5-㉒ 兎の雨宿りと泥の魔獣
作品に興味を持って下さり、ありがとう御座います!
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翌日、大雨に一行は足止めを強いられる。
それはもう『バケツをひっくり返したような雨』という言葉が馬鹿らしく聞こえるほどの大雨、打ち付ける雨音が凄すぎて馬車の中に居ても人の声が聞こえない程であった。
「もう少しで王都なのだが・・・仕方ないな、何処か雨を凌げる所でテントを張るぞ」
これだけの大雨だと騎士さん達が使っているテントでは潰れてしまうかもしれない為、アニマル’sも協力して騎士と冒険者総出で避難場所を探し回った。
その結果、少し進んだ所に洞穴を発見する。
ただそれ程大きな洞穴ではない為ヤドカリテントしか建てることが出来ず、騎士さん達含め全員ヤドカリテントに泊まる事となった。
ちなみに部屋割でまた某変態が騒いでガルドさんに回収されるのだが、それはまた別のお話。
というか、メイドさんと同じ女性部屋で寝るのに何に文句があるのだろうか。
そもそも妹二人に弟が四匹、娘が一羽一緒に寝ているので変態が寝る隙間は無いのだ。
そんなこんなで洞穴キャンプが始まり、大雨が止んだのは三日後の事であった。
◇
「ん~~っ、久々のお天道様だねっ!」
「気持ち良いの~」
「がうっ♪」
僕達家族は全員揃って朝日を浴びていた。
いつもは寝坊助なピアちゃんも洞穴ではやることが無く、いっぱいお昼寝していた為珍しくお目目パッチリである。
「ほら、みんなラジオ体操だよっ! おいっちにー、さんっしー!」
「にゃんにゃん!」
「わんっわんっ」
『ぃち・・・にー・・・』
みんなが僕の掛け声に、体を解していく。
特にアニマル’sは見た目が完全に動物なだけあり、動きがコミカルで面白かった。
「うん、うん、みんなカワイイなぁ♪ うへへ」
「おねーちゃん、どうしたの?」
「ピアちゃん、ちゅーしていい?」
「おねーちゃん、突然何言ってるの?」
おっと、欲望が顔を出してしまった。ピアちゃんが呆れたような目で見てくる。
「・・・後でなら良いの」
「やったぁ、ピアちゃん優しいっ!」
「おねーちゃんは調子が良いの、まぁピアもいやじゃないから構わないの」
ピアちゃんは「仕方ない」と言いたげな表情だ、これではどちらが姉か分からない。気を付けないと!
僕がピアちゃんを抱き締めてくるくる回っていると、アンサスが近づいてきた。
「お早う御座います、お嬢様方、師匠、先生」
「おはよう、アンサス!」
「おはようなの!」
「ぎゃう」
「おう、調子良さそうだな」
「うむ、善い事だ」
アンサスは他のメンバーが起きてきたのを教えに来てくれたようだ。
僕はみんなを連れて中に戻り、手分けして朝食の準備をしていく。
今日の朝食はクレープ、クリームに果物やチョコを使った通常のデザートタイプのものと、ツナやマヨネーズやハムを使った総菜のようなタイプのものとで二種類作った。
騎士さんの中には甘いものが苦手な人も居るので好みで食べてくれたらいいし、残ったら僕等で食べてしまおうと思った。
だが僕の心配を余所に、クレープはキレイに皆のお腹に収まったのだった。
◇
今後の進路について話し合う為、アルバートさんやガルドさん、護衛隊長さんなど主だったメンバーで出発前の話し合いを行った。
「さて、王都まで残り僅かだ。順調に行けば明日には着くぞ」
「雨さえ降らなきゃ、もう着いてたのにね」
「そりゃ仕方ねぇってもんさ。空の機嫌は神のみぞ知るってぇ言うしな!」
はて、僕は全く知らぬが?
