休店開業 7
冒険者チームの『ホットライン』と『クロムハード』がそれぞれの拠点に帰っていった。
夕刻。
『法具店アマミ』にはセレナと店主の二人だけ。
夕日が照らす外の通りにはそれなりに往来する人の影の数。
しかし休店の札とカーテンを閉めている『法具店アマミ』に入ってくる客はいない。
カーテンや窓のブラインドから差し込む夕日のおかげで、暗くなりつつある店内にわずかばかりの明るさが残る。
照明をつけるのが自然な時間帯。
しかしセレナはつけようともせず、店主は照明を求めるどころか、冒険者達が店を出てからは瞼を静かに閉じて腕組みをしたまま微動だにしない。まるで眠っているかのようだ。
セレナは店主の座っているソファの反対側に腰掛けた。
そのまま二人は何も言葉を交わさず、十分、二十分と時間を経過させていった。
「……テンシュ。ご飯……まだでしょ。つくろっか?」
店主は何も言わない。
眠っているのかと店主の顔を見ると、瞼が微妙に動いている。
ただ目を閉じているだけなのは分かった。
静かに時間を過ごしたいのか、眠りに就くまでに時間がかかっているのか。
しかし店主はそのままゆっくりと口を開く。
「……慰めてもらいたいとか寄り添ってほしいとか思ってんのか?」
セレナは言葉に詰まった。
今まではバイトの双子と警備の二人、そして店主の五人分の食事を用意していた。
彼女達が来る前は、自分の食事のついでに店主の分も用意していた。
それと同じつもりで用意しようと思っていた。
「え? そんなこと……」
考えてもみなかったことを言われると、何の意図があってそんな発言をしたのか理解が追いつかない時もある。
しかし恐らく無意識のうちにそんなことを思っていたのだろうか。
セレナの目から一筋の涙が流れる。
「俺はここに、お前の店を手伝いに来てるだけだ。お前のカウンセラーで来てるわけじゃねぇし、ましてやあの男の身代わりにもなるつもりもねぇ。前にも言ったはずだが、ここで飯を食わなきゃならない理由はどこにもねぇんだよ。この世界にはなさそうだったから、でけぇぬいぐるみは買ってやったのは、お前に縋りつかれたくなかったからな。俺から逸れた矛先の標的だよ」
「ほ、矛先ってそんな……」
店主自身は、例えセレナから都合のいい使用人と思われても気にしない節がある。
人というものは、自分が誰かから不快な感情を持たれても構わない覚悟を持った時から、その相手へ無意識のうちにその感情を向ける場合がある。
もちろんその相手にそんな感情があるかどうかは不明のままで。
だからセレナは、店主の言葉に棘を感じた。
逆にセレナは、店主からそんな風に思われる理由が思いつかない。
「お前への貢献度や実績で言えば俺よりあの男の方が遥かに上だ。あの男を助けることが出来なかったからという理由で切り捨てられても文句は言わねぇし言うつもりもねぇよ。その後も得られるかもしれない宝石を手放す意味では惜しいが、お前から見捨てられても別に痛くも何ともない。そのつもりで店を手伝ってるつもりはなかったし」
「そんなこと思ってないってば!」
伝わらない自分の思い。
店主に伝えたいがその手段が見つからない。
店主に、そしてそんな自分にセレナは苛立ちを感じ、声がやや荒くなる。
「この世界の美徳とか美学とかは知らん。だからあの男の敵討ちへの思いに同意や反対するつもりもない。この先のことはお前自身で決めろ。だがこの後の俺の身の振り方はそれに左右される。店の手伝いを続けるか、あの黒い女の世話になるか」
セレナとキューリアが言い争いをしていたときのことを店主は蒸し返す。
「どうして……どうしてそんなこと……」
「どうしても何も、俺をこの世界に引き留めたお前側の理由を考えろよ。あの男を失った。そして巨塊とやらの因縁もある。俺にはあの男には特別な思いはないとは言ったが、助かってほしいとは思ってた。だが一つの結末を迎えて、お前の前にはいくつか進む道が現れた。俺のこの世界での方向性もその選択に振り回されるってこと。昨日と今日のことよーく考えてみな? お前はただ、荒れていたか落ち着いているかの変化を見せただけ。いろいろと考えられるようになっただけなんだぜ? 仇を討ちに行くかどうかは、まだお前は決断を下してない」
「……テンシュは、どうしてほし……」
「俺を決断の理由に使ってんじゃねーよ。甘ったれんな。俺よりもよく知ってるんだろ? この世界のことは。右も左も分からねぇやつを頼ってどうすんだ」
反論を許さないような容赦ない論法で店主はセレナを責め立てる。
再び涙目になるセレナを見て、店主は改めて実感する。
他人から尊敬されるほどの強さと性根の強さは別物であることを。




