ティーナの杞憂
「私とパーティーを組んで貰えないかな?」
『あー、即答はするなよ』
なんでさ? 困っている友達は助けたいのだけれど。
『まあ、待て。彼女とは5年もあっていなかったんだ。彼女の現状、良く知らないだろう?』
? さっき聞いたじゃないか。
『彼女の口からな。調べてからでも遅くない』
そんな! 友達を疑うの?
「ごめんね、急にこんな事言って。わかっているわよ? 自分でも図々しいって事ぐらい」
もう、ティーナと相談している間を、変な意味に取られてしまったみたいじゃないか。
「そんな事ないよ」
「いいえ、実際そう。5年も疎遠だった同級生にこんな事頼むなんて」
「別にいいじゃないか。ボクは忙しかったし、フィオだってそうだろう?」
「それでも……よ。クリスは有望株で私はバカをやらかして、その尻拭いとしてしかたなく冒険者になったのだから」
「でも、仕方ないじゃないか。ミスは誰だってするよ。そのタイミングが、運が悪かっただけだろう?」
ただ場所が悪すぎただけだろう?
『俺もそうは思うのだけどなぁ』
「ありがとう。ただ本当に情けないんだけど、有望な同級生が目の前にいたら、その縁に縋りたいと思ってしまったの」
「情けなくなんかないよ。ただね、ボクが迷ったのは、そう遠くないうちにこの街を出るつもりなんだ。都会のほうが稼げるからね」
「そうなの?」
「だからさ、良かったらひとまず何度か一緒に依頼を受けてみようよ。パーティーを組むかはその後でまた相談しよう。嫌かな?」
ふう。
彼女の空気が少し明るくなった。と思う。
「……本当に良いの?」
「ボクも一人じゃ受けられない仕事は多いし、今のところパーティーを組む相手も決まってないしね。友達の方が良いに決まってるだろう?」
「―—ありがとう」
「とんでもない。こちらこそありがとう。それより冷めちゃうから飲んでしまおう」
「うん」
ちょっと気まずい感じになりかけたけど、その後は小学生時代の思い出話になって、変な空気は払しょくされた。
少々盛り上がり過ぎたようで、いつの間にか日も傾いてきた。
今日はもう帰ろう。
「じゃあまた明日ギルドで」
「はい。お願いします。それから、ギルド前で待っているね」
「了解」
さて、すっかり盛り上がってしまったね。
『あぁ楽しかったよ』
ところでさっきティーナが止めたのは、ボクが街から出る事を言って無かったからじゃないだろう?
『もちろん違う』
じゃあなんでさ?
『まぁ俺が人を疑い過ぎなのかもしれないが』
うん。そう思うよ。
『……続けるが、お前が困っているところに偶然出会い、お前の事を褒めて、いい気持ちにさせた』
嫌な言い方だなぁ。
『嫌な言い方で続けると、彼女に感謝と好意を抱いたところで、同情を引き最後にお願いと来た』
……そうとも言えるね。それで?
『十中八九彼女は困っているだけだとは俺も思うんだ。だからお前と組みたい。理屈はわかる。こちらにもメリットがある』
そうだろう?
『でも15歳であんな巧みな提案が出来るのか? 少なくとも俺が15の時は出来なかったぞ。——そう思ってしまった訳だ』
……それは。
でも、君の前世とこの世界は別だからだろ。同じ15歳でも違うさ。
『そうだな。もしくは女は魔物という奴かもしれないな。バカな男の俺は気付かなかっただけで、前世でも女性はあの年であれくらいしたたかだったのかもしれない』
はぁ。余り夢を壊すような事を言わないでよー。
『正直、今のお前には多少面倒であっても、ハニートラップを仕掛ける価値があるからなぁ』
……そいつは、是非お願いしたいね。
『はっ、言うじゃないか。童貞の妄想の定番だよな』
うるさいよ。
『とにかく。お前の市場価値は高い。これは自覚して欲しい』
『その上で今日の彼女の態度を思い出すとだ。本当にあの会話は、交渉というか営業のお手本なんだ。褒めろ、具体的に褒めろ、過程を褒めろ。ってな』
『ついでに偶然の出会いを演出する、そこまで付け加えると詐欺師の基本なんだよ』
……なんだかなぁ。
少し、君の事が可哀想に思えてきたよ。
つまり何かい?
ギルドの外での勧誘はサクラだった可能性か。
『もちろん全部疑っていたらキリは無いし、それで動けない奴はチャンスをつかめない。幸い今回はお前に縁のある農場での事件だ。裏を取るのは簡単だ』
あのさ、本当に裏を取らないとダメ?
『信頼しているから裏を取るんだよ』
なんていうかその理屈はよくわからないけど……。
『後は男がいないか。だな……』
えっと。それって何か関係あるの?
もしかして、彼女気に入ったの?
『話した印象は良い娘と思ったが、それは少し違うな』
はいはい。
『まあ蛇足だ。俺が前世……というより日本にとらわれ過ぎなのかもしれない。もしくは冒険者という言葉に誤解があるだけかもしれない』
どういう事?
『アウトローな仕事をする女って、現代日本じゃ絶対にバックに男がいるんだよな』
……何を言っているのさ?
ここはティーナのいた世界とは違うだろ。
ボクには君の世界の感覚を完全にわかるとは言えない。
ただ、ボクの感覚では女性が冒険者をする事自体は当たり前だよ。
『それはそうだが。アウトローな仕事と女って、俺は良い思い出が無いんだよ』
……参考までに何があったか聞いても? いややっぱりやめて。
『じゃあ具体的には言わないが、仕事である女が原因でトラブルになった。その途端にバックの爺さんが出てきて、その爺さんが大物だった。そしてこっちがケツを拭くはめに……』
わかった! もうやめて。
ボクが悪かったよ。
ちゃんと裏は取るから。
後日、農場に確認したところ、確かに事故の一件でフィオは仕事を辞めていた。
要するにティーナの杞憂だった訳だ。
『いや……すまんな、問題なくて良かったよ』
なんか釈然としない気もするけど。
良かったのかな。




