒い水溜りが迫り上がる。


 それは僕より少し高い位置まで待ち上がると、白く染まり始め、純白の法衣を着た美しい女性に変わった。


 女性が目を開く、その眼は黒く染まった白目の中に金色の瞳が輝いていた。


「改めまして。御初御目に掛かります、(わたくし)《リアムの転輪》十欲の一人、『愛欲』のアガペーと申します」

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最後まで読んで下さり、ありがとう御座いました!

また次の更新も宜しくお願い致しますm(_ _)m

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なかなか目的地に着きませんな
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