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隠し事はバレない様に


「クリス。帰る前に食事に行きましょう」

「わかりました。しかし、予約していませんよね? それに、馬車はどうします?」

「大丈夫よ。どうとでもなるわ」


 お祖母様の提案で、邸宅に戻る前に外食をする事になった。

 正直、お腹ペコペコだから助かる。


 でも、本当に馬車はどうするんだろ?



「ちょっと、そこの貴方」

「これは奥様。私共に声をかけるとは珍しい。本日はいかがなされましたか?」


 繁華街に到着すると、お祖母様は明らかにガラの悪い男に声をかけた。

 知り合いでもなさそうなのに、何を……。


「孫と食事に来たのだけれど、御者がいないのよ」

「あぁ、かしこまりました。ではポーターを呼びますので少しお待ちを」


 そう言って、ガラの悪い男はどこかへ行った。お祖母様に待っている様に指示されその場で停車。

 ポーターってなんだろう?

『さっきの男は地回りだろうな。ポーターというのは、臨時の御者の事だと思う』

 へー、そんな人がいるのか。やっぱり都会は違うね。


 しばらくすると、ポーターさんが来たので馬車を預けてレストランへ向かう。

 どうやら贔屓にしているお店らしく、突発的な来店にも関わらず、個室を用意してくれる。

 普段食べない高級料理の魅力に、会話も忘れてがっつり食べてしまった。



「はぁ食べた、食べた」

「すみません。私までご馳走になってしまいまして」

「良いのよ。そんな事、気にしないでも」

「じゃあボクが外で待ってますので、二人は中で待ってて下さい」

「ごめんね。よろしく」


 あーしかし美味しかった。

 これで宿に帰れたら最高なんだけどね。

 馬車が戻ってくるのをしばし待つ。


 ……何もしない待ち時間は、色々と考えてしまう。

 この後の事を考えると、段々と憂鬱な気分になってくるなぁ。


『さっきからどうしたんだ? ウジウジとお前らしくないぜ? 爺様絡みなのは何となくわかるが……』


 正解だよ。

 これから会うお祖父様が苦手ってだけ。


『クリスが苦手とまで表現する家族は珍しい。いったいどうした?』


 ……悪い人じゃないと思うけれど、頑固な昔の人って奴でさ、前に――と言っても5年も前だけれど、ここに遊びに来ていた時『女の子らしくしろー』って、何度も怒られたんだよね。


『それは……当時のお前にとっては、たまらなく嫌だったろうなぁ。トラウマにもなる。……軽々しく『らしくない』とか言って悪かった、謝るよ』


 別にいいさ。ボクもウジウジと男らしくなかったよ。認める。

 でも、ボクらの事を理解しては貰うのは、やっぱり難しい人かもしれない。


『ちゃんと話してみないとそいつはわからんが……。例え難しかったとしても、そういう人もいるのは、わかってた事だろ?』


 そうだけどね。その場合、お祖父様は叱責が長いんだよ。

『そいつは参ったな』

 なるべくなら、理解して貰うつもりだけれど……無理そうなら、いつも通りにやり過ごすよ。

『最初から諦めるなと言いたいところだが、この事ばかりは仕方がないか』



 ティーナと相談しているうちに戻ってきた馬車を受け取る。

 二人を読んでもらい、今度こそ邸宅に向かう。


「どう二人とも? 満足できた?」

「大満足ですよ。ありがとうございますお祖母様。……しかし、なぜ外で食事を?」

「帰ったら食べる暇も無いかもしれませんからねぇ」


 やっぱりそうですか。


「どういう事ですか?」


 恐らく、お祖父様の叱責が長引く可能性を指し示しているのだろうが、事情を知らないフィオからすれば、当然の問いだ。


「そうねぇ。ある日、突然駐屯地から兵士がやって来て、『孫とその友人が盗賊に襲われた』と聞けば、祖父母はどう思うかしら?」

「――すみません。心配をしますよね」

「申し訳ありません」


 お祖母様の言葉が突き刺さる。

 言われてみれば当たり前だ。


 せめて公都へ行くとだけでも、手紙を送っておけば良かったよな。

 自分の事情、自分の気持ちばかりを優先していた。ごめんなさい。


「私はアンジーから手紙を貰っていたから、今回公都に来ることは知っていたの。クリス、もちろん貴女の心の事も知っているわ。でもね、旦那様は貴女が冒険者をしている事や、心の事は知っていても、今回来ることは知らなかったのよ」

「……そうでしたか」

「貴女の行動は少し浅はかとも思いましたが、あの人の性格と貴女の『心』を考えれば、伝えづらかった気持ちも理解はできます。だからこそ、公都に来る事は私も旦那様に伝えてなかった訳ですしね。……それが唐突に駐屯地からの知らせでしょ」

「お祖母様。……ごめんなさい」

「わかればよろしい」

「はい」

「もっとも、隠し事の一つや二つ誰にでもあります。ですが、隠している相手に露見してしまうのは子供のやる事と言われても仕方ないですよ」

 

 悔しいけれど、その通りです。

 危機管理が甘かった。


「そんな訳だから帰ったら絞られると思うわよ? それは受け入れてあげて欲しいわ。……ただ、禄に食事もしてなかっただろうから、先に食事を、と思ってね」


 小言を言いながらも、ボクを甘やかしてくれるお祖母様は、やっぱりお母様のお母様だなと思う。

 

 心配をかけた罪滅ぼしにも、お祖父様との話し合いは苦手だけれど、頑張ってみよう。



 公都における、高級住宅街に入る。

 高級住宅街自体が柵で囲われているのがこの街の特徴で、出入り口には衛兵さんもいる。

 懐かしい街並みを思い出していると、すぐに到着した。


「わが家へようこそ」

「お世話になります」


 レベッカさんを送った馬車は、既に帰宅していたようだ。

 御者さんにアランを預けて、屋敷に入った。


「疲れているとは思うけど、まずは旦那様のところに行きましょうか」


 そう言われて、お祖母様の後へ続く。


「ねえ、私も行っても良いの?」

「こないとダメでしょ?」

「本当かなぁ?」


 そりゃあ、挨拶はしといたほうがね。


 廊下を歩きながら緊張が高まっていく

 お祖父様が待つ、書斎のドアをノックすると、許可はすぐに出た。


「失礼します」


 部屋ではお祖父様が一人で待っていた。


「お待たせしました。旦那様」

「お久しぶりです。お祖父様。彼女は友人のフィオです」

「はじめまして。フィオナ・アップルです。よろしくお願いします」

「ようこそ。コンラッド・サザーランドだ。立ち話もなんだから、取り敢えずかけなさい」


 一言断りをいれて、勧められたソファーにフィオと並んで腰掛ける。

 反対側にはお祖父様とお祖母様が座った。



 さて、どんな話になるのやら。




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