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美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます   作者: 網野ホウ
巨塊討伐編 第三章:セレナの役目、店主の役目

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嵐の後で 1

 朝一番、とは言い難い時間帯にやってきた『ホットライン』。

 彼らから見た店主と双子の様子が、いつもよりとげとげしく感じている。


「お前らが来るのが遅すぎてイライラしてたんだよ」


「イライラしてるの、いつものことじゃないですか。あ、昨日はミールちゃん、昨日はごめんね?」


 ついさっきまでの騒動を大っぴらにする必要を感じていない店主はその事には何も触れず、『ホットライン』全員のリクエストに応える装備品をソファの前のテーブルに出した。

 ミールを巻き込んだ昨夜のトラブルで、ブレイドはミールに再度謝罪。

 そんなことよりも、と店主は装備品の説明を進めたがった。


「……能力強化ってのが一番の理想なんだろうが」


 店主はソファに座り、テーブルを挟んで『ホットライン』全員を立たせたまま話を始めた。


「例えば速さを高めたはいいが、体がそれについて行かない、なんて話はよく聞く。野球……そもそもスポーツってのがこの世界にあるかどうかは分からんが、投げすぎて肩を壊した投手がいた、なんて話は昔はよく聞いた」


「すぽーつってのは何なのかよく分からんが、特定の能力だけ高めていったせいで能力のバランスが悪く、冒険者としての命を縮めた話はよく聞くな」


「バランスよく鍛える必要はあるのよね」


 店主はテーブルの上に並べられた防具一つ一つを手に取り、何らかの見落としの有無の確認をするようにじっくりと見つめている。


「自分の能力の耐久力を高めるのも必要なんだよな。たとえば高い所から飛び降りて着地する時、両足にダメージがかかる。そのダメージがゼロならば、その高さまで飛び跳ねる力がゼロならそこまで高めることは許される。後は魔力の外付けだな」


「外付け?」


「例えばお前らが仕事に出かける。出かける前に飯を食う。だが仕事が終わるまでの分を食いだめすることはできねぇだろ? 現地で調達するか保存食を持っていくはずだ。それが魔力における装備品ってわけだ。相性が良さそうな魔力をつけといた」


 店主は腕輪をいくつかテーブルに並べた。違う大きさの腕輪が四個づつ二種類をブレイドとリメリアの前に出す。

 大きめの腕輪を大男のエンビーに。二種類の違う大きさの腕輪を二個ずつ、ライヤーの前に置き、キューリアの前には縦長の金属の輪を二つ出す。


「大男には足につけてもらう。黒には羽根の付け根。トラ男には両腕両足につける。四本腕の二人には腕四本に」


 店主が説明を終えると、装備品を受け取った五人は何も受け取っていないヒューラーの方を見る。

 そのヒューラーは縋るように店主を見つめる。


「え? わ……私……には……?」


 ヒューラーがうろたえる。

 店主はゆっくりと立ち上がり、カウンターの席に着く。

 人数分完成したのではないのか、とみんなが店主を凝視するが、店主は椅子に座ったまま屈みこみ、カウンターの下にある何かを手繰り寄せた。


「前にも言ったと思ったが」


 そう言いながら起き上がる店主は、布のようなものを手にしている。


「自覚している力が、本当は自覚している通りではない場合がある。それを指摘すると、信じてもらえない場合があって、そのままその現実に対応した道具を使わせると、逆に非効率になる場合もある。だから俺の説明を疑われる可能性も……」


「ありません。ありませんとも!」


 店主の能力、そして洞察力は既に目の当たりにしている。

 何を言われても店主の言うことならすべて受け入れるつもりでいたヒューラーは、店主の後ろ向きな発言を慌てて否定する。

 依頼品を手にする前に機嫌を損ねられても困る。

 しかも報酬は、高額な金額などではなく宝石や鉱物。ひょっとしたらそこら辺に転がってる石でも問題ないかもしれない。

 店主からすれば、作った物と報酬は同価値ならば何でもいい。

 しかし双方ともものを互いの目の前に出すまでに労苦をどれだけ重ねたかと考えれば断然『ホットライン』の方が分が悪い。

 しかしヒューラーは店主からの指摘で、やはり驚きを隠せなかった。


「……背中の羽、お前自分でモドキって思ってるだろ」


「モドキ……。えーっと……飾り……ファッション? 何世代も前の種族は普通の羽だったって話は聞いたことあるけど……。その名残りみたいには感じてる。飛行能力はこの両腕から生えてる翼だしね」


 ヒューラーの話を途中から聞く気をなくしたのか、店主はため息をついてうなだれる。

 頭を掻きながら困った表情。


「どうしたの、テンシュさん。何か問題でもあったの?」


 ミールが心配そうに尋ねた。

 この世界で店主に関わった者には、彼のそんな表情は珍しい。

 いつもなら不機嫌な顔を見せているはずだ。

 しかし店主はミールの声も、その後に続いたウィーナからの心配の声も聞こえていなかった。


「俺の話を信じなきゃ、その道具は没収、そして処分。信じるならお前らのもんだが……。白、お前の飛行能力の主力はその背中の名残の羽だぞ? 今までは腕の羽で飛んでたと思ってただろ。無意識で魔力消費して飛んでたんじゃなかったか?」


 確かにヒューラーの全身は、キューリアと対照的に白い羽毛で包まれている。

 白と呼ばれたのは初めてだが、今はそれどころではない。

 全員も目を丸くしている。


「う……嘘……じゃないわよね……。じゃあ今まで私、背中の羽は……」


「宝の持ち腐れってやつか? 今まで無駄に魔力を消費してたってこと。ま、信じなくても俺は別に痛い思いをするわけじゃねぇ。これからもそのつもりで飛行を続けるならこのジャケット……シャツ? は着なくても同じってこと。だから……」


「し、信じます! 信じますけど……」


「その飾りっぽい羽……使えるのか」


「で、でも即戦力になれるのか?」


 戸惑う彼らにブレイドがリーダーらしく指揮を執る。


「よし、実戦に備えて俺らで模擬戦するぞ! せっかく作ってもらった道具をすぐに活かせられなきゃ意味がない!」


 全員が店主に頭を下げながら礼を言い、すぐさま店を飛び出していった。


「は、早い……」

「よっぽどうれしかったんだねぇ……」


 彼らが立ち去ってしまった扉を見ながら、双子はしみじみと彼らの心境をくみ取った。

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いつも見て頂きましてありがとうございます。
新作小説始めました。


勇者じゃないと言われて追放されたので、帰り方が見つかるまで異世界でスローライフすることにした
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