殲滅戦
依頼4日目に、集落が見つかった。
川沿いを遡行していた班が発見した事を、ボクらは拠点に帰還した際に、警備担当をしていた冒険者から聞いた。
ボクらのチームが、その日は帰還が一番遅かったらしい。
改めてブリーフィングが行われるという事で、その足で指揮所へ向かった。
発見次第、任務内容が殲滅戦に変わるのは、この地にいる冒険者全員が察していた事だったようで、特に反対も無く、殲滅戦は決定した。
しかし、作戦を兄様が提案した作戦はボクを少し困惑させた。
何故なら、ボクらマジェスタに、一つの要請があったからだ。
その場で結論を出せず、フィオと相談する為に一度中座させて貰った。
「フィオはどう思う?」
「それは貴方が決めるべき事だと思う。それが、私の意見」
ティーナ同様、フィオもそう来るか。
だったら、
「よし。じゃあ受けるね。返事してくるよ」
「わかったわ。お願い。……ねえ、クリス」
「何だい?」
「もし仮に、私が反対したらどうしていた?」
どうしたかね? 多分、
「理由次第、かな。受けるつもりではあったけれど、ボクが見逃している不安材料があるかもしれない。だから君の意見を聞きたかったんだよ」
「――そっか、信用してくれてありがとう。頑張るね」
「うん、頑張って。ボクも頑張るから。―—ああ、それから」
「何?」
「ボクは、フィオを信頼しているよ。それじゃあ受けてくるね」
再び指揮所に戻り、殲滅戦への参加要請を受ける事を表明した。
ボクは街道警備組が、拠点に残るものだと思っていたが、殲滅戦は騎士団からも参加しなければならないらしい。
騎士団、軍不在の際は、規則上拠点のまとめ役として中堅パーティーが一組残る必要があった。
『考えてみれば、駆け出し3組が居残りだと、物資かっぱらってトンズラされるかもしれないからな。その点、ベテランならまだ信用されるという事だろうな』
――――――――――――――――
5日目正午。
作戦開始位置で待機中。
ボク達の位置は、オークの集落からまっすぐ南へ向かった地点にある、川の対岸。
今日は曇り空だが、雪が断続的に降っているのか、前方も後方も木は雪化粧をしており、地面にも積もっている所が散見される。
マントを被っても寒さに震えてしまう。
兄様とブルックさんは金属鎧のせいで、いっそう寒そう。
作戦は単純。
ボク達以外の班が、3方向から一斉に攻撃。あえてボクらの方角へ逃がし、対岸から魔法で殲滅する予定だ。
さほど川は深くないが、この場所は丁度中洲があり、そこに兄様とブルックさんが壁として立つ予定だ。
『川中島の戦いだな』
うん。それは違うと思うよ。
「ねえ、今さらだけど大丈夫かな?」
オークに気付かれないように、皆が沈黙していると、フィオが小声でそうつぶやく。
「大丈夫。ちゃんと背中は守るから」
「つまり、前は自分でなんとかしろって事ね」
「信頼しているからね」
小声で話していると兄様に肩を叩かれる。
そちらをみると静かにしろと指でジェスチャーが。
フィオと顔を見合わせ苦笑する。
反省、反省。
――――――――――――――――
一時間経過した。
作戦開始時間まで、約3分。
すでに他の班は待機場所から、攻撃場所へ前進を始めている。
兄様達も既に中洲で待機中。
その時、3方向から同時に放たれるはずだった魔法攻撃が、突然西方向からのみ発射された。
おそらく、外縁部の若いオークに見つかったのだろう。
少し遅れて、東と北からも火球が飛んでいく。
正面の恐らくは集落のある方向から、オークの怒声に混ざって散発的に爆発音が聞こえる。
事前情報では、オークの数は40~50匹程度。
ここまで逃げてくるオークは、20~30匹はいるだろう。
気を抜かずに前を見続ける。
鼓膜を震わせ続ける戦闘音は、徐々にこちらへ近づいてきている。
……来た! 一匹目!
「ファイヤージャベリン!」
前方の森から河原へと姿を現した一匹のオークに、それぞれ魔法を放つ。
4発の魔法をまともにくらったオークはそのまま倒れた。
「エアソナー! ……来るぞ!」
兄様が周囲を魔法で探査、警戒を呼び掛けた。
直後に森から飛び出してくる多数の影。
「炎よ爆ぜろ! ファイヤーボール!」
フィオが放った、炎の玉は一番手前にいた一団をまとめて吹き飛ばした。
詠唱短縮で上級魔法が使えるとは、やはりフィオも強い。
煙の中からどんどん現れる敵を、初級、中級魔法で倒していく。
上級魔法をこれ以上使うと視界が悪くなるから、中級魔法で一体づつ減らしていく。
……戦闘開始からどれぐらいたっただろう?
