フィオの実力
翌日正午。
依頼を受けた冒険者パーティーが予定通りに到着した。
すぐにそれぞれの代表者がブリーフィングの為、指揮所に集められた。
何のブリーフィングか?
確かに、依頼の時点で、警備と調査の役割分担は決まっていた。
けれども、警備組はどのパーティーが、どこを警備するか?
調査組はそれぞれのパーティーが、どのルートで、どこを調査するか?
そういった、細かい内容を決めるためだ。
前提として、オークは川の近くに集落を作る事が多い。
少し街の方向へ、街道を戻った場所に、川を渡る橋がある。そこから川沿いを上流方向へ探索をしていく班が一つ。
逆に、ある程度草原を奥に進み、そこから左手の森に入り、川まで進んでから川沿いを下流へ探索する班がもう一つ。
この二つがベテランパーティーに割り当てられた。
中堅パーティー二つはこの拠点周辺から徐々に、森の奥へ向かって探索するらしい。
ボクらマジェスタは、ベテランパーティーと共に草原を進んで、森の手前の草原で彼らの帰還を待つ役割を与えられた。
でも、これって街道警備なのかな?
戻ってフィオにその疑問を話すと、答えが返ってきた。
「その為のBランク希望だった訳ね」
そういえば、そんな話があったな。
「そうだったね。でも、普通の後方業務よりはお金になるし、拠点警備の方が体力的につらそうだから却ってありがたいのかな?」
「なんでお金になるの? 依頼金の上乗せでもあるの?」
「それは無いけど、場所柄ゴブリンと何度か遭遇戦があるだろう?」
「つまり?」
「その魔石はボクらに所有権があるって訳」
「確かに。そうか、そういう上乗せがあるのか……」
討伐対象であるオークの魔石は軍か騎士団の物だけどね。
「ちょっとテンション上がるわね。あっ、そうだクリス。もしゴブリンとの遭遇戦があったら一度、私一人で戦ってみても良い?」
「それは良いけど……。あの、一応言っておくけど、上級魔法はやめてね?」
「わかっているわよ! ただ、私がどれぐらい戦えるか見てないでしょ?」
それを言ったら、ボクがどれぐらい戦えるか知らないのじゃ?
「副騎士団長と勝負して勝てる。そんな人の強さなんて私に判断出来ないわよ」
どうやら、ボクの疑問は顔に出ていたらしい。
聞いてもいないのに、答えが返ってきたよ。
「とにかくお互いの強さをちゃんと知ってさ、適正な依頼を受けて、どんどんクリスが稼げるようにしたいの」
「そうだね。お互い稼げるように頑張ろう。でも無理は禁物だよフィオ」
「わかっているわ。任せてクリス」
さて、調査開始の時間になった。
とはいえ、すでに14時近い。
今日は余り時間が無い為、調査組は全班で周辺調査、警備組は一組残って、残りは周辺の街道を見回った。
結局、一日目の調査は特に収穫も無く終わってしまった。
しかし、調査が終わっても深夜の拠点警備という、後方業務がある。
ボクとフィオは21時―0時の当直だった。
2日に一度この時間の警備につく予定だ。
そういえば、拠点警備組を毎日0時―9時と12時―21時らしい。
4人パーティーは二人一組で交代しているのだろうからまだ良いけど、もしボクらがこの業務だったら、つらかったな。
別班のバックアップ業務という割り当てで、改めて良かったと思う。
当直中、当直外、どちらも特に問題は起きず、二日目の朝を迎えた。
本格的な調査は今日から始まるのだけれど、流石に朝早いから、戦闘装備になるとかなり寒い。
何か食べて早く温まりたい。
フィオが着替えている間に食事の準備をする。
食事の準備は大げさだな、指揮所から缶詰を持ってきて、数分も湯煎すれば完成。
「はい。熱いから気をつけて」
「ありがとう。頂きます。――何これ! 凄く美味しい」
「軍で食べている缶詰って、実は美味しいよね」
「知らなかった。非売品だから当然だけど」
食事を終えて、装備の点検。
よし、問題なし。
さてと、行きますか。
――――――――――――――――
出発して4時間ほど経過した。
そろそろベテランパーティーがボクらと別れて森へ入る頃合いだ。
別れるといっても、ボクらは50メートルほど先行して、梅雨払いの役目だから余り同道しているという実感は無いけれど。
ところで、実はまだ魔物と遭遇していない。
良くも悪くも想定外だな。
でも考えてみれば、軍の定期任務で間引かれたばかりだから、当然なのかもしれない。
ベテランパーティーと別れて1時間経過。
ようやくゴブリン3匹発見。
「エアソナー」
風魔法による索敵をするも、周辺にいるのは3匹だけみたい。
「じゃあフィオ、打ち合わせ通りお願い」
「わかった。――パワード!」
『なぁ……ゴブリンってそれなりに頭が良いはずなのに、なんで人間見ると襲い掛かってくるんだ?』
なんでだろうね?
「ファイヤーアロー」
接近される前にまずは魔法で狙撃。
うん。金属製の武器を持った1匹を狙い撃っている。
脅威度の高い敵から減らす、その判断は間違ってない。
倒れた仲間に気づかずに、そのまま突進してくる残り2匹。
棒を振りかぶりながら走ってくる。
一方、フィオの武器はメイス。
得物の長さはさほど変わらないけど、リーチでフィオが有利。
先行して間合いに入った、2匹目のゴブリンの左側面へステップ。
軽やかな着地から、攻撃に移るまでの速度はかなりの物。
腰の入った一撃を「バギャッン!!」顔面に直撃したゴブリンは……余り詳しくは述べない。
『oh…』
油断の無い、残心。
最後のゴブリンと相対。
バックステップで敵の間合いから外れ、彼女は振りかぶる。
攻撃を空振り、よろけるゴブリン。
其処へ踏み込み、頭部へメイスを振り下ろすフィオ。
「グチャッ!!」
ここまで聞こえた、低く鈍い音。
倒れた、否、地面に叩き潰されたゴブリンはピクリとも動かない。
「……」
「……」
『……』
しばし全員が沈黙。
耳に届くのは、わずかに吹いている風が草木を揺らす音のみ。
「クリス。その、倒した、わ」
あぁ、うん。
『ソウデスネ』
多分、みんな10秒ぐらい固まっていた気がする。
「ねえ、フィオ……」
「何よ?」
「いや、強化魔法必要だった?」
「――いらなかったかもね」
危うく、『なぜ農場で上級魔法を使ったのか?』改めて聞きそうになった。
きっと、彼女自身やるせない思いだろう。
「でも、凄かったよ。解体は僕に任せて、武器の手入れをしなよ」
「そうね、そうするわ」
少々びっくりしたけれども、ある程度は接近戦も出来るみたい。
連携の確認をしたら、それなりの討伐依頼を受けても構わないかな。
解体が終わっても、フィオはまだ呆然としていた。