解せぬ、と眉根に皺を寄せていたら「そういや嬢ちゃんは神様だったな」とガルドさんに言われた。忘れられていたらしい。
「何にしても慎重に進まねぇとな、馬車の車輪がぬかるみに取られたら面倒だ。それに別の心配もあるしな」
「別の?」
悪路以上に面倒な事があるらしい。
ガルドさんは手を僕に向けて、にぎにぎとさせながら嫌そうに答えてくれた。
「こう地面が無茶苦茶濡れってぇとな、偶に『沼竜』が出るんだ。彼奴等は面倒くせぇからなぁ・・・」
「ドラゴンかぁ、そういえば見たことないな」
「鋭い牙に全身を覆う硬い鱗、竜種の中でも小さいとはいえ馬車二台はある。ユウ、ふらふらと近寄るなよ?」
「嬢ちゃんは近寄ってガブッとやられそうだな」
「流石に、そこまで馬鹿じゃ無いけど?」
二人して酷くない? 僕を何だと思ってるのか。
だがもし特殊個体のドラゴンが居たら倒してみたいとは思う、きっとドラゴン変身装備が作れるからね!
「ひとまず、進行ルートに変更はなしだ。速度は落としつつ、最短距離で王都への向かうぞ」
アルバートさんの声で、各々移動の配置に着いていく。
速度を落とすのは馬車の車輪を取られないようにする他、馬の足を気遣っての事だ。馬の骨折は命に関わる、万が一足を滑らせでもしたら大変である。
バシャバシャと泥を跳ね上げながら一行は道を進む。
幸い魔物らしい影は見当たらない。
万が一出てきても泥の中で戦うのは嫌だから、暇そうにしているクレアさんに頑張ってもらおうと思う。
「平和だねー、このまま何も起きないと良いけど!」
「クレアさん、そういう事言ってると出てくるんですよ」
「フラグっていうやつなの!」
クレアさんホラー映画で最初に犠牲になる人みたいなイメージがあるから、マジで不穏な事は言わないで欲しい。
しかしそんな僕の思いを裏切るかのように、馬車に停止の声が掛かる。イレギュラー発生みたいだ。
「・・・クレアさん、ギルティー」
「ぅえっ!? お姉さん、何もしてないよぉー!」
まったく、期待を裏切らない人である。誰も喜ばないけど。
停止をかけたのは護衛隊長さん、どうも少し先で大破した荷馬車を発見したらしい。
僕が駆け寄ると、隊長さんとガルドさんがアルバートさんと一緒に馬車の検分をしていた。
(・・・何で護衛対象が一番前に居るんだよ)
「原因は車軸の破損、下から突き上げられた様な傷跡ですね。それに壊れてまだ新しい、放置されてまだ数日といったところでしょう」
「ってぇこたぁ、間違いなくアレだな。不味いぞ、襲われて数日ならまだ近くに居る」
「馬車を森に避難させねばなるまい」
アレとは何だろうか?
ガルドさん達の後ろから覗いた馬車の様子は、確かに彼の言う通り車軸を含めた馬車の底部分が煎餅のように折れていた。
馬車が下から攻撃されるだなんて想像もつかない。地球なら地雷とか色々考えられるけど、異世界にあるとは思えない。
まぁ、以前遭遇したアルミラージだって一メートルほどの大きさで樹の幹を抉るパワーを持っていた。
魔物ならさもありなんという事なのかもしれない。
「森の中を通っていくの?」
「いや、そんなことをしたら車輪が駄目になる。一時凌ぎだが森に避難させて原因を排除しなければならない」
「原因って?」
森の中は馬車が通れるような隙間が少なく、地面は根が隆起していてとても通れる状態じゃない。
幸いアルバートさん達はその原因とやらに心当たりがあるらしい、帰ってきた彼等の答えに僕は歓喜と困惑を抱いたのだった。
「これをやったのは──竜だ」
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