嵐の後で 2
店主が受けていた依頼の一件がようやく終了。
しかしもう一つ依頼を受けている。
店主は名前を覚える気はないが、『クロムハード』のリーダー以外の全員から装備品作製。
「作ってほしいとは言われた。報酬の話もした。けど体の寸法測ってないよな。呼んできてもらおうか」
「え? 今から? 拠点にいるのかな。買い物とか斡旋所にいるかもしれないし」
「あの人達も待ち遠しがってたから仕事してなきゃ飛んでくると思うけど」
急なお使いに戸惑う双子。
どの店も開店する時間なら、仕事がなくても行き先は増える。
しかし店主はそれも構わず。
「子供のお使いじゃねぇんだ。俺は『連れて来い』って言ってんだ。『拠点に行って呼んで来い』とは言ってねぇ。で、昨日帰りが遅くなって今回もそうなったらこっちが退屈だから、今度はそっち行け。そっちってどっちだか分かんねぇけど」
「てことは」
「お姉ちゃんのこと、だよね……。なんか、ごめんね、お姉ちゃん」
昨夜、バイト先から拠点に帰る時間が遅くなった理由は、ミールが手間取ったからというのが誤解と分かってからはウィーナは気にしてはいなかったが、それでもミールは心苦しそうな声を出す。
平気平気、と言いながら頭を撫でて妹を慰めるウィーナ。
「でもどこにいるか分からないので遅くなっても……」
ウィーナの話の途中でチリンチリンと入り口のベルが鳴った。
「テンシュさんいるかい?」
そう言いながら入って来た人物は、双子と同じ爬虫類を思わせる顔と緑色の皮膚が目立つ冒険者。
同じ爬虫類の亜人でも、この双子の体格より三倍くらい大きい。
そしてその後ろには同じくらいの大きさの二人の冒険者が続いて入って来た。
普通の客なら何も言わずに入店するものだが、店主の在不在を確認しながら入ってくる者はそうはいない。
店主の世話になったことがある者くらいだ。
「お、いたじゃないか。って、可愛いお嬢さん、初めまして、だな」
「は、はい、初めまして。えっと……」
「いらっしゃいませ。ご用件なら承ります」
「ご用件? ここの店員さんかい? セレナ……さんは? まさか辞めたんじゃないだろうね? テンシュさん」
双子に挨拶をした来客は再び店主に声をかけた。
「……どちら様?」
こっちの世界では、礼儀を弁えた客には丁寧に応対する店主。
しかし名前も顔も覚えていなかった。
「俺だよ。リバーバだよ。あれ以来全くここに来てなかったから忘れられたかもしれんな。ほれ、こいつだよ」
腰の左右に挿げた双剣に指を差す。
客の顔は忘れても、たとえ他人が作った道具でも自分の手で修理修繕した物は覚えていた。
『風刃隊』よりも先にここで店主の世話になった冒険者チーム『スケイル』でリーダーである。
「あぁ。思い出した。あいつの作った双剣を改良して試用してもらった客だな。ワニっぽい奴ってのは覚えちゃいるが」
「わはは。特徴だけでも覚えてもらえて有り難い。いや、実は新しい防具を誂えてもらいたいと思ってな。それと武器を作ってもらったのは俺だけだったからこの二人にも武器を新調したいと思って来てみたんだが……」
店主も意外と失礼なことを言うが、そんなことは些細な事とばかりに笑い飛ばすリバーバ。
「済まない。先約があるんだ。これからそいつらんとこにこいつらを使いを行かせるところだった。その後……急用でごたごたがあったりしてさらに先延ばしにするかもしれん。あいつもしばらくは朝から出払う毎日でな。こいつらが代わりのバイト」
ウィーナとミールは店主を不思議そうな顔で見ている。
「テンシュさん……」
「普通に会話してる……」
「やかましいっ! 普通じゃねぇのは大概の客だろうが! つーかとっとと呼びに行け! って、あいつらも名前覚えてねぇや」
「まったくもう、テンシュさんってば……。『クロムハード』さんですよね。拠点は知ってますから」
「何? あいつらもここ……テンシュさんの世話になってるのか?」
思わず驚きの声をあげたのは、リバーバの後ろにいる、背中が亀の甲羅のような形になっている、カメの亜人。
頑強なのか、背中がむき出しの胴の防具を身につけている。
「ご存じなんですか?」
「あぁ。『クロムハード』の一人に俺と似た奴がいなかったか? 親類じゃないが俺と同じ種族だから、顔合わせりゃ親しく挨拶するくらいにはさせてもらってるよ。チームとしては向こうが上だからな。あ、俺はランディってんだ。こっちはディーム。よろしくな、お嬢ちゃん」
自己紹介ついでに魚の亜人の紹介もするランディ。ディームも軽く頭を下げた。
ミールが軽くウィーナの腕を突く。
振り向くとミールが目配せをしてくる。それを見たウィーナはそれを察して。
「そうだ。じゃあ今その『クロムハード』さん達どこにいるか分かります? 今テンシュさんが言われた通り、お使いに行くんですがどこにいるか分からないと時間を無駄にしちゃうので……」
『スケイル』も全員揃って外出している。
『クロムハード』も同じように全員拠点から離れていれば、所在の手掛かりは全く掴めなくなる。
その賢しい知恵は功を奏した。
「あぁ、何人かは拠点にいるよ。しばらくのんびりしてるって言ってたし。全員いるとは限らないが誰かは拠点にいると思う」
ランディの言葉を聞いてウィーナは明るい顔で店を飛び出した。
「何なんだ、あの子」
「いろいろ事情がありまして……」
苦笑いをするミール。やれやれといった顔の店主。
「ま、若いもんならあれくらい元気がないと、世の中明るくならんわな」
顔を再び店主に向けたリバーバは、仕事の話を交えながら雑談を続けた。




