冒険者になろう
朝目を覚ますとお父様はすでに騎士団に行ってしまっていた。
顔をあわせるのも、何故か気まずいので助かった。
朝食を取り、着替える。
剣はいつも手入れをしているが、出かける前にもう一度確認。
うん。問題ない。
「それではいってきます。お母様」
「えぇ、気をつけてね。今日は帰ってくるのでしょう?」
「そのつもりです」
「わかったわ。いってらっしゃい」
「はい」
さてようやく冒険者ギルドに登録だね。
『テンプレがあるか楽しみだぜ』
テンプレね。ごろつきに絡まれる、でしょ?
『それそれ。ガキは帰りな! みたいな感じだ』
絶対ありないって。わかっていて言っているよね?
『確かに俺たちはガキに見えないからな。俺的設定は22、3歳だし』
その話しはちょっと勘弁かな。
実際の見た目は17,8ってところだけど。
『まぁ、日本人的感覚だからな。しかし昨日の盛況ぶりを考えると、絡む奴がいたら相当のアホだな』
流石にそう思うかな。
冒険者ギルドへ到着し、中へ入る。
意外にも人が多かった。
受付のお姉さんに登録時に、この盛況はいつもの事なのか尋ねると、
「昨日は中学校の卒業式でしたから。毎年この日はパーティー勧誘の為にここで待っている人が多いのですよ」
と言った回答だった。納得だ。
「クリスティーナさんはBランクで登録しますね」
「良いのですか? まだ実績ありませんよ」
普通15歳の正式登録時、スタートはCのはず。
「それを踏まえてです。戦闘技能だけでしたらSランクですから。凄いですよね、副団長に勝つなんて」
「あはは。ありがとうございます」
改めて褒められると嬉しいな。
――さて登録を済ませた。
さっそく、依頼を受けたいところではあるが、人数が多いので依頼票を見るのが大変だ。
『出直さないか?』
なんでだい? そう答えたところで声をかけられる。
「クリスティーナさんですね。良かったら僕とパーティー組みませんか?」
「おいおい新人は引っ込め。クリスさんうちに入りません?」
……なるほど、撤退しよう。
笑って「考えておきます」と答えて、ギルドを後にする。
ところが外に出ても、まだ何組も勧誘者はいた。
次から次へと声をかけられ困っていると、
「どいて、どいて。もうクリスは私と組むって決まっているの」
そう言いながら一人の少女が声をかけてきた。
彼女はこちらに近づき、小さな声で「フィオよ、同級生の。話し合わせて」と囁いてきた。
「いや交渉中なんですよ。では、すみませんが失礼します」
集まっていた人達に、一声かけてから彼女と共にギルドを離れた。
『知り合いか?』
うん、小学校の同級生。フィオナ・アップルさん。
『そうか。仲は良かったのか?』
彼女は明るくて、クラスの中心だったからね。それなりかな。
そんな話しをしているうちに大分ギルドから遠ざかった為か、彼女が振り返った。
「久しぶり。クリス」
「あぁ久しぶりだね、フィオ。さっきは助かったよ。ありがとう」
「良いのよ。折角だし、これから時間ある?」
ギルドには時間を空けて戻るし、
「急ぎの用事はないよ」
「そう、ならもう少し離れたところにある、カフェでお茶でも飲まない?」
「ならそうしようか」
二人で再度歩き出す。
『あの子、中学にはいなかったよな?』
うん。小学校卒業して働いていたはずだよ。
『なんで今日はあそこにいたのだろうな……』
確かにそうだね。でもそれはこれから聞けば良いじゃないか。
「ついたわ。ここよ」
全国展開している一般的なコーヒーチェーンに到着。
注文した飲み物を受け取り、適当な席につく。
「改めて久しぶり、元気にしていた?」
「もちろん。君はどうだい。フィオ?」
「それなりに…ね。それよりも昨日の話し聞いたわよ。お父さんに勝つなんて、凄いじゃない!」
「ありがとう。まぐれで勝った部分も大きいけどね」
「それでも凄いわ。中学時代は随分努力したのね」
今日は色々な人に褒められるな。
『結果だけじゃなくて、過程について触れられるのは良いものだな。しかし……』
「確かに、努力はしたけどね。」
「サラッと言うのだから。本当に凄いわ」
『……』
どうしたの?
『ちょっとな。それで、この子は今何をしているんだ?』
あぁ、そうだったね。
「それでフィオは今何しているの?」
「それがね。クリスと同じよ」
「えっ?」
「冒険者……になったばかりなの」
「あれ。確か就職したんじゃなかったっけ?」
「農場に就職したのだけれど、ちょっとミスしちゃってね」
「そうなんだ。どうしたの?」
デリカシー無いかな?
「クリスは聞きづらい事を、しれっと聞くわね」
「ああゴメン。言いづらいなら良いよ」
「良いわ。私からお願いもあるし、その為には話さないとね」
お願い?
「そのね。農場で警備をしていたのだけれど、この間夜勤の見回りをしていたのよ」
……どこかで聞いたような。
「それでいつの間にか柵の中に、ゴブリンが5匹入り込んでいて」
「上級魔法を使って殲滅したって話?」
「そう。それ私の話」
「またなんで、そんな事をしたのさ?」
「やっつけないと、って焦ったのよ。初級魔法で倒すと、倒しきる前に何匹かこちらに接近されるでしょう? 3匹相手とかだと、危ないかも知れないし。クリスなら別なのだろうけど」
「後退しながら魔法で1匹づつ倒すとか、応援を呼ぶとか」
「後から考えるとまさにその通りだし、実際に『応援を呼べ』って叱責されたわよ」
「言い訳するなら、いつもは柵の外で見つけて上級魔法で殲滅しても褒められていたの」
「それは、外だからだよね」
「まさしくその通りだったって訳」
ありゃりゃ。
「それで最悪だったのが、そこが試験場で、その時は裏作で小麦育てていてね」
うわ、本当に最悪だ。
この国では小麦は嗜好品だから、主食のお米の何倍も高い。
しかも試験場なら依頼者への賠償金とかあるかも。
『同じことを田んぼでした場合の100倍ぐらいの被害額かね』
「一応は私の言い分も多少は考慮してくれて、賠償は分割にしてくれるって話しにはなったけどね。ただあそこで働き続けても、返済にいつまでかかるかわからないじゃない?」
「だから冒険者になったって事かい」
「そういう事よ」
災難だなー。ちょっとかわいそう。
「大変だったね」
「本当にもう最悪よ。なんで私が! と思ってしまって」
「うんうん。わかるよ」
「そうよ! ……いえ確かに私が悪かったのだけれどもね」
盛大な溜息を吐くフィオは、どんよりとした雰囲気だ。
参ったな。
「それでさ、ここからがお願いなんだけど」
「どうしたのさ?」
『……』
「私とパーティーを組んで貰えないかな? 知らない人と組むのも不安なんだ」




