5-㉔ 兎は財宝と第一村人を発見する
作品に興味を持って下さり、ありがとう御座います!
どうぞ最後までお楽しみ下さいm(_ _)m
「ぐぅんぬぬぬぬぅぅぅ──おわっ!?」
ベチョッ!!
僕は突然何かに襲われたかと思えば目の前が真っ暗になり、極狭のくっさいウォータースライダーで流されたかと思えば異様に広い部屋に叩き落された。
「くしゃい・・・ここ何だ? なんか赤暗いし、壁も床もブヨブヨしてるし、激臭なんだけどっ!?」
この臭いは何と表現したら良いか・・・肉系生臭さに腐臭をブレンドして5年くらい熟成させた、年季の入った咽返る様な臭いだった。
「って、何で僕は冷静に臭いを分析してるんだっ! それより、ミミちゃんっ! 大丈夫?」
「が・・・がひゅっ・・・」
「怪我は無さそうだね、良かった・・・」
鼻があるのか定かでは無いが、彼女もこの臭いに参っているようだ。
咄嗟の事とはいえ、僕はピアちゃんを優先して助けてしまった事をミミちゃんに謝罪した。
「ミミちゃん、ゴメンね。咄嗟にベルトを外せなかったし、ミミちゃんの方が小柄だったからっていうのもあるんだけど、こんな所に付き合わせちゃって・・・お姉ちゃんが絶対に守ってあげるからね」
「がうっ!」
ミミちゃんは特に気にした様子もなく、「問題ないよっ」と言ってくれるのだった。
因みに、ミミちゃんとの会話はフィーリングが大事である。
今ここに居るのは僕とミミちゃん、そしてもう一人。
僕は上着のポケットを優しくポンポンと叩き、お寝坊さんを起こした。
「セレナ、起きて。怪我はない?」
『ふぁ~~・・・おはよう、マーマ。・・・マーマ、ここどこ?』
パタパタとポケットから飛び上がったセレナは、短い脚で器用に僕の肩に留まった。
彼女はミミちゃんと同じく僕が編んで作った体の為、まぁたぶん大丈夫だろうとは思っていたが予想通り無事なよう。というか、これだけ騒いでいたにも関わらず今の今まで寝ていたようだ。
お寝坊さんここに極まれけりである。
「う~~ん、僕にもよく分かってないんだけど・・・たぶん食べられた?」
「がう!」
『マーマ、セレナ、食べる側、良い』
「いや、僕だって好きで食べられたわけじゃないからねっ⁉」
臭いもそうだが髪から服までベトベトのべっちょべちょである、こんなのを喜ぶのは一部の変態だけであろう。
僕はクレ何とかさんの顔を思い出しつつミミちゃんに光石を出して貰い、それを光源に周囲を見渡した。
この光石は、だいたいどこのギルドでも売っている異世界版懐中電灯(10,000R)である。
さて、セレナにも説明した通り僕達は恐らく食べられた。
食べたのはたぶん話にも出ていた『沼竜』で、体の構造が僕の知る動物と同じならここは『胃』という事になる。
まぁ牛は胃が何個かあると聞くし、ここは異世界。胃の前に何かをする器官があってもおかしくはない、とにかく今言えることは早く出ないと僕達は仲良くウ〇チになってしまうという事である。
ピアちゃんも、お姉ちゃんがウ〇チだなんて流石に愛想を尽かすだろう、早く出ないと・・・。
ただ、少し気になっていることがある。それはこの空間が異様に広いのだ、たぶんバスケットコートぐらいのサイズがある。
「アルバートさんに聞いた話だと、沼竜の大きさは馬車二台分くらい。馬車は馬込みで6メートル前後だから約12メートルとして・・・って、おかしくないっ⁉」
そもそも仮に15メートルだったとしても僕を丸のみできるとは思えない・・・まぁそこは口の構造にもよるが、出来たとしてもお腹の中にこんな大空間は有り得ない。
だがそんな有り得ない事が異世界では有り得る、つまりこれは──。
「これがこいつのスキルなんだな。よし、『鑑定』!」
【沼竜】
種族 : グランド・ドラゴン亜種