2、3分程度だろうが、体感は10分以上に感じる。
河原を埋め尽くさんばかりに、向かって来ていたオーク達が逃「どんっ、どど!」?
戦闘の最中でも聞こえた、何かが落ちる大きな音に後ろに振り向く。
なっ!! さっきまでいなかったのに!?
「後方敵襲! 数1! 兄様!?」
「クリス! 頼めるか!?」
「了解!」
『パワード!』
ボクらの後方に突如現れたのは、一体のグリズリー。
正騎士並みの強さと言われる強敵。
横のフィオもつられて振り返り、その存在を確認すれば、ハッとした表情を浮かべている。
「クリス! 一人じゃ!」
「大丈夫! フィオはオーク! 背中は任せる!」
「! わかった。任せたわ!」
後ろ脚2本で立っていると、体高は4メートル近い。凄い威圧感。
前足を河原におろし、突進体勢になる。それでもボクより高い。
マズイ! フィオを向いている!
「ファイヤージャベリン!」
構築した炎の槍を即座に射出。
雪で濡れた体毛と分厚い皮の為か、体に当たるも効果が薄い。
「ガアァァー!!」
「ウオォー!」
敵の咆哮に、気勢を上げる。
勝ってしかるのちに戦う。
叫びながら、突進を始めた敵へ向かう。
『エアソナー! ……今のところ、奴だけだ』
ナイス。助かる。―—炎が効かないのなら!
「アクアキャノン!」
水の塊を奴の移動方向へと予測発射。
質量には質量で対抗!
前方のみを意識している、突進中の無防備な側面。
そこに叩き込まれた水の塊は、戦場の喧燥の中でも一際大きな音を響かせる。
音の大きさに比例しているその衝撃は、数トンはある敵をも、跳ね飛ばす。
そのまま転がって行く敵に追撃を加える為に、駆け向かう。
『アクセル!』
強化魔法の重ねがけで、更に速度を増して接近するも、すんでのところで立ち上がられた。
ちっ! 大き過ぎて首が狙えない。
一瞬の戸惑った隙に、敵はこちらへ攻撃してくる。
丸太のような太さの四肢に、鉈のような爪を備えるその前足
そこから繰り出される連撃は、一撃貰えば致命傷。
避ける、捌く、避ける、捌く……。
今!!
左前足の攻撃を潜り抜け、交差の瞬間、左後ろ足を切りつける。
硬い! 骨にも届いていない!
一瞬早くこちらが振り向けば、敵も前足を再度地におろして振り向いて来る最中。
『ファイヤーアロー!』
顔がこちらへ向く、その瞬間を狙った炎の矢。
狙い通り鼻先へと着弾。
炎に視界が遮られ、痛みに顔を背けたその隙に、右側面へと回り込む。
両手で振りかぶった剣に、ありったけの力をこめて、いまだ隙を見せるその首に叩き込む。
硬い骨の半ばで剣は止められるが充分に致命傷。
顔を全力で蹴る。
その反作用で剣を引き抜き、距離を取り、構える。
――ふぅ。
傷口から血を噴水のように撒き散らせながら、その巨体をびくびくと痙攣させている。
まだ死んでいないが、もう動けないだろう。
剣を振り、血を飛ばし、取り出した布で拭いながら戦場に目をやれば、河原に出てきたオークの最後の一匹が、フィオの魔法で撃ち抜かれたところだった。
森の奥へと数匹のオークが逃走したようだが、概ね今回の作戦は成功と言える。
グリズリーが現れた周辺を探ると、土穴を発見した。
おそらく冬眠中に、戦闘音で起きてきたのだろう。
周辺に別のグリズリーの巣らしき物は見つからなかった。
グリズリーの肉は、滅多に取れない珍味で、ちょっとした高級食材。
兄様の計らいで、集合した他の冒険者さん達にも手伝ってもらって、ある程度の量を持ち帰ることになった。
そのお蔭で、清算すると当初の依頼金の5倍ぐらいの収入。
これでお母さまに借りていた、当座の資金を返済出来る。
実に幸先が良い初任務だったね。




