5-㉓ 兎は龍と相対せなかった
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ドラゴン──それはファンタジーにおける生物の頂点であり最強の存在。
リアムテラにおいてもそれは同じで、牙は万物を穿ち、眼は神羅万象を見通し、翼は千里を飛び、鱗は天災をも跳ね返すと言われている。
勿論多少の誇張はあると思うが、それ程までに人間とは一線を画す存在なのだろう。
ただドラゴンにも格というものが存在し、大きく分けて二種類。竜種と龍種だ。
一般的に総称として『ドラゴン』と呼ばれているが、竜と龍は明確に生物としての種類が違う。
龍は数百年の時を生き、人語を解し、叡智を溜め込み、龍魔法という独特の魔法形体を持つ1つの種族だ。
対して竜とは魔獣の一種であり、言ってしまえばデカい爬虫類だ。
魔獣は魔物と違い魔法をほぼ使わない、だが代わりにスキルを持っている。
そう聞くと竜種は強くない様に聞こえるが、そんなことはない。竜種も人間からすれば充分化け物の類いであり、一個中隊をもって挑む対象なのだ。
さて、では今回出たのはどちらなのかという話であるが、答えは『竜種』。
今朝方話題にも上がった『沼竜』であるらしかった。
「嬢ちゃん、沼竜は羽の無ぇ四つ脚のドラゴンだ。とにかく口がデカくて、何でも噛み付いて丸呑みにする。なのに馬車に噛み跡が無かった、何もせずに移動するなんて有り得ねぇ。絶対近くに居るぞ、音を気にしといてくれ」
「分かった! アルバートさんは馬車に行って、みんなと一緒に森に避難をっ!」
魔物との遭遇に慣れている僕とガルドさんは、素早く情報交換と役割を分ける。
ドラゴン討伐に騎士さん達の力も借りたいが、森の中は他の魔物が出る為、彼等には馬車の護衛をして貰わなければならない。何より大型獣が相手では荷が重過ぎる。
それが分かっているのだろう、アルバートさんは僕の指示に素直に頷いた。
「馬車を移動させたら俺も戻って来る、お願いだから危ない事はするなよ」
「いや、戻ってきたらダメじゃんっ!」
何で戻ってくんのっ!? アンタ護衛対象だからっ!
足早に馬車へ移動するアルバートさん。
もし本当に戻ってきたら蹴り返そう。そう決めて、僕は周囲の音に気を配った。
両手をウサ耳に沿わせて耳を澄ます、横を見ればピアちゃんも同じポーズで周囲の様子を伺っていた。
「あぁピアちゃんが可愛い、キュンとする!」
「おねーちゃん・・・」
「がふぅ・・・」
愛する妹達から呆れた様な声が溢れる、自重しなければっ。
僕は気を取り直して耳に意識を集中する、すると身体に流れる魔力か何かが耳に集まるのを感じた。
次第に音がサァーっとクリアになる、これがガルドさんの言う獣人の身体強化なのだろう。言うなれば、これは『聴覚強化』だ。
このウサ耳は伊達じゃない、例え姿を消していようと安々と近付けると思わないで欲しい。
「来るなら、どっからでも来いっ! すぐに見つけてやるからなっ!」
そう言って気合を入れた僕だが、よく考えるとそんな発見に注力する必要は無いかもしれない。
何故ならここは一本道。道幅こそ広めだが左右には森があり、後ろの道は先程僕達が通ってきた道だ。
聞いた話によると、沼竜は馬車二台程の巨体で翼の無いドラゴン。四つ脚ということは這いつくばって動くのだろう。となると空や森から来るとは考えられない。
「つまり、来るとしたら前からっ! ピアちゃん、ミミちゃん、アニマル’sが来るまで油断しちゃ駄目だよっ!」
「分かったのっ!」
「ぎゃうっ!」
──だが、僕は選択を間違えた。
僕はもっとガルドさんの言葉をよく考えるべきだったんだ。
もしくは、もっと沼竜について聞くべきだった。
ガルドさんはベテランの冒険者だ、命が掛かった状態で無駄な事を言うはずが無い。
前方から来ると分かっているなら、あんな言い方は絶対しない。
『音に気をつけろ』
そう、沼竜は前からはやって来ない。
そして僕がその事に気付く前に、沼竜は動いた。
ごぽんっ・・・ごぽぽぽ・・・・・・
「ん? 何の音だ? ・・・水の音?」
「やばいっ、来るぞっ!!」
えっ、何処から? 沼竜の姿形も見えない。
だが確かに、急速に水音が近付いていた。そして──。
「ピアちゃんっ!!」
──僕は咄嗟に横に居たピアちゃんを抱き上げ、ガルドさんに向けて放る。
「おねーちゃんっ!?」
「うぉっ!? 嬢ちゃんっ!!」
僕はそのまま何者かに丸呑みされてしまった。
その時の様子をもし僕が知り得たなら、きっとこう言っただろう。
僕を飲み込んだ沼竜の正体は──巨大な『鰐』だと。
◇
「おねーちゃんっ!?」
「うぉっ!? 嬢ちゃんっ!!」
突然、ユウがピアを俺に向かって投げた。
あれだけ普段からピアを溺愛しているユウからは想像もできない乱暴な行為に驚きつつも、俺は何とか受け止める事に成功する。
一体何があったのか。問い質そうと俺がユウに目を向けた次の瞬間、アイツは巨大な口の中にの消えていった。
まるでトラバサミの様に地面から突如現れた、凶悪な牙を携えた巨大な顎。
頭の大半が口で出来ているのではないかと思わせる程縦に長く、裂けた口を持つ頭。
まだ半身しか見えていないにも関わらず、既に見上げる程巨大で、鱗に覆われた体。
「ス、沼竜・・・」
沼竜は頭の大きさの割に目が小さく、頭の上面に付いている。
その為、今居る顎の下付近は死角になる筈なのだが・・・。
「見られてるな、かといって完全に姿を消すと馬車に向かうかも知れねぇ。どうしたもんか・・・」
沼竜はスキルを使い、濡れた地面の中をまるで水中の様に泳ぐ。先刻ユウが不意を突かれたのもそれが理由、沼竜はユウの足の下から地面ごと飲み込んだ。
そのスキルの特性上、岩や木々は透過できない。その為森の中は一応安全地帯なのだが、その程度の障害物は気休めにしかならないだろう。
それに、今それ以上に心配な事もある。
「これ、俺もしかしたら殺されるんじゃねぇか・・・?」
予想される未来。もしアニマル’sや領主一家、ウチの変態にユウが食べられたなんて知られたら・・・。
俺の背中に冷たいものが走った。
アイツ等はすぐにでもここへ来るだろう、知られるのは間違いないので諦める。
それより、丸呑みされただけならば怪我もなく腹の中にいるだろう。今は全力で、迅速に救出するしか無い。
そういえばと、先程から静かなピアに目を向ける。
てっきり大好きな姉が食われ大泣きするかと思われたが、不思議な事にピアが浮かべていた表情は『呆れ顔』だった。
「どうした、ピアの嬢ちゃん。何でそんな顔してんだ?」
俺の質問に、嬢ちゃんは『信じられない』とでも言いたげに溜め息をつきながら答えた。
「おねーちゃんは無事なの、お腹の中で元気にしてるの・・・お腹の中で凄くテンションが上がってるの」
「・・・はぁっ?」
俺はアイツがよく分からなくなった。
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最後まで読んで下さり、ありがとう御座いました!
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