スキル: 沼地潜航、拡張空間、エナジードレイン
スキルを見るに恐らく沼地潜航で地面から近付いて僕を丸のみ、そしてこの拡張空間で大きくなっている胃に放り込まれたわけか。
15メートルクラスの巨体だ、常に栄養を取り続けていないと餓死してしまう。この拡張空間はそんな巨体を支えるべく進化の過程で習得したスキルなのだろう。こんな広い空間があるんだ、そりゃ何でも丸のみにするわけだ。
僕の考察を裏付けるように、肉壁の空間の中には様々な物が落ちている。動物の死骸から大木、馬車の残骸から岩の様な栄養にならなさそうなものまで、本当に色々だ。あまり味に拘りは無さそう。
「いくら何でも食べられるって言っても、これじゃ栄養不足になるだろうに・・・ん? あれなんだ?」
隅の方にある残骸が固まっている場所、そこで何かキラリと光るものが見えた。
煉瓦で組まれた床に乗っていた為消化が遅れているらしい、というか部屋丸ごと飲み込んだのか? 馬鹿みたいな悪食具合に感心しつつ、被っている襤褸を捲る。するとそこにあったのは──。
金 銀 財 宝 ☆
「うひょぉぉぉぉぉっ⁉⁉⁉⁉」
「がうぅぅぅぅぅぅぅっっっ!!!!!!」
『きれー・・・』
目の前に現れたのは、溢れんばかりの金貨金塊の山!
それだけに限らず、見事な装飾の剣、何かの家紋が施された盾、豪華絢爛な調度品。日本の一般家庭出身の僕には非現実的な空間過ぎて最早おもちゃにしか見えないが、その唯一無二の輝きが確かに本物であることを示していた。
というか、一般ピーポーが受け止めるには中々にハードルの高い光景である。
「ゴー〇ド・ロジャーの財宝はここにあったっ!!」
「がうっ?」
「いや、独り言。気にしないで!」
素晴らしいお宝の山だが、しかし全てが無事というわけでは無かった。
絵画などの芸術品、衣類関係は腐食しており見るも無残な事になっている。やはり貴金属類、それも金の様な腐食に強いものだけが残っているらしい、元々はどれほどの量だったのだろう?
「よし、ミミちゃん。誰かに知られる前に全部貰っちゃおうっ! あっ、この辺の魔道具とかミミちゃん使えるんじゃない?」
「がうっ、がうっ♪」
見掛けたものを片っ端からミミちゃんに飲み込んで貰う、金貨一枚すら残すつもりはない。
僕達がそんなインディーなジョーンズをしていると、プリティーな声が耳に届く。
《──ちゃん!! おね──ゃんっ、聞こえ──のっ⁉ 聞こ──たら返事す──のっ!》
「おっ、ピアちゃんの可愛い声が聞こえるっ! は~~い、貴女の大好きなお姉ちゃんは元気ですよ!」
《良──ったのっ! 念話が繋──りにくいの、心配し──の!》
どうやら念話のミサンガが届きにくいらしい。
拡張空間は空間魔法と同じようなものだから、それが阻害しているのだろう。
「僕もミミちゃんもセレナも、怪我してないから心配しないでね~~。それよりもピアちゃん、ここですっごいもの発見したよっ!! 後で見せてあげるから期待しててねぇ、ぐへへへ」
《おねーちゃん・・・・何で楽──そうなの? はぁ・・・遊──でないで、早く出てき──欲しいの。出──こないと、ピア怒──の!》
「イエス・マム! すぐに出ますっ! えへへへ、ピアちゃんに怒られちゃった♪」
「がふぅ・・・」
早く出ないとウチのお姫様がヘソを曲げてしまうので、急ぎ出るとしよう!
さてどうしようかと再度周囲を確認した時、肩にセレナが居ない事に気が付いた。
「あれ? セレナ~~、セ~レ~ナ~?」
『マーマ、こっち。ひと、ねてる』
「寝てる?」
セレナが僕を呼ぶのは先程お宝が置いてあった場所のすぐ近く、岩陰で見辛くなっている場所だ。
第一村人発見!
彼女はその陰で倒れている人の上に乗り、頭を嘴で突いていた。
『おきるっ、おきるっ』
ビシッ! ビシッ!
