休店開業 6
五大元素などで同じ種類の魔法でも、範囲や強弱の段階が違えば別の魔法になる。
そしてそれは、冒険者の修練所、教習所で誰もが魔術の授業で習い、一般常識扱いされている事項。
その一般常識を覆す店主の理論と技術。驚きの声が上がらないはずはない。
「信じられない……と言ったところで、否定する根拠がないどころか、実際その通りだった。テンシュさんの話は普通に信じるよ。って言うか……」
「うん……。テンシュさんって、この世界に必要な人なんじゃないの?」
「少しでも疑ったらこの話は止めるとは言ったが、おだてたからってお前らに特別なことをしてやるとは言ってねぇからな?」
もしこの理論を実践できる者が大勢いたならば、これまでの魔術の理論を覆しかねないほど画期的な店主の話である。
店主は冗談として受け止めたが、彼らの目には本気の気持ちが込められていた。
もちろん彼らとて、店主が即オーケーの返事をくれるとは思ってはいなかったが、この世界にとどまってほしいと強く願う気持ちは共有していた。
一方の店主は、軽口を叩いたが店主にしてみればそんな声が上がるのが不思議でならない。
こっちの世界でのいろんな器具には、出力機能がある機械はすべてその調節機能も一緒についている。
似たような物ではないか、と普通に思っていたが、逆にそうではなかったことに驚く。
もっとも、子供の頃に遊んだテレビゲームのロールプレイングゲームでは、同種の魔法で段階ごとに違う物という設定はあった。だがゲームと現実を一緒に考える程妄想家でもなかった。
しかしセレナはぼんやりと別のことを考えていた。
初級冒険者でも、少ない魔力でも、使用する術式によっては本人の持つ魔力を上回る効果のある術を発動することもある。
どちらの方法も一長一短。
しかし店主が作る道具を使う方が、魔術の攻撃力や防御力により高いレベルでの安定性を維持できる。
レベルが低い冒険者程人数も多い。そんな彼らが、もしも店主の作った装備品を身につけたなら、より高い次元での彼らの活躍が期待できる。
冒険者全体の視野で、そしてこの国全体を見渡す視野で考えると、国の安全がより強固なものになるはずである。
もしも、もっと早く店主に出会い、彼に数多くの武器や防具を作ってもらえたなら。
セレナはそんな妄想が頭と心の中で渦を巻く。
しかし店主に出会えたきっかけは、巨塊討伐の失敗だった。
失敗がなければ、こんな店主と会えることはなく、出会って依頼して装備品を作ってもらえてたら巨塊討伐は成功していたかもしれない。
そんなというパラドックスの発想に浸り自ら深くその妄想に突き進んでいった。
「……ナ。セレナってばっ!」
キューリアの声で現実に戻るセレナ。
その時間はわずかだったらしく、店主も特に気にする様子もなく話を続けている。
「え、えぇ……大丈夫……うん……」
「無理しないで休んだら? ねぇテンシュさん、セレナ休ませていい?」
「ん? つか、大体要点の話は終わったからな。この辺でお開きだ」
「テンシュさん……。私達もテンシュさんに装備品の依頼していい?」
自分達の要望を口に出来そうなくらい空気がやわらいだのを感じ取り、アローがおずおずと店主に願い出た。
しかし店主は言うべきことを忘れない。
「そいつの依頼だけは禁止な」
その言葉と、それに反応したアローに小突かれたスウォードは凹む。
「いずれ依頼はすぐには受けられねぇな。流石にしんどい」
「じゃあリーダーを除いた五人の依頼を予約ということにして、さ、みんな、そろそろ帰ろっか」
仕事を断る時はいつも、面倒くさい、どうでもいいと憎まれ口を叩いていた店主が珍しく真っ当に体調を口にしている。
普段の店主ではないことは、『ホットライン』全員は分かった。
ヒューラーの呼びかけで、素直に全員がテンシュへの労いと感謝の言葉を口にしながら店を出て、久しぶりの静かな時間が店内に訪れた。