「ホントに人が居たっ⁉ って、セレナ止めてあげなさい。突いても痛いだけで起きないから」
まぁ編みぐるみなので全く痛くはないだろうけど、娘が変なクセを付けないようにしないと。
倒れていたのは30~40歳くらいの男性。恰好は普通の人っぽくて、首に商業ギルドのチャームが付いた革紐のネックレスを着けていた。
「この人、商人さんだね・・・良かった、生きてる。おーい、おきてー」
『おきるっ、おきるっ』
ペシンッ! ペシンッ!
「羽で叩くの止めてあげてっ⁉」
アニマル’sもそうだけど、何でウチの子達は若干乱暴なのっ⁉
セレナのビンタが効いたのか、商人さんはすぐに目を覚ました。
痛がっている様子もないので、特に怪我も無いようだ。
「ぅう・・・。あれ、女神様? という事は、俺は死んだのですね・・・」
「死んでないよー。体は大丈夫? 痛い所とかない?」
「・・・生きてる? 俺生きてるっ、良かった・・・って、女神様っ⁉」
まだ目が覚めて無いのかな? だがその割には『女神様』の言い方に実感が籠っていた。
「貴女様がどうしてこちらにっ、もしかして女神様も食べられてしまったのですかっ⁉」
「あ~~うん、どうやらそうみたい。ところで貴方は? 僕の事知ってるの?」
「はい、俺はシルクマリアを拠点に動いている行商人なんです! ほらっ、女神様のお店で買ったお守りです・・・あぁ、こんなにボロボロに・・・」
話を聞いてみると、彼はシルクマリアと王都を行き来する行商人らしい。
今回も王都からの帰りで、いくつか周辺の村を巡ってから帰る予定だったらしいのだが、その途中で沼竜に襲われたとのこと。
そう言って彼が掲げた手首には、僕の作った幸運のミサンガが結ばれていた・・・のだが、ボロボロになって紐が切れかかっていた。
ミサンガがボロボロになっているのは決して消化液やらにやられたせいではない、切れそうなのは役目を果たし終わったからだ。
「もしかしてこのミサンガ、誰かからのプレゼント?」
「は、はい。娘が私の無事を願って、頑張ってお小遣いを貯めてプレゼントしてくれたんです!」
「なるほど。貴方、娘さんに助けてもらったね、そのミサンガは仕事を果たしたんだよ」
「そうだったのですか・・・あぁリサ、ありがとう・・・・」
彼は千切れそうなミサンガを胸にギュッと抱き締めた。
恐らくこのミサンガが無ければ彼は死んでいただろう、ミサンガに込められた力を使い切るほどの幸運に恵まれ、彼は今ここに居る。本当、娘さんに感謝だね!
「さて、話はこの辺りまでにして一緒にここを出るよ! 僕もピアちゃんに怒られたくないし!」
「そ、そうだ、女神様っ。気をつけて下さい、油断しているとあいつ等に襲われますっ!!」
「あいつ等?」
彼は焦った様子で近くの肉壁に目を向けていた。
「僕の耳には何も聞こえないけどなぁ・・・というか体内だからか、心音が五月蝿過ぎる」
心臓が近いのかドクンドクンなんて可愛らしいものではなく、大音量でバッコンバッコン言っている。
彼の言葉に僕も肉壁を見たが、血管が脈打っている以外特に変な所はない。まぁ肉壁という時点で、十分おかしいのだが。
「ここには沼竜が食べたものを掃除する魔獣が住んでいるんですっ、油断していると噛みつかれますっ!」
「掃除? ドクターフィッシュみたいなのかな?」
今一つ要領を得ない彼の説明に、僕は疑問符を浮かべながら肉壁をペチペチ叩く。
すると不意に──肉壁に20センチほどの穴がぽっかりと空いた。
「ほへっ?」
「それですっ、急いで離れて下さいっ!!」
肉壁に空いた穴。そこから矢のような速さで姿を現したのは、龍の様な歯を持った──『寄生虫』だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
最後まで読んで下さり、ありがとう御座いました!
また次の更新も宜しくお願い致しますm(_ _)m




